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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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海に連れて行ってください。

17/07/03 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:332

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「海に行きたいんですけど!」
 妙にはきはきと声をかけてきたのは、小学校一年生ぐらいの男の子だった。
 駅前のファーストフード店。百円の飲み物だけで粘っていたら、変な子供に声をかけられた。平日なのに学校行かなくていいのか。背中に背負っているのはランドセルじゃなくて、大きなリュックだけど。ま、高校の制服姿の私も、人のこと言えないけど。
「行き方わからないんです。連れて行ってください。電車のお金はあります」
「待ってよ」
 言いたいことはたくさんあるけど。
「なんで私?」
「お姉さんが暇そうだったからです」
 はきはきと酷いことを言う。まあ、暇だけどね。学校もさぼったわけだし。
「海、ねぇ」
 暑い日が続いている。海が見たい気持ちがないわけではない。
「どこの海?」
「ここから一番近いところでいいです」
 はきはき喋る、しっかりした子供だこと。
「名前は?」
「小太郎です! 六歳です」
 賢そうな顔をして、じっと私を見る。
 まあ暇なのだ。そろそろこの店に居座るのも限界だったし。
「……行くだけね」
 トレーを持って立ちあがった。

 一番近い海も、電車で一時間ぐらいかかる。
 ボックス席に向かい合わせで座る。人はまばらにしかいない。
 小太郎は、真剣な顔をして外を見ている。
 なんで海に行きたいと思ったのだろう。訊いていなかったが、そもそも下の名前しか知らないところでお察しだった。理由なんてもはや瑣末でしかない。
 私は、細かいことを気にできるようなタイプじゃなかった。
「あ」
 小太郎が声をあげる。視線を向けると、海が見えてきた。

「転ばないでよ」
 電車を降り、海岸の方に走っていく小太郎に声をかける。
 きょろきょろと辺りを見回しながら、足早に進んで行く。何かを探しているかのようだ。海を必死に見つめている。
 私はちょっと後ろをついていきながら、黙ってそれを見ていた。
 しばらくして、
「……いないなぁ」
 小太郎が、小さく呟く。ずっと真面目そうな顔をしていたのに、ここにきて急に泣きそうな顔をする。
「何か探してるの?」
 歩き疲れたのか、砂浜に腰を下ろした小太郎。その隣に座る。砂が、少し熱い。
「笑わないで」
「笑わないよ」
 ここで何かを言って笑うような人間は、そもそも小学生を連れて海まで来たりしない。
「人魚を探しているの」
「人魚?」
 私は綺麗とは言い難い海を見つめる。
「この海にはいないんじゃない?」
「そっかぁ」
 しゅんっと小太郎が肩を落とす。
「何で人魚?」
「人魚の肉を食べると、不老不死になるって漫画で読んだの。お母さんにあげたくって。ずっと入院してるから……」
 なるほど、母親が不在だから、この子はこんなしっかりした子供だったのか。
 だけど、
「不老不死は病気を治すことには繋がらないよ。不老不死でも、けがをすれば痛いし、病気になれば苦しい。どんなに酷いけがをしても、どんなに重い病気になっても、死なない。死にそうなぐらいつらくても、死ねないの」
 わかる? と尋ねると、小太郎は困ったような顔をした。
「ま、子供には難しいか」
 だいたい、不老不死の欠点をただの人間に理解しろというのが無理なのだ。
 しかし、母の不在に胸を痛めている子供に言えることはなんだろうか、と考えていると、
「あ、ケータイ」
 ぴりりりと、小太郎のカバンから音がする。彼は携帯電話を取り出した。
「あ、お父さん」
 その言葉に身構える。
 まさか、嫌な話じゃないだろうな。そしたら私はどうすればいいんだ。
「もしもし。……学校は、えっと」
 あ、いきなり怒られてる。
 だけど、小太郎の無断欠席を問い詰めている場合ではなかったらしい。
「え、お母さんが?!」
 すぐに本題にはいったようだ。いや、本当、勘弁してよ。どうしたものかと思っていると、
「赤ちゃん、生まれたの!?」
 小太郎の嬉しそうな声。
「妹? ほんと?」
 いやいや、病気かと思ったら、出産かよ。おめでたい話じゃねーかよ。入院するぐらい体調が悪かったのなら、それは大変だろうけど。
 小太郎は弾んだ調子で電話をしていたが、
「えっと一時間ぐらい……。あとで説明する」
 などと言って電話を切った。
「僕、お兄ちゃんになった!!」
「みたいだね」
 きらきらと顔を輝かせる小太郎。今までの中で一番、年相応の顔だ。
「帰ろ、小太郎。妹に会いに行かなきゃでしょ」
「うん!」

 小太郎と出会った駅まで戻る。
「お姉さん、ありがとう!」
「ちゃんとお父さんに謝るんだよ?」
 言うと小太郎はすごい嫌そうな顔をした。
「そういえば、お姉さん、名前は?」
 今聞くのかよ。まあ、いいけど。
 小学生を海まで連れて行くぐらい暇で、もう何十回目の高校生活に飽き飽きしている私の名前は、
「時雨小夜だよ」


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