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まきのでらさん

某老舗同人集団所属。 キャリアだけは無駄に長いです。 よろしくお願いします。

性別 男性
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漁師と人魚、船の上

17/06/27 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 まきのでら 閲覧数:161

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 人魚を捕まえた。が、同時に漂流してしまった。
 もうひと月経つ。はじめは美しい人魚に歌を唄わせ、オイラがバンジョーを弾いて楽しんだ。
 人魚は後ろ手に荒縄で縛られてはいたものの、バンジョーに合わせて唄うのはまんざらではないようだった。
 
 港へ帰る途中、嵐に遭った。
 
 オイラの小舟は波に揉まれ、渦に巻かれて、気が付いたら見知らぬ海の真ん中にポツンと浮いていた。
 オイラは絶望した。食料はほとんどない。しかし、いざとなれば人魚を喰っちまえばいいと考えた。人魚の肉は不老不死になれると聞いていたからだ。
 だからこそ金になる。出来ることならのこまま港に帰り着きたかった。
 しかし釣り糸を垂らしても魚は釣れず、オイラは日に日に飢えていった。
 気を紛らわす為に人魚に唄わせたが、オイラにバンジョーを鳴らす元気はなかった。オイラはイライラして言った。

「オイ人魚。オメエ海に棲んでるんだからここがどの辺が分かるだろ? オイラを元に海域に戻せるんじゃねえのか」
 
 すると人魚は「いいえ、私は頭の悪い人魚。歌を唄うことしか出来ません」と悲しそうな声で言った。

「ケッ、そいつあハズレを引いたなあ」

 オイラは毒づいて「そんならオメエを喰うしかねえな」と睨みを利かせた。

「それだけはご勘弁を」

 人魚のヤツは涙ながらに命乞いをした。
 オイラにとってそれは最後の手段だったので「冗談でえ」と言って寝転んだ。
 しかし限界はすぐに訪れた。
 
 気が付くと、オイラは人魚を絞め殺していた。
 
 抗い難い飢餓感、食欲に負けたのだ。人魚の肉は不老不死になれると同時に、世界中で一番美味とも言われていたからだ。
 オイラはナイフで人魚を捌いて、無我夢中で貪った。それは確かに想像を絶する美味しさだった。
 しかも不思議なことに食べても食べても腹が満たされることはなく。遂には骨を残して全てを喰い尽くしてしまった。
 するとオイラは急激な睡魔に襲われた。世界が回転し虚ろとなり、そしてそのまま意識が途切れた。

「オイ! 船が漂流してるぞ!」

「しかも人魚が乗ってるぞ!」
 
 そんな声で目が覚めた。興奮した四つの目がオイラを見ていた。一瞬、助かった! と喜びかけたがすぐに様子がおかしいと気付いた。

「人魚の骨がある! 二匹もいたんだ!」
 
 オイラは人魚になっていた。しかもどうやら美しい女の人魚に。必死になってオイラを見つけた二人の漁師に説明したが、まるで聞き入れてもらえなかった。
 無理もない。オイラは人魚なのだ。人魚の言葉など、まともに聞く者はいない。

「人魚や、唱え」
 
 二人に脅されてオイラは唄った。すると透き通るような綺麗な声が出た。元が掠れた声だっただけに、ウソみたいだった。
 二人の漁師は大喜びで、ガット・ギターとボンゴを取り出して演奏が始まった。
 同時に、オイラは思い出していた。人魚の歌声には人を惑わす力があると。
 
 それは天候をも狂わせると。
 
 頭の悪い人魚の肉を食べた頭の悪い漁師は人魚になり、それを見つけた頭の悪い二人の漁師が、破滅へと導く歌を唄わせている。
 オイラは面白くなってきて、増々声を高めて唄った。

 嵐よ来い! 波よ狂え! その後は、その後は……?
 
 後の展開をどんなに考えようとしても、頭の悪い人魚の思考は働かない。了


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