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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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コーヒー染めの恋

12/11/26 コンテスト(テーマ):第十八回 時空モノガタリ文学賞【 コーヒー 】 コメント:10件 草愛やし美 閲覧数:3124

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「染めてみたの……」
 僕の前にぬっと突き出されたそのスカーフは見覚えがあった。
「確か、それって……」
「うん、そう、あなたが贈ってくれたものよ」
「真っ白だったよね」
「そう、白かった、でも、それは、過去形。こんな色になったの、コーヒーで染めたのよ」
「コーヒーって!」
「さあね、琥珀色といえば聞こえはいいけど、もう、白でなくなったわ。あの時、あなたは、大人の女、それも本物の女に似合うのは白色だとかって言った。だけど、私、違うかもだから……」
 わざとか、俺への当てつけかと出かかった言葉を俺は、無理やり呑み込んだ。文美はこういう嫌がらせをする女ではなかったはずだ。俺のせいだと思った。
 文美と書いて「ふみ」と読む。お父さんが、美しい文(ふみ)のように、静かだが、人を癒したり感動させるようにと名付けられたそうだ。文美は、僕の理想の人が大人の女性だと言った時に、すぐに私は名前もそれにぴったりよと答えた。「静かに物思うようなそんな名前でしょ」と、微笑んだ。その名のように、文美は、分別のよくできた女性だった。付き合ってすぐに子供はいらない主義よと文美に宣言された。
「どうして?」
「だって、仕事あるじゃない、いまどき共働きでないと、生活できないわよ」
「だけど、それでお前は本当にいいのか?」
「いいの、いいの、割り切ってますから」
 ブラックコーヒーを飲み干しながら、文美は人生を決めていた。まるで、黒いコーヒーに染まってしまったかのように、苦みを呑み込んでいたのかもしれない。たった今まで、俺は全く気づいていなかった。昨日の文美は、大人びた口調で、淡々と受け流すように言い放った。
「そうね、男はみんな浮気するものだからね、あなたも男だから、許すわ」
 俺には、できた恋人だと思ったけれど、何となくしっくりこなかった。俺自身が自分を騙しているような気になっていた。でも、大人の女性なんだなと思い、これもありかと納得しようとした。だけど、今夜はどうだ、会ったとたんに叫びだした。いつものブラックコーヒーを、一口飲んだだけで、表情が強張った。

 およそ涙と縁のない文美が泣いている。
「ほんとは、赤ちゃんだって欲しかった。ほんとは、ブラックコーヒーは苦くて嫌だった。ヒロが悪いのよ、大人の女が好きって言ったじゃないの」
 彼女は泣きじゃくっている、まるで子供だ。俺が浮気していると知って文美は本音が出たのだ。
「大人じゃないの私、私、違うの。だって浮気一つうまくかわせないんだから、いいの、もう私とは別れるんでしょ、ヒロの理想の恋人は大人の女性だもの」
 泣いている文美にどう説明したらいいのか、俺は困ってしまった。泣かれるのに弱いのは父さんに似たのだろうな。母さんはよく泣いた、テレビで可哀想な話なんか見るとすぐに鼻を詰まらせていた。それどころか、俺を怒っていても、自分の言った言葉に感極まって泣き出したり、正直持て余すことが多かった。父さんは、そんな母さんに弱ったなという表情で何も言わずに、見ているだけだった。「母さん、俺はあなたの子供で、あなたは大人で母親なんだろう」と、呆れながら俺は、そう言った。
 そんな、母親を見て大人の女性に憧れ、理想の人はと聞かれると、大人の女性と答えるようになった。母さんのような子供っぽい人を挙げればマザコンみたいで、恥ずかしいと思っていた。

「まるで、アメリカンコーヒーだな俺って」
「アメリカン?」
 急に泣き止んで文美は、首を傾げた。
「薄くたってコーヒー、何も変わっちゃいないのに格好つけてた」
 ますます首を傾げる文美に俺は絞り出すように言った。
「俺、ほんとはコーヒーはブラックより、ミルクたっぷりのカフェオレ派なんだ。ブラックは、今日からやめだ。だから、お前もカフェオレに付き合え。子供でいいんだよ、無理に大人にならなくっても、文美は文美のままで俺は好きだから、俺、子供の文美が好きだ」
「でも、あのひとは?」
「ば〜か、早とちりだよ、彼女は兄貴目当てさ。俺は、バレンタインチョコ渡してくれって、頼まれたの。お前は昨夜、早とちりして捨て台詞して帰ってしまったけど、俺、大人の女を公言している文美なら、すぐに説明しなくてもいいかと思ってたんだ。それに何か、言い訳けっぽいし……」
 文美がまた泣き出した。
「馬鹿馬鹿、文美の馬鹿。ヒロごめんねコーヒー色にしちゃったよ大事な贈り物なのに」
「いいんだ、二人で琥珀色に染まろう。これからの人生、お互いいろんな色に染めあって生きていこうな」

 母さん、どうやら俺は、いつの間にか、母さんのDNAに似た人を選んでいたようだ。これって、やっぱりマザコンっていうんだろうか。文美は、泣き虫だけど、年をとっても可愛い人になるだろう、母さんのように。俺は、繋いだ文美の手をギュッと握りしめた。


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このストーリーに関するコメント

12/11/26 ドーナツ

拝読しました。

若者からしたら 大人の女性って魅力的でしょうね。お母さんをみて大人の女性に憧れを持ったというのがすごくいいですね。優しい男性だと思います。この二人、いいカップルですね。
ふみと言う名前、静かに物思うようなそんな名前。。。これ、私も同じイメージです。

二人で琥珀色に染まろうって、すごくナイス&クールなセリフ。

12/11/27 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

若い人にはコーヒー染めのマフラーはちょっと大人すぎましたね。
無理をして背伸びするとどこかにほころんでくる。
男も女も等身大で恋するほうが幸せなのだと思いました。

12/11/28 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

「大人の女性」って男が考えた、都合の良い女の事かも知れない。
なかなか分別のある女性になるのは難しいです。

自然体の恋の方が長続きするように思いますがね。

12/12/09 石蕗亮

草藍さん
拝読しました。
男女の恋愛感の相違がうまく表現されていて良かったです。
理想の押し付けにならずに良かったですね。

12/12/17 石蕗亮

草藍さん
受賞おめでとうございます!
心情を珈琲に例えた良い作品でした^^

12/12/17 草愛やし美

ドーナツさん、お読みくださってありがとうございます。

書いていて何だか若い学生時代に戻ったような気持ちになれました。恋物語は、どちらかいうと苦手なんですが、コーヒーがうまく書かせてくれたようです。
嬉しいコメントに感謝しています。

12/12/17 草愛やし美

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

無理をしているとどこかで破綻します。このカップルは早めに気づくことができてよかったのでしょう。まあ恋の仕方もいろいろ学んでいくものなので、これもいいかと思います。

12/12/17 草愛やし美

泡沫恋歌さん、お立ち寄りくださってコメントありがとうございます。

かなり年くってますが、私自身、大人がよくわかっていないんです。(汗)でも、こういうイメージかなと考えて書きました。恋も人生も生きることは自然体が楽で長持ちしますね。いやほんま!!

12/12/17 草愛やし美

石蕗亮さん、二度にわたってお立ち寄りくださいまして、コメントをありがとうございます。

男女間で恋というか考えの相違はあると思います。基準とするものが、人間性なんていうと共通項が多いでしょうが、男女間に関してはどうも違っているようです。
この感覚の差で、時には喧嘩になったりするようですが、これがあるから見えないので、恋は楽しいのかもしれません。あっ、時には苦しく辛くなるようですが、恋とはそういものと片づけてしまいましょう(苦笑)

12/12/18 笹峰霧子

読ませていただきました。
文体が柔らかですんなり伝わってきました。
こんな風に書けたらいいなと思います。

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