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seikaさん

かつては女子中学生でした。

性別 女性
将来の夢 生まれ変わること
座右の銘 朝、一杯のコーヒー

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本屋の英雄

17/06/24 コンテスト(テーマ):第107回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 seika 閲覧数:375

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 戸舞賛歌は『日本一のドイツ文学者』だとか『ドイツ文学界の奇才』なんていわれているらしいけど、世間一般では大した有名人でもなければ有力者でもないんだ・・・。ただ文芸愛好家には愛されているらしい・・・というか、愛されているどころか神格化されているらいんだ・・・だから戸舞賛歌が書店古書店図書館に行くと
「あの、スゴイドイツ文学者の戸舞賛歌先生がいらっしゃった・・・。」
と特別扱いだったことは知っている。といっても戸舞賛歌は書店古書店図書館のほかに行くところは無いから、行くところ行くところで
「あの、スゴイドイツ文学者の戸舞賛歌先生がいらっしゃった・・・。」
と特別扱いだ。どこがスゴイのか・・・というと
「普通の人には書けない文章ですね・・・。」
なんだそうだ。戸舞賛歌は書店古書店図書館の住民たち、読書家マーチン、そして文芸愛好家たちにはスゴイ知的指導者らしい・・・。つまり書店古書店図書館の住民たちって世間一般とは違う世界??らしい・・・。ちなみに戸舞賛歌は新高円寺駅の近くにある三平ストアにコロッケや生理用品を買いに行くことは無い。戸舞賛歌が行くとろといったら書店古書店図書館とクラシック音楽専門のCD屋『オシリノアナ』だけだ。

 とにかく戸舞賛歌は
「本を読まんヤツとは話にならん。」
として本を読まない人とは付き合わなかった。まあ「本物のドイツ文学者」として認められるためにはそのぐらいじゃないとダメらしい・・・。しかしドイツ文学者といっても一般では漠然としたイメージだけはあるものの多くの人たちにとってドイツ文学者なんてほとんど関係ない。せいぜい学校で使う国語の本なんかにドイツ文学者の文章がいくつか載っている程度、あとは夏休みなどの「課題図書」にドイツ文学者の著訳書が指定される程度だ。つまり多くの人たちには国語の勉強で少しだけかかわりがある程度なのだ。がしかし凝りが教育関係者、出版関係者、書店古書店図書館関係者となるとその存在感は途方も無く大きくなってしまう。そんなわけで
「本を読まんヤツとは付き合わない。本を読まんヤツとは付き合せない。」
の戸舞家ではその付き合いが書店古書店図書館関係者や教育関係者、ときとして医療関係者などに限定されていたのである。戸舞家との付き合いは少なくともヘルマンヘッセのぐらいは読んでいることが条件だったのである。戸舞家の会話ではヘッセの荒野の狼だとかケイストナーの飛ぶ教室という言葉が頻繁に登場する。だから戸舞家との付き合いはこれらの本をよんでおくことは基本なのである笑
という感じ♪ なんだかバカみたい。
 そう戸舞家はバカみたいだったんだ。でもそれがやっばり国語の本に文書が載っていたり新聞に書いて本が載っていたりすると周囲の目が変わっちゃう。バカみたいじゃなくて、スゴイドイツ文学者の家・・・とかになっちゃうからそれが恐ろしい・・・。つまりドイツ文学者の娘らしく紺のスカートに白いブラウス、そしてグレーのカーデイガンを着て新潮文庫の「デミアン」なんかをいつでも片手に持っているようでなければドイツ文学者の家にいるな・・・という視線はやはり世間一般から来たの・・・かもしれない・・・。

にしても戸舞賛歌は自宅を理想のドイツ文学教室に作り変えてしまった。音楽はクラシック以外一切厳禁、雑誌書籍なども戸舞賛歌が許可したもののみ可、世間話も一切厳禁・・・というものだった。
 あるとき、近くに脳田くんという読書好きな少年が引っ越してきた。脳田君は岩波書店から出ているような本ばかりを好みテレビや下らない雑誌を嫌うという。そのうわさを聞きつけて戸舞賛歌は
「ほほーっ」
と感心するようにいったものだ。そしてあるときわたしが学校から帰ってくると見知らぬ男の子が家の中にいた。この男の子が脳田くんだった。その日から戸舞家は脳田ファースト、脳田最優先になった。脳田くんは日曜日など午前中からやってきては本を読み、そのうち私を見下すようになった。脳田くんは戸棚のチョコレートのつまみ食いしたはそれを私のせいにしたり、そのうち電話台のところにある小銭の入ったカンから小銭を盗み出すようになった。わたしは脳田くんの窃盗もわたしのせいにされるのでは・・・と思って本気で脳田を何とかしなくちゃならないと思った。それであるとき私は近くの荒っぽい下級生の男の子たちと脳田くんを待ち伏せし、闇討ちしたことがある。手に石を持って脳田くんを殴ったのだ。これには荒っぽい男の子も私を止めに入った。

そしてある日、戸舞賛歌が
「脳田くん、引っ越しちゃうのか・・・。」
と寂しそうに言ったことを覚えている。わたしはうれしかった。
そして脳田くんは関東北部へと引っ越した。戸舞賛歌は脳田くんのために本をいくつか見繕っては郵送していたらしい。親戚の法要のために関東北部にいったとき、わざわざ脳田くんに会いにいったようだ。がその後、中学生になった脳田くんが不良たちに暴行を受けて傷害事件の被害者になって内臓破裂などで入院している・・・というウワサを聞いた。わたしはこのまま脳田くんがしんでしまえばいいのに・・・と思った。しかし戸舞賛歌はえらく脳田くんに同情していた。とにかく戸舞賛歌は青臭いところがある人だったし、脳田くんも戸舞賛歌となじようなオーラだった。

戸舞賛歌は古代地中海沿岸にあった通風国家「サルマタ」研究の第一人者となり、サルマタに関する著作も多い。そして今、オタクの皆様の愛好するゲームのなかには通風国家サルマタが舞台となり、参考文献とした戸舞賛歌のサルマタ本が名を連ねたりする。私はオタクの人とは合わないので知らないが、戸舞賛歌はオタクの中でも有名らしい・・・。

にしても私はすくなくとも戸舞賛歌とは合わなかったようだ。二階の戸舞賛歌の書斎に通されたことはほとんどない。だから二階はわたしにとって未知の世界だった。


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