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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
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CO2フォビア

17/06/23 コンテスト(テーマ):第107回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:463

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「シュプレヒコール!」
 年老いてもまだなお矍鑠たる理事長を先頭に、慈愛あふれる環境保護団体のそうそうたる面々がメガホン片手に大音声を張り上げている。
「みんなの地球が!」不運にも絡まれているのは火力発電所だ。「暑い暑いと泣いてるぞ!」
 作業員たちはうんざりしながらLNGを炉に注入している。もくもくと恐るべき大気汚染物質が煙突から大気へ解き放たれる――と思いきや、窒素酸化物やら二酸化炭素やらは電離集塵装置によって絡め取られ、植物の肥料になるべくリサイクル工場へ送られるのだ。これが当世風の発電所である。
「シュプレヒコール!」
 理事長の額に浮いた青筋はいまにもはちきれんばかりだ。
「いますぐ火力発電所の停止をわれわれは――」ここでいったん切って、劇的な効果を狙う。「いや、地球は切に望むものである!」
 作業員たちは酢酸をオンザロックで飲み下しかのような渋面を作った。外周でやかましく吠え立てる自称地球防衛軍の声は耳に快いとは言いがたい。
「あなたがたはろくでなしだ」コールはだんだんエスカレートしていく。「白熊が、あざらしが、熱帯雨林が! 棲み家をなくしていまにも絶滅しようとしてるんだぞ!」
「俺は人類至上主義者ってわけじゃないが」火力発電プラントの現場責任者がぽつりとつぶやいた。「あいつらは本当のところ、なにを救いたいんだろうな」
 部下は肩をすくめた。「さてね。少なくとも人間じゃないことだけは確かですな」

     *     *     *

ポスト「京都議定書」をみんなで作ろう 次のサミットへねじ込んでやれ!
 環境先進国たるわが国は、もはや京都議定書だけで満足していてはならない。もちろん「成功裏に終わった」洞爺湖サミットも同様である。
 わが国を含めたその後の先進国の対応はまさに口から出まかせ、京都で合意した排出規制を守れるよう国内の法整備を進めているようすはまったく見られない! 相変わらず二酸化炭素は垂れ流されているばかりか、原発停止のあおりで火力発電所の稼働率はむしろ上がってさえいるのだ。
 石油業界の手先である温暖化楽観論者たちが吹聴するような、海面の上昇が三十センチ程度ですむだとか、冬の寒さが緩和されることでむしろ死亡者数が減少するだとか、そうした無責任で堕落した、吐き気を催す恣意的な研究結果は唾棄すべきである。
 われわれはここに提唱する。二酸化炭素排出削減にかける金額に上限を設けるな! 経済が減速しようが輸出入が滞ろうが、あらゆる手段を講じて地球を冷やすべきときがきたのだ。
 二一〇〇年までに現行濃度の九十パーセント削減。これがわれわれの掲げる断固たる数値である。試算によればこれを達成するのに年間千二百兆円かかる。これはGDP世界合計のおよそ十五パーセントにあたるが、それがどうした? もはや金の問題ではないのである!
 ――さる世界的環境保護団体理事長の決意表明より

     *     *     *

「ですから、べつにぼくは石油ロビーの回し者とかじゃないんですよ。何度言ったらわかるんですかね」
――それ以外に温暖化を否定する理由がありますか?
「してませんよ! それは確かに起きてるって言ってるじゃないですか。でもあなたがたが自信を持ってぶち上げてる例の九十パーセント削減ですか? あんなのはぜんぜんお話にならんと、こう申し上げてるだけです」
――地球はいま危急存亡の秋を迎えてますよね。それくらいの気概がないと温暖化を食い止められませんよ。
「千二百兆円を毎年――いいですか、毎年ですよ! ライフラインが止まってそれこそ文明が滅亡しちまう」
――どのみち温暖化に対処しなければ人類は滅亡しますよね。
「何度も言ってますが、あなたがたは結局なにがしたいんですか。二酸化炭素を減らしたいだけなのか、それとも温暖化の影響で苦しむ人びとを助けたいのか? 前者に対処する金を後者に充てればどれだけの人間が助けられるか、どれだけ安くそれができるか、ぼくはさんざん証拠を示してきました。改めてお願い申し上げます、ちゃんとデータを見てください」
――あなたがた科学者は数字で市民を翻弄しようとする。
「なんで理解しようとする努力を放棄するんですか。理系嫌いだと言ってればなんでも許される、データ検証もしないでいい、だから好き勝手に喚き散らしていい。こんなふうに思ってませんかあんたがたは!」
――われわれを愚民だとおっしゃる?
「少なくとも現状の態度を固持し続ける限りはそう断定するにやぶさかじゃありません」
――聞きましたかみなさん! いま彼は難解な数字を使ってわれわれ善良なる市民を欺いたことを認めましたよ。
(目を固く閉じてうつむき、絶望感をあらわにして)「同じ言語を使っていながらこうまで話が通じないとは……」

     *     *     *

〈ポスト京都議定書〉はすばらしい効果を発揮した。
 二一〇〇年時点での地球平均温度は、IPCCの予想したシナリオより〇・五七八度ほど下回った。これは限界とされた予想値(マイナス〇・二度)を大きく更新しているので、人類がいい加減な口約束をせず、真摯な姿勢で二酸化炭素削減に取り組んだことを意味する。
 その結果は実に劇的だった。化石燃料からの強引な転換が見事に失敗し、未曽有の経済危機が訪れたのだ。全世界のほぼ全員が飢えにさいなまれているこんにち、〈ポスト京都議定書〉をどう評価するかは難しい。
 もちろん有意義だった、と例の環境保護団体理事なら自信を持ってうなずくだろう。彼ならたぶん、次のように口角泡を飛ばして主張したはずだ。
「人間が飢え死にしてる? だからどうした。そんなことより白熊やあざらしやマングローブの樹が大切なんだよ、わかったかこんちくしょう!」


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