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朽葉ノイズさん

くちはのいず、と言います。 関東のすみっこの方で暮らしています。 ペンギンディスコっていう名義でも活動してます。

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セイレーンは声だけ残る。

17/06/26 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 朽葉ノイズ 閲覧数:176

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 八月もお盆を過ぎ、クラゲさんが出没する時期になった。海の家で一ヶ月間働くことになっていたわたしと、ネコミちゃんイヌルちゃん姉妹は、客足も減り、一段落ついた気分になっていた。
「ラッシーお姉様、ゲソ焼きでもいかがです?」
 イカの足を火であぶりながら、イヌルちゃんがわたしに今焼いているそれをススめる。
「こら、イヌル! お店のモノを勝手に自分のモノみたいに扱っちゃ駄目でしょ」
「うるさいです、このバカ姉。わたしはお姉様にだけススめているんですー」
「ムキー!」
「ウキー!」
 いがみ合う姉妹をよそに、わたしはビーチバレーを楽しんでいる浜辺の子供たちを観ている。
「ラッシーもバシッとイヌルになんか言ってやってよぅ、もぅ」
「うーん、わたしたちもビーチバレーかなんかで遊ぼうよ」
「えー?」
 ネコミちゃんは不服そうだ。イヌルちゃんはそこにたたみ込むように、
「ふふん。バカ姉は体育の成績もへっぽこですものねー。他の教科もダメダメですけど。それに比べてラッシーお姉様は」
「はいはい。わたしはどうせ体育含め成績ダメダメですよーだ。でもね、学校なんかじゃわたしの魅力は理解されないだけだわ」
「ほぅ。ではバカ姉。あんたの魅力とやらをわたしに伝えてごらんなさいな」
「また喧嘩してるー、二人とも。働くのだー」
 ビーチバレーから海の家に視線を戻すと、イヌルちゃんが焼いていたゲソは黒焦げになってしまっている。
「働くったって、ラッシー。お客いないじゃない」
「連れてきたぜ!」
 いきなりの声に振り向くわたしたち。声のした視線の先にはダックちゃんが大きなお魚さんを引きずってやってきていた。
「連れてきたっていうか、釣れたんだけどな。ぐえぐえ」
「来たわね、ぐえぐえ」
 ネコミちゃんが目を細める。
「僕の名前はぐえぐえじゃねぇ。ダックちゃんだ」
 訂正させるダックちゃん。
「僕っ娘なんて今時流行らないですわよ、このぐえぐえ」
 イヌルちゃんも一言添える。ダックちゃんは、いつもと変わらぬやりとりに辟易したかのように、ため息をつく。
「ダックちゃん。大きなお魚さんだねっ!」
「ラッシーよ。これが魚に見えるのか」
「え? お魚さんでしょ?」
「ああ、下半身がな。で、鳥みたいに翼をはやして、上半身はどう見ても人間の女の子だろ」
「ああ、そうだねっ! 顔は熟女さんだねっ!」
 わたしが手をポン、と叩いて納得すると、お魚さんはぴえええぇぇぇ、と奇声を発した。耳をふさぐわたしたち。
 ビーチバレーをしていた子供たちは、
「やべぇ! 変な女がセイレーン連れてきやがったぞ! 逃げろー!」
 と、説明ゼリフを発しながらダッシュして遠くへいった。
 奇声がやんで耳をふさぐのをやめると、
「まあ、そういうこった」
 って笑うダックちゃん。
「どういうこと?」
 と、わたし。
「セイレーンなんだ、こいつ。幻獣の一種さ。海の航路で岩礁から美しい歌声で人を惑わして船を難破させる幻獣さ。僕も釣りをしてこいつがひっかかった時にはびっくりしたよ」
「う、美しい歌声? さっきのがですの? 奇声でしたわよ」
 キレ気味のイヌルちゃん。ネコミちゃんは、「うーむ、ふむー」と首をひねって考えてから、
「伝承と現実なんて違うものだものね」
 と、言った。
「え? てゆーより、このお魚さんがセイレーンさんていうUMAだってことは信じちゃうの?」
 今度はわたしが驚く番だった。
「ぴえええぇぇぇ!」
 お魚さんがまた叫ぶ。
「ほら、信じてやれよ、セイレーンだって。泣いてるじゃん」
「わかるの、ダックちゃん?」
「なんとなく、伝わるかな」
「ふーん」
 わたしはお魚さん……じゃなかった、セイレーンさんを見る。
 すると、セイレーンさんは、日本語でしゃべった。
「わたしは船を難破させるのがお仕事だったのです、UMA的に」
「ふーむ、UMA的にって。組織なの、UMAって?」
 ネコミちゃんの突っ込みを無視し、セイレーンさんは続ける。
「しかし、今のわたしはオトコをナンパさせるのがお仕事なんです」
 うーん、放送コード大丈夫です?
「そしてナンパさせました。でも同時に今回わたしは釣り竿で『釣られ』ました」
 しゃべるその声は、歌い上げたかのような美声で。
「釣られたからには、この方を海へ引きずり込ませなくてはなりません。この男前のぐえぐえさんに」
 ダックちゃんは女の子だけどね!
「さ! 竜宮城へ!」
 ざばーん、と海が二つに割れて、道ができた。
「はぁ?」
 気の抜けた声を出すのが、ダックちゃんには精一杯だった。
 そしてダックちゃんは竜宮城で乙姫さんに会うんだけど、それはまた別の話。
「神話なんて碌なもんじゃないね」
「今回の教訓ですわね。バカ姉よりぐえぐえの方が魅力あったみたいですわね」
「うっさいわ」


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