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入江弥彦さん

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私達のブーム

17/07/03 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 入江弥彦 閲覧数:251

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 世代ごとに色々なブームというのがあると思う。
 昔は一メートル以上ある靴下が流行ったって聞いたし、日本語を崩して使うのも可愛いとされていたらしい。どうやってそんな靴下をはいたのかもわからなければ、崩した日本語を使う意味も分からない。
 放課後は先生に呼ばれて少し遅くなったけれど、いつものように防波堤まで歩いてきた。断れない性分なので、友達との待ち合わせに遅れてしまうとはわかっていても、つい、先生の手伝いをしてしまう。
 今日の海は穏やかで、水平線の先には大きな雲が見える。近くを見ると、スクールバッグが三つ、まとめて置いてあった。そこに自分のものを置くと、集団に混ざった気になってなんだか少し安心した。
 ベストも置いてあるから、きっとみんな脱いだのだろう。ベストを脱ぐのは嫌いだったけれど、皆と一緒じゃなくなるほうが嫌だ。少し悩んだけれど、ベストを脱いでバッグの上に置いた。
 助走をつけて、おもいきり海に飛び込む。
 海水で膨れ上がるスカートをおさえながら、海底目指して沈んでいく。丸襟のブラウスはすぐに海水を吸って体に張り付いた。それを両手で引っ張るようにしてやると、お腹のあたりが丸くなる。朝に必死にセットした髪の毛は、海面を目指して揺れていた。
 正直、海のなかというのは、あまり快適な場所ではない。
「アヤネ、来たんだ!」
「ちょっと手伝いで遅れちゃった」
 先に海底に降りていた友人たちが、砂を蹴って私のもとへ駆け寄ってくる。それに驚いた魚が、勢いよく逃げて行った。
 いつもは海底に輪になって話をしているのだけれど、今日は少し違った。
「何してたの?」
 なんだか自分が仲間外れになったような気がして、少し焦りながらそう聞いた。
 すると、彼女たちは顔を見合わせてから私についてくるよう促した。
 海底はあまり静かではなくて、大きな声を出さなければ会話ができない。
 みんなは気にしてないようだったので私も黙っていたが、口から入ってくる水の不快感がとても嫌いだった。
 歩きづらい海底を少し進むと、見えたのは小さな家のようなものだった。
 廃材を使って作った、人が三人くらいは入れそうな場所。
「秘密基地つくったんだ!」
「へ、へえ、すごいね!」
 中学生にもなって秘密基地なんて、ということは言わずにただそう返した。
 海底に差す陽の色が変わり、みんなが海面を見上げる。
「そろそろ時間かな?」
「アヤネはあんまりいれなくて残念だったね!」
 全然そんなことをおもっていないかのような口調で彼女たちは顔を見合わせる。
 海底を軽くけると、友人たちの体が浮き上がる。ふわりと広がったスカートが背びれみたいに見える。
「アヤネは上がらないの?」
「せっかくだから秘密基地見て帰ろうとおもって」
 そう言って手を振ると、彼女たちはふうんといって水を蹴っていった。
 三人分の水の流れ。
 秘密基地に入ると、奥に三人の名前が書いたプレートが置いてある。
 ベストを脱いでくるべきじゃなかったな。


 秘密基地が壊れたのは、それから数日後。私が、琴られない性分だからと言って彼女らから掃除当番を引き受けていた時のことだった。
『危険! 子供たちの海底遊び!』
 そんな見出しが新聞に踊るようになって、みんなはより一層海底に潜るようになっていった。
 花を手向けるという理由をつけて。
 みんなが同じ理由で、一つの集団として海底に潜る。
 私たちの世代は、海底で遊ぶのがブームだ。


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