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八王子さん

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吾輩は吾輩とか言わぬ猫様である

17/06/20 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 八王子 閲覧数:401

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 吾輩は猫である。
 どこかの人間がそう言ったらしい。

 朝陽が昇る頃、僕は目覚める。
 体を休めていた建物の下で、うーんと伸びをすると、玉砂利の石を踏む音が近づいてくる。
「おはよう。猫さん」
 神主と呼ばれる人間だ。
 こいつは毎日竹ぼうきを持って掃除をしているが、正直うるさくて仕方ない。
 でも、雨風を凌げる寝床を提供してくれる。
「にゃーご」
 毎日顔を合わせていれば、人間など好きになれなくても情のようなものは湧く。
 挨拶とこいつの独り言を聞くのは最低限の例だ。
「今日も良い天気ですね。暑くなりそうですから、猫さんも気を付けてくださいね」
 そう言うのなら水ぐらい用意してほしいものだ。
 手水舎とかいう、人間が清めをする場所に飛び乗るのも苦労するのだが、そこで水を飲んでも文句を言わないから、まあ許してやろう。
 どんなに飲んでも減らない不思議な水桶だ。
「いってらっしゃい、猫さん」
 僕は神社をあとにして、日課の見回りをする。

 僕たち猫には縄張りがある。
 人間の尺度ではどれぐらいか知らないが、僕たちは僕たちが把握できるだけの広さを縄張りとする。
 その中で餌場や水場、寝床を確保して毎日必死に生きている。
 人間は猫は呑気だと言うが、そんなことはないということを僕が教えてやろう。
「にゃーご」
 やってきたのは昔からあるアパート。
 その一階の一室の窓を外から叩く。
「おはよう。みーちゃん、今日も来てんだね。仕方ないんだから。ちょっと待ってて」
 僕の姿を確認した人間のメスは、こんなことを言うが、毎日僕のことを待っているのである。
 一日来ないだけでうるさくて仕方ないから、僕は朝ごはんをここで食べることにしたのだ。
「今日は高い缶詰だよ。たまたま特売だったんだから、こんな贅沢はしょっちゅうさせてあげられないよ」
 そう言って僕専用のお皿に、缶詰を出してくれる。
「にゃー」
「はいはい。ゆっくり食べててね。私は会社行く支度しなきゃ」
 このメスは不思議だ。
 僕が来る時と、会社に行くという時で、まったく顔が違うのだ。
 世間では猫は化け猫になると言うが、僕たちからすれば人間の方が化け物だ。
「今日も全部綺麗に食べたね。あなたが来るようになってから余計な出費が増えちゃって仕方ないんだから」
 頭を撫でてくれるメスの向こうに、僕のための缶詰の山が見えるのだから、人間とはツンデレというやつなのだろう。
「ペット飼えるアパートじゃないから、みーちゃん飼えないのよ。残念。じゃあ、仕事行くわね。また明日」
 アパートの前で朝ごはんをくれるメスと別れて、僕はまた歩き出す。

 学校という檻のようなフェンスに囲まれた中で、小さな人間たちが騒いでいる。
「あ、猫だ!」
 体育というのをしていた小学生が好き勝手なことを言いながら駆け寄って来る。
 見ての通り、僕は人気者なので、ひとたび人前に現れるだけでこの騒ぎだ。
「にゃんこ、こっち向いてー」
 フェンスのおかげで触られないので、この場所は騒々しささえ我慢すれば最高に滑稽な人間の姿を見られる絶景スポットだ。
「こらー、授業中だぞー」
 教師と呼ばれる大人が子供たちを呼んでしまえば、僕の人気者の時間も終わる。
 まあ、たまにはこういう時間も良いものだ。
 猫だって誰かに見られることを意識しなければ毛づくろいなど真剣にしないからな。

 夕方になると商店街と呼ばれる場所に足を運ぶ。
 ここは自転車という乗り物に注意しないといけない。
 僕たちの先輩猫たちは、昔は魚屋で魚を盗んで競い合っていたそうだ。
 どんなに大きく、美味しい魚を持ってこられるか。
 大きすぎれば咥えて走れず捕まってしまうスリルがあったらしいが、今はそういうことをしなくても人間が贅沢になったのか、それとも自分たちの食べる物も管理できないのか、僕たち猫に分け与えても問題ないらしい。
「あら、みけちゃん。今日もきたのね。イワシあるけど食べる?」
「んにゃー」
 正直キャットフードの方が美味しいけど、先輩猫たちは生魚を喜んで食べていた風習があるので、僕たち現代の猫もたまに口にする。
 なんでも店の前で食べていると、客が寄って来るので僕たちのことをパンダと言う。
 パンダも大熊猫と言うらしいから遠い親戚かもしれない。

 おわかりいただけただろうか? こんな感じで僕の一日は終わる。
 ご覧の通り、僕には名前がたくさんある。
 今日の一日に名前をつけるのなら「ある猫様の一日」とでもしてもらおうか。

(了)


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