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瀧上ルーシーさん

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性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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マザー

17/07/03 コンテスト(テーマ):第139回 時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:4件 瀧上ルーシー 閲覧数:673

時空モノガタリからの選評

入院中の母にテストの答案を見せるための小さな旅。大人にとっては大したことない距離でも、子供にはなかなかの旅なのですね。いじめにもめげずに母を励ますために必死に頑張る少年の姿には、健気な中にも力強さがあり、読後感が良かったです。特別に大きな出来事が起きるわけではないストーリですが、子供の視点でそのひたむきさ、戸惑いが素直に丁寧に書かれていて、素直に共感できました。

時空モノガタリK

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 蒸し暑い放課後、校庭で数人の生徒が丸まっているぼくの背中を何度も蹴りつける。身体で覆い被さって黒いランドセルを守った。この中には絶対にお母さんに見せなければいけない物が入っているのだ。敵達にランドセルを取り上げられたら、高い確率でそれは破り捨てられる。ぼくは敵達が飽きるのを待った。背中は痛いが彼らは限度というものを弁えている。やり過ぎれば親に密告されるということを知っているのだ。背中を踏みつけられるのはたしかに痛いし苦しい。だが大切な物を守った。ぼくは去年の今頃から敵に虐められるようになった。何が気にくわないのか知らないが、身体が小さく真面目に授業を受けているのが気に入らなかったのだと思う。うちのクラスは軽く学級崩壊していた。
 そうして校庭の土でぼくの着ている服がどこもかしこも茶色くなる頃に敵達は「飽きたから家でゲームしようぜ」などと言って自分達のランドセルを背負い校門から出ていった。
 背中はずきずきと痛むがこうしてはいられない。走ってマンションまで帰るとドアの鍵を開けて中に入る。いつものことだが誰もいない。シャワーを浴びて綺麗なTシャツに着替えるとランドセルからファイルごと大切な物を入れ替えて、リュックを背負い家を出た。そうしてマンションのエントランスから出てすぐの駐輪所で子供用のマウンテンバイクに乗り、お母さんがいる所まで行くことにした。一人でそこまで行ったことなどない。道もわからない。だが前にお父さんと話をしたら最短ルートを通れば自転車で一時間もしないうちに着くと言っていた。
 ぼくはまず国道に出た。最寄りの駅に行く道くらいは知っている。その周辺の奥まったところにある建物の中にお母さんはいるのだが駅前の交番でお巡りさんに道を聞けばいいと思い暑い中ぼくは一心不乱に自転車のペダルをこいだ。
 お母さんは今はああいう状況だが昔は大学の研究室で働いていたらしい。お父さんはお母さんとは逆のような生き方をしていて今もきっと元気に肉体労働に勤しんでいる。
 時刻は午後三時を過ぎたばかりで外は炎天下だった。身体中から汗が噴き出てくる。日差しよけの帽子くらいかぶってくれば良かった。そうしてまたペダルを漕いだ。国道の一直線の道を車がびゅんびゅん飛ばして走っていく。お母さんは免許証を持っていないらしいが、ぼくは男なのだから年頃になったら普通免許を取得したい。
 そうして一時間もかけて駅前の交番についた。お父さんが言っていた所要時間は大人の足での話だったらしい。田舎の駅前なので閑散としている。小さな交番に行くと、中には誰もいなかった。電話と必要があれば連絡をしてくれと書いてある紙が置かれているだけだった。一応お母さんがいる場所の住所だけは控えていたし電話で道なんか聞いても混乱するだけだと思い、ぼくは交番を後にした。
 駅を後にしてふたたび自転車のペダルをこぐ。電信柱に書いてある住所を見ながら、お母さんがいる場所の付近を徘徊するように自転車を走らせた。行きすぎたり戻りすぎたりで中々辿り着かない。人も殆ど歩いていないしコンビニすらもない。それにぼくは知らない人と話すのが極度に苦手だった。孤立無援の旅だった。ボスキャラを倒さないでいいことだけがロールプレイングゲームの旅よりマシなところのように思えた。
 外が段々と薄暗くなっていく。ぼくは泣き出しそうになっていた。それでも辛抱強く電信柱に書いてある住所を見ながら移動すると、ついにお母さんが入院している病院に辿り着いた。そこは白くて四角い建物だった。夏なのでまだ真っ暗にはなっていないが面会時間が終了する一時間前の午後七時になっていた。
 小さな病院だが受付を素通りしてお母さんが入院している病室に行った。
 ぼくの顔を見ると、お母さんはとても驚いた顔で「どうしたの?」と言った。もう何年も美容室に行っていないような長い黒髪のお母さんは前見たときよりやせ細っているように見えた。
 ぼくはリュックからファイルを取り出して、その中に入っている算数のテストの答案用紙をお母さんに渡した。答案用紙を持つお母さんの両手が震えていた。
「よくがんばったねえ……身体に触らせて」
 言われてベッドに腰をかけるとお母さんはぼくの身体を長い時間抱いた。
 昔お母さんが家に居た頃テストで九十六点を取って見せたら百点を取ったら絶対に見せてね、と彼女は言ったのだ。ついつい家ではゲームばかりしていて百点を取るのがこんなに遅れてしまった。
 そうしてお母さんは少しの間ぼくと話すとナースコールを押して、またしばらくしてお父さんが車で病院までぼくを迎えに来た。「勝手なことするな」と言ってお父さんはぼくの頭を小突いた。
 ぼくの半日にも満たない旅は終わった。
 これからもテストで百点を取る度にぼくは大好きなお母さんにそれを見せにいくだろう。


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このストーリーに関するコメント

17/08/06 凸山▲

拝読しました。
テストの良い結果をお母さんに知らせる……何ということもないはずなのに、こんなにも冒険のような旅になる。
その現実にひたむきに立ち向かう「ぼく」の健気さが心に染みます。
どこかブツ切りに感じられる風景・心情描写も、一日を振り返って「ぼく」の書いた日記であるかのようで、それを覗き見てしまったような読後感がありました。

17/08/06 瀧上ルーシー

トッテン様、感想ありがとうございます!
こんな息子がいたら母親は嬉しいだろうなあと思いながら書きました。
「ぼく」を気に入っていただけたのなら幸いです。

17/08/29 光石七

入賞おめでとうございます!
遅ればせながら拝読しました。
お母さんに百点の答案を見せるために、いじめっ子からランドセルを守り、病院まで小さな冒険の旅をした「ぼく」。読みながら自然と応援していました。
子供の目線で情景も心情も素直に書かれていて、「ぼく」のお母さんへの思いの強さが伝わってきました。
願わくば、お母さんの病気が良くなりますように。
素敵なお話をありがとうございます!

17/08/30 瀧上ルーシー

光石七様、感想ありがとうございます!
応援までしてもらって「ぼく」は幸せ者です。
母親の病気もきっと良くなるでしょう。
素敵な感想をくださいまして嬉しいです。ありがとうございます!

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