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空 佳吹さん

そら かぶき…です。 ちょっと奇妙な小説を書きます。どうぞ宜しく!

性別 男性
将来の夢 作家
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人生という名の旅路

17/07/04 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 空 佳吹 閲覧数:204

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 秋の、ある午後……
 二十数年間も音信不通だった友人からの荷物を持って、ある人が訪れた。
 私は、一身上の都合で引っ越しを繰り返し、半年ほど前に今の住まいに落ち着いた。
 そのため、その人は、何年も色々な都府県を旅して回り、ようやく私の所在を突き止めたという。
 私は、その友人からの手紙を渡され、ドキドキしながら封を開けた。

 『前略、元気ですか?
  お互い五十才を過ぎた頃ですが、楽しい人生を送ってますか?
  僕は、もうだめなんだ……。
  君がこの手紙を読む頃には、僕はすでにあの世に逝(い)っていることだろう……。――』

 その荷物は、その友人の――
「僕が他界して、しばらくしてから届けてくれればいいから」
 ――という遺言を受けて届けられたものだった。

 『病室で、暇を持てあましながら考えてみると、君から借りて返してない物が意外に多いことに気付いた。
  就職の面接の時に借りた、ボールペンやポケット地図や靴下。
  それから折りたたみ傘とハンカチ。
  その後も使ってたんで、返しそびれた。
  申し訳ない……。――』

 社会人一年生になる前も、時々、私のアパートに訪ねてきていた。
 すると翌日、細々(こまごま)とした物が無くなっていた。
 原因は分かっていたから、それほど気にはならなかった。
 こんな風に荷物には、今さら返してもらっても……と思える物も入っていた。

 『そうそう高校一年の時に借りた英和辞典……これは、ずいぶん助かったよ。
  当時、外人のペンフレンドがいたもんだから……。
  長いこと借りっぱなしで、本当に申し訳なかった。――』

 当時、まだ家族と同居していた私の自宅に、彼が遊びに来た時、妙に、はしゃぎながらも困っていたので、仕方なく英和辞典を貸したことがあった。
 私自身は、そんなに使わなかったから……。
 今さらながら、黄ばんだ過去との再会が訪れるとは……。

 『こんな感じで、無断で借りた物を揃えながら書いていくと、君と付き合っていた頃が、むしょうに懐かしい……。
  出来れば、もう一度、昔に戻って、色々なことを語り合いたいよ。――』

 それは私も同じ。
 彼が見ず知らずの女と姿を消す前夜、もっと彼を説得していれば、ひょっとしたら……と思うこともあった。
 そうすれば、あんなカタチで彼が行方知れずにならず、彼の葬式に参列できたかも知れない……。


  『君から、無断で借りて、借りっぱなしになっていた物は、こんなところだろう……。
  すべて荷物に入れておくから、必ず受け取ってほしい。
  どうも年というか……慣れない手紙なんてものを書いたせいか、ひどく疲れてしまった……。
  すまないが、このあたりでペンを置かせてもらうよ。
  最後に、これだけは分かってほしい。
  君から借りた物を返せなかったのは、君との仲を、どうにかして、つなぎとめておきたかったからなんだ。
  しかし、それは僕の我ままであることも分かっていた。
  本当に悪かった。
  申し訳ない……。
  君には本当に迷惑をかけてしまった……。
  どうか許してほしい。
  それじゃ、さようなら……』

 私は、目から涙がこぼれるのを耐えながら、この荷物を届けてくれた人に目をやり、
「……とりあえず、お帰りなさい――でいいのかしら?」
「あー、ただいま」
「本当に長い間、ご苦労様でした」
「仕方ないよ。彼は僕の親友だったんだから……。君は知らないだろうが、何度か助けてくれた事もあったんだ」
 夫と再会するのも、二十数年ぶりだったのである。


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