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風白高部さん

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震えて揺れる、音模様

17/06/18 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:2件 風白高部 閲覧数:198

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「今日は一体何をするんです?」
「ふふっ、それは見てのお楽しみ」
 僕の質問に美奈先輩は眼鏡を直しながら、柔和な笑みを浮かべた。
 先輩の手元にあるのはパソコンにつないだ小さなスピーカーと薄い鉄製の円板、小型のマイク、それと何故か食塩の入った小瓶。先輩は、さも楽しそうに目を輝かせて鉄板にスピーカーを貼り付け始めた。
 しんと静まりかえった科学部の部室の中にいるのは、僕と先輩の二人だけ。他の部員はほとんどが浮遊霊で、今頃はどこかを漂っていることだろう。先輩が作業する音が何かのBGMのように流れ、僕はそれをただじっと見つめる。
 この時間が、僕は好きだった。
 先輩が少し癖のある髪を揺らして実験装置をくみ上げていく様を見ていると、いつだって心躍らされる。今からどんな実験が始まるのかと、期待感で胸が膨らむ。そしていかにも楽しげに準備をしている先輩の横顔を見ているのが、とても好きだった。
「これで良し、っと」
 どうやら完成したようで、先輩がにっと笑う。
 それはとても簡素な装置だった。
 水平に固定された鉄板の裏にスピーカーがくっついている、というだけの代物だ。さらに鉄板の上には何故か塩がまかれていて、スピーカーはパソコンにつながっている。それが一体何のための装置なのかは、僕にはうかがい知ることは出来なかった。
「それじゃ、ちょっと鉄板を見ててね」
 先輩はそう言ってパソコンを操作。途端、スピーカーからピーという甲高い音が鳴り出す。スピーカーの振動が伝わっているのか、鉄板上の塩が震えだした。それは僕の見ている前で意思を持っているかのように動き出し、模様を描く。
 そして鉄板の上に、花が咲いた。
 塩の花だった。
「わぁ……」
 思わずそんな声が口から漏れた。
 さらに先輩がパソコンを操作すると、スピーカーからさっきより高い音を流し始めた。それに伴って塩の花は、一瞬で複雑な幾何学模様へと変化。魔法陣にも似たその模様は僕から言葉を奪い去り、瞳を釘付けにする。それはまるで、本当に魔法にかけられたかのようで。
「……ど?」
 先輩は誇らしげに、小さく胸を張る。
「これはドイツの物理学者、エルンスト・クラドニが発見した音の可視化法でね、この模様をクラドニ図形って言うんだよ」
 先輩がそう説明してくれたものの、僕は感嘆の声をあげることぐらいしか出来ない。
「それじゃあ、次は声だとどうなるのか試してみよっか。……やる?」
 先輩から向けられたマイクを僕はそっと受け取ると、『あー』とか、『うー』とか、そんな当たり障りのない言葉を口にしてみた。けれど花も綺麗な模様も出来なくて、塩の絨毯の上にぽつんと申し訳程度の穴が空いただけだった。
「んー、やっぱり男の子の声は低いから難しいかな。ある程度周波数が高くないと綺麗な模様が出ないみたいだし。じゃ、次私がやってみるね?」
 そして、先輩の声。
 きん、と鼓膜を打つような透き通った高音が、鼓膜と背筋を震わせた。鉄板上の塩も揺れて、僕の時とは比べものにならないような綺麗で複雑な模様を描く。でも僕は模様よりも、先輩の声と、その唇に目を奪われていて。
「……ど?」
 ふ、と。つぼみがほころぶように、先輩の口元が緩む。
 それを見た瞬間、心が震えた。
 そしてその言葉が、自然と、出てきた。
「先輩、好きです」
 しん、と空気が立ち止まり、先輩はきょとんと目を見開く。心臓すら止まってしま
 いそうな静寂の中、僕は先輩の言葉を待つ。あまりの静けさに、どくどくと血液が流れる音までが聞こえた。
 ややあってから先輩が、こほんと小さな咳払いをひとつ。
「……今の音の模様は、きっとこんなだね」
 先輩は指先でそっと、円板をなぞって。

 そこに、ハート型の花を、咲かせた。


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このストーリーに関するコメント

17/06/19 霜月秋介

風白高部さま、拝読しました。

音の可視化技術の実験ですか。口から出る声の響きもそうですが、心臓の音で相手の心境を可視化できるようになる技術も、近い未来に開発されるかも(笑)

17/06/19 風白高部

霜月秋介様、コメントありがとうございます。

心臓の音で気持ちが読まれてしまったら、隠し事とか出来なくなってしまいますね(笑)。
そんな未来、来て欲しいような欲しくないような(汗)。

お読み頂き、ありがとうございました!

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