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misamisaさん

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夢の見方

17/07/03 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 misamisa 閲覧数:216

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 降り注ぐ夏の陽射しを反射して、眩しく光る海。鼻腔をくすぐる潮の香り。ずっと遠くからここまで旅をしてきた波が、海岸に打ち寄せては消えて行く。
 それはとても不思議な景色だった。どこか知らない所のような、現実と憧れの狭間のような風景だった。
「なんで私は魔法が使えないんだろう」
 でもここは、やっぱり理屈で説明出来ることしか起こらない、どこまでも平凡でつまらない世界。
「突然どうしたの?」
 ほんの少し笑みを滲ませていたけれど、口調には呆れがしっかりと表れていた。
「だって魔法があった方が素敵じゃん」
 私は魔法使いみたいに人差し指で宙に丸を描く。絶対に何も起こらない、そう確信しながら。
「素敵だけれど。でもしょうがないだろ。ないものは無いんだから」
 夢も見させてくれない彼の返事に、私はただ溜息を返した。これだから、この世界はつまらない。
「きっとさ、ないものだから魅力的に見えるんだよ。もしここが魔法の存在する世界だったら、きっと今みたいなことはそもそも考えないんじゃないかな」
「そんな言葉じゃ納得出来ないよ」
 君は本当に強情だなあ、と彼は笑った。
「海はこんなに綺麗なのに、どうしてそれだけじゃ人間は満足しないんだろう」
 私は海に手を伸ばす。それに気づいた水が、私とハイタッチをするために大きく波打って、冷たい水がパシャリと私の手にぶつかる————そんな想像をして、ひとり微笑んだ。
「どういう意味?」
 彼の問いかけに、私はそのままの姿勢で答える。
「海水のこととか、海に住む生物のこととか…そういう、人間が元々知らなかったことを人は何でも調べちゃうでしょ。知らないままなら、夢も見られるのに」
 昔、海には人魚がいると言われていた。
 でも今はもう、そんなものは居ないと分かってしまった。
 しかも研究者たちは現代人の夢を壊すだけでは飽き足らず、「昔の人はジュゴンを人魚と間違えたのだろう」なんていう言い方で、人魚を信じていた人たちの夢すら汚すんだ。
 どうして、人間は分からないことがあるとすぐに調査をして、自分たちが描いていた夢を自分たちの手で消し去ろうとするんだろう。
「人間の探究心は罪深いとか…そんな話になるのかな?」
 彼の言葉に、私は頷いた。
「うん、罪深いね」
 誰かが人魚は居ないと知ってしまったせいで、世界中の人の中から人魚という夢は消えた。
 こうやって、科学技術が発展すればするほど私たちの周りは現実ばかりになって行く。それが、私はとても怖かった。
「大丈夫だよ。誰が何を発表しようと…君の想像力を消せはしないさ」
 私は初めて彼の方を見た。
「どうしてそんなこと言えるの?私だって、どんどん夢を見られなくなってる。信じたいのに、どうしても『ありえない』って思考が消えないんだよ」
 彼は、優しく笑った。そして私をあやすような口調で、彼なりの答えを囁く。
「大丈夫だよ。今の君が何かを信じられなくとも、かつての君が夢を見ていたことを忘れない限り」
 それはきっと、とても難しいことだ。
 私には分かる。こんなに抵抗しても、大人になって行く自分を、世界を知ってしまう自分を止めることは出来なかった。
 けれど。
「そうかな。出来るかな」
 言葉を信じたフリをして、ここは逃げてしまおう。
 夢を見ることを忘れてしまった自分を悲しいと思うのはきっと今の自分だけ。忘れてしまったら、きっと悲しくすらない。だから、気にしても仕方がないのかもしれない。
「出来るよ」
「うん」
 私は彼の言葉を受け入れた。
 いつか夢の見方を忘れてしまう日が来るまで、ここで夢を見ていよう。


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