otoさん

 書くことは好きです。  妄想、空想することも好きです。  それを上手に文字にできるといいのですが・・・。  ジタバタしている様子を眺めていただけるだけで光栄です。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

写真

17/07/01 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 oto 閲覧数:120

この作品を評価する

 堤防の先端に座って、懐かしい海を眺めていた。
 子どもの頃、チッコと呼んでいた堤防は、最近、築港という意味だったことを知った。
 母の実家が近くにあって、夏休みになるとこの海に来ていた。

 何故、最後の場所にここを選んだのかは、分からない。
 唯一、楽しい思い出があるこの場所に来れば、何かが変わると思ったのかもしれない。確かに懐かしい場所ではあったが、ただそれだけだった。

 背中のリュックやポケットに沢山の石を詰め込んだ。
 このまま飛び込めば、まず助かることはないだろう。そこまでしなくても、泳げないのだから大丈夫だけれど。毎年、海に来ていたのに、泳ぎは苦手だった。

 さて、始めようか!
 意を決して立ち上がりかけた時、驚くほど近くから男の声がした。
「お兄ちゃん、ちょっとだけ俺の話を聞いてくれるか」
 あまりの事に、返事も出来ずにいると
「別に、お兄ちゃんが飛び込むのを止めようとしている訳じゃない」
「そ、そんな事、するつもりは」
「ポケットの中の石は、何のためなの?どこにでもあるような石を集める理由が他にあるなら、教えて欲しい」
 ずっと見られていたのか。
 気づかなかった。全然、気配を感じなかったから不思議だ。

 聞いてくれるだけでいい、という申し出を断る事も出来ず、僕は話を聞くことにした。
 男は貧乏な家庭に生まれながらも苦労して大学まで進んだという。
 生まれ故郷である地元の会社に就職し同期では一番の出世頭だという話だ。昨年、会社で1番の美人と評判の女性と結婚し、家も建て、もうすぐ子供が生まれるらしい。

「あの、一言いいですか。
 それって、これから死のうとしている僕に聞かせるような話ですか。それとも、だからこそわざとそんな話をして、僕を笑いものにしようとしているんですか。
 ずいぶん悪趣味ですよね。
 兎に角、お話はお聞きしました。約束ですから、もう僕には構わないでください」

「君にとやかく言うつもりはない。ただ、あとひとつだけ、頼みたいことがあるんだが」
「約束が違うじゃないですか。話を聞けばいいと」
「すまない。断ってくれても構わないんだ。出来たら、この写真を届けて欲しいんだ」

 男は、ポケットから写真を取り出した。
 水に濡れたのか薄汚れた写真だ。
 新築の家の前で奥さんらしき、確かに美しい女性と男が写っている。
 女性のお腹はわずかに膨らんでいるように見える。

「届けろって、今からですか?僕にそんなことしている暇はありませんよ」 
 男は、写真を裏返し、そこに書かれた住所へ届けて欲しいと言う。
「だから、自分で行けばいいじゃないですか、何で僕が」
「行けるものなら、今すぐにでも行きたいよ」
 男の心の底から絞り出すような声に、改めて、住所を見直した。

「この住所って、もしかして」
 その問いに、男は答えなかった。
 いつの間にか、男は消えていた。
 いついなくなったのか、まるで気配を感じさせずに。
 いや、最初から男の気配は無かったのだ、と気がついた。

 その住所と思しき場所に辿り着いたが、案の定、写真に写っていた新築の家はもちろん、周りにある全てのものが流されていた。
 見渡す限り何も残っていない。
 と、ひとりの女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
 背中には赤ちゃんを背負っている。
 そして、僕は全てを理解した。

 もうすぐ子供も生まれる幸せの絶頂で死んでいく男の無念。その思いが僕に写真を届けさせたんだ。

 その女性は「夢の中で主人が家へ行ってくれ!」と必死に頼むので来てみた、と言った。
 僕は「これ、ご主人から頼まれたものです」と、奥さんに写真を渡した。
 奥さんは、しばらく声を上げて泣いていた。
 背中でニコニコと笑っている赤ちゃんは、ご主人そっくりだった。

 奥さんによると、ご主人は津波に流されたらしく、未だに行方不明だという事だった。僕とご主人が会った場所を探してもらう、と話していた。

 後日、ご主人はあのチッコの近くで見つかったそうだ。

 そして僕。
 ご主人の最後の言葉「いきたいよ」が、いつまでも心に響いている。 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス