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伊藤ルルミさん

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海に咲く花

17/06/19 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 伊藤ルルミ 閲覧数:232

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 マコトと出会ったのは、七月のはじめ、ボランティアのサークルでだった。

 そのサークルの掲示板には「みんなで浜辺のゴミ拾いをしましょう」と書いてあった。きたる海開きにそなえて、地元のみんなできれいにしておこうというのだ。

 マコトは、サークルの発起人でリーダーだった。
初参加の私を認めると、よく通った低い声で私の名前を呼び、ほほえんだ。少し緊張していた私は、マコトの笑顔を見て、ほっとしたのを覚えている。

たばこの吸い殻、花火の残骸、よれよれになった紙屑、スナック菓子の袋。
 そんなゴミばかりだったけど、漂着物であるというだけで、ロマンがあった。誰かが捨てたもの。どこからか流れ着いたもの。
 私たちは、そんなものを拾いながら少しだけ話をした。
 マコトははじめて会った私に優しく、紳士的で、それは誰にでも向けられた優しさなのかもしれなかったけど、嬉しかった。

 浜辺には、うすむらさきのハマヒルガオが群生していた。
 潮風に吹かれ、さらさらとした砂に覆われて、植物が育つ環境として適しているとは思えない。ただこの場所で咲くべくして咲いたのだろう。
 マコトは花に目をとめると、ちょっと目を細めて、「海にもこんな花が咲くんだね」と笑った。

 掃除が終わると、みんなでコンビ二に寄ってジュースを買った。
 ビーチサンダルや浮き輪、サングラス。海辺のコンビニには、海に関するものがなんでもそろっている。もうすぐ夏なんだなと思わせてくれる。
 今度はみんなで海に入りたいね、などと言葉を交わし、別れた。

 労働のあとの心地よい疲労感で、ふらふらと私は家路につこうとした。
 すると、車の陰から、ひょいひょいといたずらっぽく手招きするマコトが見えた。

 私は磁石に吸い寄せられるように、マコトのもとに向かった。
 心臓が鳴っているのが分かって、あ、私の心臓、と思った。
 食事をして、カラオケをして、そのままホテルに誘われた。
 どうしようか迷った。一度は断ったけど、嫌われるのが怖くて結局は身を許した。

 そのあとも、何度かボランティアに顔を出したが、マコトは何事もないような態度だった。
 みんなの前だから、ということでもないようで、他の女の子に優しくしていた。

 はじめは、私が何か変だったかなあと思った。あの夜、何か変なこと言ったり、したりしたのかなあと。

 マコトが「プレイボーイ」という話をボランティアのメンバーから聞かされたのは、後の話だ。
 プレイボーイというのかしら、と苦笑した。私はただ人形のように、マコトのコレクションに加わったのだろう。

 一瞬でも、恋だったから、後悔はなかった。 
 でも恥ずかしかったし、悔しかった。
 マコトのことは、思い出の箱に閉じ込めて、秋風が吹くころには、ボランティアをやめた。

 それから歳月を経て、私は父のすすめる男の人と結婚して、子供ができた。

 7月のはじめ。

 もうすぐ海開きという頃、子供と共に海に来た。
 ざーんざーんと波の音が高い。風が強く、肌寒かった。
 子供が棒切れを拾いながら、「お花が咲いているね」と指差した。
 
 そこに咲いていたのは、ハマヒルガオの群れだった。
 あの夏のはじめから、ずっとそうしていたかのように、静かに海風に揺れていた。

 私は息を吸って、ほほえんだ。
 「海にもこんな花が咲くんだね」


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