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紅茶愛好家さん

小説は書くのも読むのも好きです。 少しでも面白い作品が書けるように試行錯誤してます。 作風は真面目なのからふざけたのまで色々書こうと思ってます。

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人魚-ningyo-

17/06/19 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 紅茶愛好家 閲覧数:197

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そのエメラルドグリーンに光る夢の中で僕は人魚を見た。五色に光る尾を持ち輝く真珠の装飾を纏っている。金貨の様に光る波打つ髪に覆われて顔色こそ見えないのだが口元はひどく美しい。白く華奢な手を伸ばし、僕の頬に触れそして微笑む。
「……しょう。また……う」
よく聞こえない。声が波音にかき消される。そこで僕はいつも目が覚める。起きると頬には彼女の余韻が残り、そっと耳を塞ぎ目を閉じると聞こえるのは静かな波の音だった。

「それって前世だよ」
西日の差し込む教室に僕らは居た。一つの机を囲んで日誌に向かう。彼女の遥は視線を落とし日誌に簡素に記入していく。
「前世ぇ?」
「よく見る夢には前世の記憶が隠されてるって本で読んだことあるの」
「ふーん」
「いいこと教えてあげようか?」
「うん?」
「私も見るよ、同じ夢」

彼女はきっと僕らは夢の中で繋がっているのだと言う。しかも、遥が言うには遥は僕ではなく人魚側なのだと。彼女は夢の中で人間の男に触れこう囁く。
――また海であいましょう、と。

帰りに図書館に寄り、人魚姫を知らない僕のため遥は児童書のコーナーで絵本を探して来てくれた。要約するとこうだ。
海の底の国の人魚の王の末娘、人魚姫は十五歳になった誕生日に海面に出る事を許されそこで人間の王子に出会う。ある日、嵐で難破した船からその王子を救出した人魚姫は王子に恋心を抱く。しかし、王子は自分を助けたのは人間の娘と勘違いをする。王子を助けたのは自分だと伝えたい人魚姫は人間になりたいと願い海の魔女に相談をする。そして声と引き換えに人間の姿になれる薬を手に入れる。ただし、王子が他の娘と結婚すれば人魚姫は海の泡となって消えてしまうと告げられる。結局声の出せない人魚姫は助けたのが自分であることを言えず、恋の叶わなかった彼女は姉たちの持って来た短剣で王子を殺せば元の姿に戻れると伝えられる。しかし心優しい人魚姫は殺すことが出来ずに海に身を投げる。そして、天使となり天国へと登って行く。
読み終えたところで遥が呟いた。
「ねえ、海に行かない?」

正直日を改めたかったのだが今日行こうという遥に強引に誘われ海にやって来た。人気は少なく、波間に戯れている男女四人組と犬の散歩をしている人が一人だけだった。水面は全てオレンジに染まり、波打ち際に寄せる波音だけが静かに響く。
遥は靴と靴下を脱ぎ荷物を砂浜に置いて冷たい海へと入って行く。
「ねえ、おいでよ」
不意に夕日が遥と重なり、僕はぞくりとする。
遠い遠い記憶がよみがえる。波間に漂う微かな記憶。あの夢の続きが脳裏へと浮かび上がる。
夢の中で僕は……
「一緒に入ろうよ」
遥が振り向きゆっくりと手を差し出す。
「……いやだ」
僕は後ずさりをする。
「来て」
夕日に照らされ遥とあの人魚の姿が重なる。
「遥、帰ろう……」
遥はニコッと笑って手を握る様に示唆する。戸惑った僕は勢いよく手を引くつもりで遥の手を握る。すると物凄い力で海の中に引きずり込まれる。
「遥っ‼」
僕は水を飲み喘ぎながら彼女の名を呼ぶ。彼女は彼女の力とは思えぬほどの強力で僕の首を締め上げる。そう、僕は肝心の夢の続きを朝起きる頃には毎度忘れていたのだ。人魚は僕を恨んでいた。憎くて憎くて堪らなかった。僕の頬にそっと触れた後、夜叉の様な面を露わにして僕を締め殺そうとする。僕は恐怖で凍り付く。あれは決して美しい夢などでは無かった。遥の足が五色の人魚の尾へと変化する。僕は足の届かぬ水底へと引き込まれていく。
「誰かっ……」
助けを求める声が波間へと埋もれる。
水の中で彼女の思念がじかに僕の脳へと伝わって来る。
『どうしてどうして気付いてくれなかったの! 助けたのは私よ! あの娘じゃない!』
『止めてくれ遥!』
『許さない絶対に!』
『人魚姫は王子を恨んで死んでいったんじゃない! 心の優しい人魚姫は……』
『黙れ! 憎し、いと憎し!』
目を向けると彼女は既に遥ではなかった。恨み辛みで心を夜叉の如く変えた人魚、美しくそして恐ろしい人魚……無数の泡が取り巻く中で僕は意識を失った。

気付けば僕は病院のベッドだった。部屋には両親がいて心配そうに僕を覗き込んでいた。
「桂太! 良かった」
母が目元に涙を浮かべながら僕の手を握る。僕はぼんやりとした面持ちで両親を見上げた。
「あなた、制服のまま海で溺れていたんですってね。近くに居た大学生の方たちが助けてくれたのよ」
海に着いた時にいた四人組か、とぼんやり思い出す。そして、徐々に記憶が鮮明に蘇ってくる。居たのは自分一人じゃない……。
「母さん、遥は? 今村遥」
「知らないわ、一緒だったの? 救助されたのはあなた一人よ」
僕は全身の力がふっと抜けたような気がした。

後日、僕らの行った海岸に一人の少女の遺体が打ち上げられた。
(了)


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