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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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海辺一景、声多数

17/07/02 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:201

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 浜に散在するものたちの意識は、夏を終えて多数過ぎる標的を失い、珍しく現れた一個体に集中する。
 麦わら帽子がよく似合う女だ。ヤドカリは宿替えに相応しい日を待ちながら、片方の目で女を視認した。
 かがんで何かを拾い集めている、もう冷たいよ、サンダル濡らすと乾かないし、もう夕方がすぐだ。拾われて耳に当ててもらえないかと口角を控えめに上げながら巻貝は女の様子をうかがっていた。
 にっこり笑うと、前歯が一本ない。どうしたんだ、差し歯が抜けたのか、歯医者を最優先にできないなんて、お金に困ってるのかな? 見たところ成人女性なのに。主に忘れられたサーフボードが、女の心配をしている。拾ってくれないとはわかっているけど。心配性は彼の性格。ビッグウェイブと天災の差を知るものが故の、心配性。
 ビーチグラスのやつ、いいなぁ。にっこり笑うのは、ビーチグラスを拾った時だけ。そっか、目的がそれなんだね。何を作るんだろう。麦わらにオーバーオール、芸術家なのかしら。ウニの殻が砂を揺さぶってこぼしながら、ビーチグラスをうらやむ。ただの年取ったガラスのカケラだのに。こっちの方が形状を保ってる分、位が高いんだからね。
 それを持ち帰って何にするんだい。肩掛けの鞄に大事そうに詰め込んで、誰か訊いてくれないか。波を漂う電気クラゲは思った。伸ばした触手に毒を仕込んで待っているのは誰。もう、夏は、終わったのに。
「それ、どうするんだい?」
 クラゲのの願いがかなった。人気のない季節外れの海に、もう一個体の登場だ。これで、会話が聞かれるぞ。

 男は両の腕に派手なイレズミ。丁寧過ぎるほどに整えられた銀色の短髪とあご髭。アロハシャツはきっと何万円もするんだろうな。正規の値段で買ったかどうかは怪しい話だけどと、ヤドカリは女を見ない方の目で男を視認した。
 危険かもしれないよ、あ、「あのう、工房に持って帰ってそのう」なんて、抜けた歯を見られないように、ごにょごにょ言って、その類の男は対応を間違うとオオカミ通り越して殺人鬼になるぞう。巻貝はいつか見た蜃気楼を質草にしても守らないといけない秩序のあることを、肉体に刻み込んでいる。
「あれ、歯?どしたんだ」この野郎、野暮なことを訊く奴だな。もう、お前にだけは危険な波の到来を教えてやるもんか。サーフボードは次の大波を海の向こうに探しながら、憤っていた。
「あ、あのう、今朝、ばあちゃんにもらったトウモロコシ食べてたら、ぽろって、へへ、安い差し歯だから。今日歯医者さんお休みで。ごめんなさい」「謝ることじゃないぜ」ウニの殻は思っている。工房で私は何かのお役にたてないものかなと。
「で、工房で何作ってるんだい?」「あ、あの、色々、そのこのビーチグラスでその、貼り付けまして、綺麗な植木鉢なんぞを、へへ」愛想がいいのはいいけれど、私はあなたにこの金言をあげたいわね、我も人なり、彼も人なり。ビビったら負け。電気クラゲは毒の分泌に過剰を促す。

「あ、あ、あのそれは、ファファ、ファッションですよね、今時のヒップホップ、悪いやつみんな友達ー、ね」
「いや、ヤクザだよ」
 男がアロハシャツを脱いでも、背中がまだアロハオエ。灯台は、灯台守に合図を送る準備をしながら、男の背中の文様を目を細めて捉えていた。
「怖いかい?」
「は、はい、あの、ヤクザの方とお話するのはその、初めてなんで」
「まぁいいよ、怖がられてなんぼの商売さ」
「あの、お兄さんはその、何をしにここへ?」
「うーん、沖のクルーザーから沈めた仏さんに重し抱かせるの忘れたから、ここに打ち上げられるだろうって、親分が」
 ちょっと待て、笑えない冗談は笑えないな。お嬢さんが怖がって抜けた歯の隙間をベロでレロレロしているではないか。ちぎれかけた雲が空から女をいたわる。
「冗談だよ。これさぁ」
「はい、え、スイカのビーチボール?」
「ううん。ガキの頃にね。兄貴のこれをさ、勝手に持ちだして遊んでたら波にさらわれちゃってね、自分のだったら泣いて帰ったんだろうけど。兄貴おっかねえから、途方に暮れて突っ立ってたんだよ。したら、取ってきてあげるわって、人魚に言われたんだよな。でさぁ、待ってたらホントに持ってきてくれたんだけど、その記憶がなかったのずっと。ビーチボールは戻って来たけど、誰が取って来てくれたのか。そこんところの記憶。でも俺ね、最近事故って臨死体験ってやつしたのよ。したらそのこと全部思い出してさ」
「はい」
 ちょっと待て、はいじゃないだろう。人魚なんて作り話に騙されるな、泡姫にされてしまうぞ。カモメのジョージが、っあっあ鳴いても、女は男の話を信じて疑わない。
 カモメのジョージさん、大丈夫だ。この男のことはガキの頃から知ってる。悪い奴じゃない。ビーチグラスが丸い思い出をたどる。

 
   
 
 
 


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