1. トップページ
  2. イルカ社会の憂鬱

れもんさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

イルカ社会の憂鬱

17/07/01 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 れもん 閲覧数:146

この作品を評価する



 「さてどうしたものか」


 真っ青な海のど真ん中。キヨシはぷわぷわと浮き輪にはまって、波に揺られていた。


 真夏の太陽が容赦なくキヨシを照りつける。水着姿であったから、肌がジリジリと焼かれていくのがなんとなくわかる気がした。


 辺りを見回すが、見えるのは丸みを帯びた水平線だけで、自分がどこにいるのかもわからない。


 キヨシは会社の慰安旅行で海にやってきたのだが、海で浮き輪にはまってぼーっとしているうちに、沖まで流されてしまった。


 今頃みんな心配しているかな。


 同僚たちの姿を思い浮かべる。


 いや、心配なんぞしてくれているわけあるまい。あるいは俺がいなくなっていることに、気づいているかどうかさえ怪しい。


 キヨシは会社で孤立していた。


 この春に転職して今の会社にやってきたキヨシは、未だに馴染めずにいたのだ。


 「あのお」


 「ん?」


 キヨシは辺りを見回すが誰もいない。


 当然である。こんな海の真ん中に人がいるはずなどない。
ただ透き通るような青い海だけが周りを埋め尽くしている。


 「あのお、ちょっといいですか」


 「うおおっ!」


 その声の主はすぐそばにいた。先ほどは浮き輪の陰になって見えにくかったのだ。


 海からちょこんと飛び出たつるっとした小さな頭。


 おおよその人間が愛してやまないであろう哺乳類。


 イルカであった。


 「なんだお前は?」


 「いきなりすみません、あっちに私の群れが来たもんですから。ちょっと隠れさせてください」


 キヨシがイルカの視線の先を見ると、複数のイルカの頭が海にポツポツと浮かんでいるのが目に入る。


 「お前の群れならお前も行けばいいじゃあないか」


 はあ、とイルカはため息をつく。


 「あなたねえ、こちとら話はそんな単純じゃないんですよ」


 「なんだなんだ」


 「私はね、この夏、仕事の関係でこっちの海に来たんですがね、どーも馴染めない。こっちの海のイルカとはウマが合わないんですねえ。で、今日は非番でのんびりしていたら、同僚たちと遭遇しそうになったもんで。ばったり会っちゃったらお互いに気まずいですから」


 「イルカにもいろいろあるんだねえ」


 「そうですよ。人間が思っているほどイルカ社会は甘くありません」


 「でもお前そうやって避けてたらいつまでたっても馴染めないぞ」


 「まあ確かに、でも口で言うほど簡単じゃないですよ」


 「よし俺が後押ししてやろう」


 「へ?」


 「おーい!そっちのイルカの群れの諸君。このイルカが仲間に入れて欲しいそうだ」


 「ちょっと!」


 「大丈夫大丈夫」


 キヨシの声に反応して一頭の大きなイルカがキヨシの方に近づいてくる。


 「おおこれはこれは、プーくんじゃないか」


 「どーも、こんにちはです」


 「ちょうどこれからみんなで一杯ひっかけに行くんだがね、君もどうかな?」


 「ご一緒させてもらってもいいでしょうか?」


 「もちろんだ」


 二頭のイルカがすーっとキヨシから離れていく。


 「避けてたらいつまでも馴染めないゾ、か」


 その言葉は自分にも当てはまるなと、そう思った。


 人助けをしたら眠くなってきた、いやイルカ助けか。


 まぶたが重くなる。まぶたを閉じてしまってもその向こう側での太陽の光は感じられた。


 少しずつ意識が遠のいて、キヨシはまどろみの中に落ちてしまった。



 「おい!」


 誰だ?だれかが呼んでいる。


 「おい!キヨシ!目えさませ!」


 キヨシが目を開ける、夕暮れの空の中に同僚たちがいた。

 
 「おお!起きたか!大丈夫か?」


 先輩社員である岡田がキヨシの顔を覗き込む。
 背中の下に砂の感触を感じる。どうやら砂浜の上で寝ていたらしい。上半身を砂浜から起こす。


 「俺はいったい?」


 「お前溺れたんだよ。覚えてねえの?まあでもこうやってすぐに目さましたわけだしよかったけどな」


 溺れた、俺が。


 「それはどうも迷惑かけました」


 キヨシは岡田に頭を下げる。


 「気にすんな」


 「今度、」


 「ん?」

 
 「今度、飲みに連れて行ってくださいよ」


 「ダメだ」


 岡田はニッと笑って。


 「今日行くぞ!」


 「ええ、今日はもうしんどいですよ……」


 「ダメだ!よっしゃ飲もう!」


 岡田はキヨシの手を引き、体を起こそうとする。


 キヨシは立ち上がり、パッと後ろを振り向く。


 海はすっかりオレンジ色に染まっていて、水平線に夕日が沈んでいく。

 


 



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス