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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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三ツ石にて

17/07/03 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 そらの珊瑚 閲覧数:161

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「太平洋の荒い波が、かつてひとつであった石さえも、みっつに分断させたのよ」
 高校生になり小説家志望になったミイナはとかく戯言ばかりを云いたがったが、ここでならその言葉が信憑性をもって語りかけてくる。
 干潮時にだけ現れる海に出来た通路を渡りながら、僕らは三ツ石と呼ばれている大きな三つの岩が並んでいるところまで歩くことにした。

 海に溶けた塩は、なめればしょっぱいし、うっかり目に入ろうものなら思わず悪態をつきたくなるほどの痛さを伴う。
 だけど真水では沈んでしまう塊が塩水であるがゆえに浮かび上がって踊ることがあるらしい。
「ねえ、知ってる? 漁船が仕掛けて置いた網を引き揚げる時に、時折人間の溺死体がかかっているんだって」
「知らないけど。漁師さんたちは驚くだろうね」
「それがね、別に驚かないんだって。よくあることらしいわ」
「ふうん。それでどうするの?」
「海へ戻すに決まってるじゃない。溺死体なんて売り物にはならないし、港に持ち帰ったところで、厄介なだけじゃない」
 その話が本当かどうかは別にして、願わくば溺死体にはなりたくないと僕は思った。

「あっウミウシよ。可愛い」
 ミイナが拾い上げたのは、巨大なナメクジのような生き物だった。
「大丈夫、毒はないわ。触ってみて」
 原色の青色の体の所々に赤い斑点があり、毒はないと云われても、触るには抵抗があり、いつまでもためらっている僕に、ミイナは少しいらついたように小さなため息を漏らした。海の道に出来た潮だまりに、取り残されたその奇妙な形の生き物は(彼らからみたら人間のほうが奇妙な形であると思うかもしれないが、必然の形というものはいつだって美しく奇妙だ)神から与えられた日曜日を、のんびりと謳歌しているように見えた。
 
 陽に照らされて塩水の小さなプールがぬるま湯になっていく頃、ふたたび潮は満ち始める。海の道がなくなってしまったら、僕らは陸地には戻れないだろう。ミイナは魚になれるかもしれないが、意気地のない僕は嫌だけれど溺死体になるしかないだろう。

 僕の自意識はここらへんのサザエの角みたいに尖りながら、海底のくぼみにしがみついている。幼馴染のミイナのことを好きだと気づいた小学6年生くらいから、もう六年くらいずっと好きと云えずにいる。
 それでもいつか丸くなったらカモメにでも食べられてもいいかなと思う。
 カモメが食べたサザエの残骸が時折岩場に落ちている。そう、螺旋の実体を押しとどめているサザエの蓋だよ。
 裏に渦の模様が描かれている、ちょっとばかり綺麗な、あれ。
 ミイナはそれを拾っては、トラピスト修道院の飴の空き缶の中に、手柄を立てるみたいにして入れるのさ。
「世界で一番そこが最適な箱。ねえ、ふってみて、いい音するでしょう」
 それがそんなにいい音とは思えなかったけれど(正直にいえば耳障りな騒音だった)僕はうなずいたっけ。「パパには新しい家族ができるんだって。パパにとってここは最適な場所じゃなかったのね」そう云うミイナをこれ以上悲しませたくはなかったから。
 ミイナが最後に家族三人で行った北海道旅行の思い出の空き缶。そのあと、ミイナの両親は離婚し、ミイナは母親と暮らしている。
 修道院のバター飴がとても甘いのは、ほんのわずか塩を加えているからだって。
 その密やかな隠し味に気づくまでの時間に、君はあちこちまだらに虫歯を作ってしまったようだけれど、全てを台無しにしたわけじゃないだろう。
 
 三つの石に渡された注連縄(しめなわ)は、びょうびょうと風に唄って結界を張っているんだとミイナは云う。
 海と陸。
 あちら側とこちら側。
 溺死体は永遠に海をさまよい、僕らは陸で生きていく。ミイナにいいことばかりが起きたらいいと思うけど、それは祈りであって、現実とは違う。
 おそらくこれからも変わることのない原生林が閉じる半島の(真水と塩水が混じり合う場所)先端で紡がれる奇岩の物語として、哀しいけれど、そう悪くはない。
「さあ、そろそろ帰ろう」
 僕はミイナの手を取った。
 


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