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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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My Favorite Things

17/06/19 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 泡沫恋歌 閲覧数:140

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同じ吹奏楽部の立花葵から楽譜を買いにいくので付き合ってと頼まれた。私、澤木梨恵はフルートだが、葵さんはクラリネットであまり親しくない。なぜ私を誘ったのか不思議だが、部活が終わったら一緒に楽器店へ行くことに――。
校門の前で待っててといわれて、そこで待っていると葵さんが男子生徒と一緒に現れた。その顔を見た途端、私はドキドキしてしまった。
「澤木も一緒か?」
吹奏楽部の櫻井部長だった。
「梨恵ちゃんも楽器みたいっていうもんだから」
そんなこと言ってないのに葵さんが勝手なことをいう。そして私も適当にうんと頷いた。
「新しいフルート買うのか?」櫻井部長が訊いた。
「ううん。そんな予定ないですぅ〜」声がうわずってしまった。
今使ってるフルートは中古で五万円だけど……。
「あたしのクラリネットは七十万以上したのよ。やっぱり楽器は高くないと良い音がでないわ」自慢気に葵さんがいうと、「そりゃあ、高い方が楽器の音はいいけど、それを使いこなす技術の方がもっと大事だぞ」櫻井部長が返した。

去年の入学式で吹奏楽部が新入生歓迎演奏会、その時に聴いた櫻井部長のトランペットの演奏に感動して吹奏楽部に入部した。
だけど五十数人いる部員の中で私は上手い方ではない。
いくら練習してもフルートの腕は上達しなくて、後から入ってきた一年生にも抜かれた。それに比べて葵さんは小学校からクラリネットを習っていて、その腕前はトップクラスだった。
こんな落ちこぼれ部員の私でも、少しでも吹奏楽部の役に立ちたいと思っている。吹奏楽部をもっと輝かせたいと、縁の下の力持ちで頑張っていた。

駅前にある大型店舗の楽器店に入った。
そのお店は一階と二階があって、櫻井部長は下の階でトランペットのマウスピースをみてるというので、私たちは上の階にある譜面コーナーにいった。
特に用事のない私は譜面を選ぶのをみていた。
「澤木さん、一年生にフルートのポジション盗られて悔しくないの?」
突然、葵さんにいわれた。
「……残念だけど、あの子の方が上手いから顧問の先生が抜擢したんだと思う」
「情けない人ね」バカにされた。
「練習しても、上手く演奏できなくて……」
「どうせ上達しないんだったら、マネージャーになったら。よく部室の掃除とか、楽器の手入れとかやってるでしょう?」
「上達しないけど……フルート辞めたくない」
「ハッキリいって、あなたみたいな中途半端な部員は目障りなのよ」
「そ、そんな……」
「櫻井部長もそう思ってるわ!」
その言葉がグサリと胸に刺さった。
櫻井部長がそんな話をしたのかしら? 私って、みんなのお荷物だったの? ショックで涙が込み上げてきた。「先に帰りまーす」二階から駆け下りた。
一階のフロアで櫻井部長に呼び止められたけど、泣き顔を見られたくない、そのまま飛び出していった――。

どこをどう走ったのか、そこは学校の近くにある児童公園だった。中央に大きなメタセコイアの木がある、その木陰で誰かがトランペットを吹いていた。
ジョン・コルトレーンの『マイ・フェイバリット・シングス』という古いジャズ、本来はソプラノサックスの曲だけど、トランペットでの演奏も素晴らしかった。
まさか、こんな所で櫻井部長が演奏してるなんて思ってもみなかった。
「櫻井部長……」
「あれっ! 澤木、どっから現れた?」
 私が目の前に立っていたので、櫻井部長はビックリしてた。
「さっきは急に帰って、ゴメンなさい」
「何か言われた?」
「いいえ、別に……」
「立花は上手いけど、下級生や自分よりヘタな子を見下すところがある」
「……私、吹奏楽部にいても上達しないし、退部します」 
「澤木は部室を掃除したり、使ってない楽器の手入れをしたり、そういうこと自主的にやってくれてるだろ?」
「はい」
「花を部室に飾ってくれたり、そういう控え目な優しさが俺はグッとくる」
もしかして、私のこと褒めてる?
「みんなの役に立ってるから退部するなんていうな」
「でも……」
「楽器店に付き合ってと立花に誘われたけど、二人きりは困るからツレがいるなら行ってもいいと言ったら、澤木さんが校門で待っていた」
だから葵さんは私を誘ったのか。
「俺、澤木を見たとき、ちょっと嬉しかった」
えっ? ええ――!? マジで?
もう一度、マイ・フェイバリット・シングスを吹いた。その後「俺のマイ・フェイバリット・シングスのひとつは澤木梨恵」だと真顔でいった。
先輩が卒業したら、付き合おうってLINEのアドレスを交換して、二人だけのホットラインを作った。来年が同じ大学を受験するつもり、こっちはフルートよりも自信がある。
「これからも、ずっと一緒!」
大学に入ったら、先輩が所属する吹奏楽部のマネージャーを希望しよう。だって、いつも彼とその音楽に包まれていたいから――。


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