1. トップページ
  2. てきとーなママ

八王子さん

よく書きます。ジャンルや傾向はバラバラです。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

てきとーなママ

17/06/24 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 八王子 閲覧数:141

この作品を評価する

「どうして海はしょっぱいの?」
 息子の悪癖が始まった。
 色んなことに興味を持つのはいいことだけど、すぐそうやって私に聞いてくる。
 テレビや絵本を見る度に「どうして?」「なんで?」が絶対出てくる。
 ある時はこうだ。
「どうしてヒーローは強いの? 世界を救うとなにがもらえるの?」
 日曜の朝から起こされて、そんなことを聞かれてもなにも答えられるわけがない。
 きっと給料がもらえるんだろう。
「ねえ、どうして? どうして海はしょっぱいの?」
 夏が近づき、そこらの海で海の家の建設ラッシュとかいうニュースのせいだ。
 建設ラッシュって少し前の中国経済みたいだし、両方台風とかで壊れるのもそっくり。
「どうしてだろうね」
「ママ真面目に答えて」
 5歳ともなると、親の適当を許してくれない。
 好奇心旺盛なのはいいけど、そんなのグーグル先生にでも聞けばいいじゃないか。
「じゃあ、聞くけど、しょーくんは海についてなにを知っているかな?」
「しょっぱい!」
「それが海なんだよ」
「てきとー!」
 こうして適当に答えると、椅子に逆向きで座って、ぐわんぐわん前後に揺さぶる。
 子供用の小さな椅子だからひっくり返っても大したことはないだろうが、脚を引きずる音がうるさくて仕方ない。
「わかったから、その椅子をやめなさい。椅子は座るものよ」
「じゃあ、海は? 海はなにをするものなの?」
 生命の誕生とか荘厳な話をしたところで満足するだろうか。
「もう一回聞くけど、海について知っていることを教えて」
「うーん。しょっぱくて……お魚がいる」
「そうだね。ママが昨日作った焼き鮭を、パパはしょっぱいって言ったね」
「うん。すごくママが怒って、パパが謝ってた」
 料理を作る者の苦労を考えずに、注文だけはしてくるのだから。
「つまり、そういうことなの。海っていうのは鮭に味付けをしてくれているの。あれはママのせいじゃないの」
「うっそだー! 鮭は川をそじょーするって、前にテレビでやってたもん。人間の都合で自然を破壊するから、産卵場所がなくなっているって!」
「……なんで、そんなの知って覚えてるの」
 我が息子ながら天才か、こいつは。
「じゃあ、海だと人が浮くのは知ってる?」
「知ってる! でも、プールでも浮くよ! プールはしょっぱくないよ!」
 まともに取り合いだしたせいか、すごく乗り気に元気になってしまった。
「でも、ケンちゃんがプールでおしっこした時はしょっぱかった」
「飲んだの!?」
「目に染みた」
「今度ケンちゃん殴っておこう」
「殴っちゃ駄目だよ。お漏らしケンちゃんのこと」
 可哀想なあだ名がついていた。許してやろう。
「で、海がしょっぱい理由は――」
 時計を見れば、そろそろ買い物に行かなければならない時間だ。
 買い物に行って、帰ってきたら洗濯物を取り込んで、夜ご飯の準備をして、明日の支度もしなければならない。
 パパが土曜も仕事に行っちゃうから、ちっとも家事が進まない。
「海にはね、神様がいるの。ほら、そこの世界地図を見てみな。海はどこよりも広いでしょ」
「うん! でかい!」
「海の神様が泣いてできたのが、海なのよ。でも、最近は泣き疲れたのか海が減って来てるのね」
「地球温暖化じゃないの? きしょーよほーしさんが言ってた!」
 だからなんで中途半端に変な知識を持っているんだ。
 海のしょっぱい理由もテレビで教えてやってくれ。

 5歳児にわかりやすく教えるにはどうしたらいいのか考えていると、玄関が開く音がした。
「ただいまー」
「パパだ! はやいね!」
 まだ午後の3時すぎだ。
「ああ、休日出勤だからな。平日のように残ってはいないさ」
 玄関からリビングに戻ってくるまでの間に、パパにまとわりついているのだろう。
 そういう力仕事というか、体力を使うことはパパ任せだから、知恵の面では私が助けてやりたいのだけれど、私は勉強が嫌いだった。
「ねえ、パパ! どうして海はしょっぱいの?」
「この間、ケンちゃんがプールでおしっこ漏らしただろ?」
「うん、漏らして泣いてた! いつも威張ってるのに!」
 哀れなケンちゃん。
「海はみんなのおしっこと、ケンちゃんのような涙が流れているから、しょっぱいんだ」
「そうなんだ! プランクトンの死骸のせいかと思ってたよ!」
 この息子、私たち両親を試してたのか……?
「もしもそうだったら、死体の海になんて明日入れないもんね!」
 明日は家族揃って海に行く予定だったのだが、おしっこの海に入れても、プランクトンの死骸の浮かぶ海には入れないとでも言うのだろうか。
 この真実、どう伝えたらいいんだ。
「ケンちゃんのせいにしておけばいいか」
「ママ! パパが車で買い物連れて行ってくれるって!」

(了)


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス