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ぴっぴさん

少し投稿してみて自分が『異世界』『ファンタジー』『魔法』『有り得ない設定』がダメだと知りました。

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花火師

17/06/18 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:2件 ぴっぴ 閲覧数:236

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二十三歳の彼は花火師になると言って、行き先も告げず突然アパートを出た。
四つ歳上の私は彼と結婚するものと思っていたが、その理想も花火のように散った。
「オレ明日の弁当いらないから」それが最後の言葉になり二年が経つ。その間メールや電話、なにもかも連絡を絶たれた。
腹が立つというか、呆れるというか......それからの私は飲むと愚痴が出て来て攻撃的になり、最後は自己嫌悪で涙して自分の不幸を忘れるほど酔いつぶれる日が多くなった。
「なんでこんなになっちゃうかな〜」
いつの間にか心の毒素が漏れていて、気がつくと同情してくれていた友人も近寄らなくなっていた。 
 結婚が晩婚化してきてはいるご時世だが、将来の自分の花嫁姿を想像できない。こうして独身として生きる決意を固めて、いびつになって行くのだろうと思っていたら三年近くなってから突然メールが来た。
『準備が出来たので会いたい』
メールの件名に書いてあり、本文は何も書いていない。乾燥したメールを送ってくるあたりが彼らしい。怒るべきか、許すべきか? 出方次第では一生後悔するだろうと思った。しかし二時間と悩まないで『わかりました』のスタンプを返信していた。

 再会の場所は郊外の有料花火大会の会場で、名前を言えば受付を通れると伝えられていた。夏の空気が夜の匂いをまとって河原を覆っていた。
入り口の女性に笑顔で通してもらい、たくさんの人の中に彼の姿を探してみる。
 いつの頃から花火大会が有料になったのだろう? ネットでチケットを調べると大人七千円だった。音楽との融合というのは、お金をかける価値があるのだろうか。花火にお金をかけることに意味を感じていない私はチケットを持って並んでいる人よりも大きな得をしている気がして少し気分が良かった。多分おばさん化しているだけなのだろう。
「おー、久しぶり!会いたかったよ」
 振り向くと三年ぶりの笑顔がそこにあった。
「元気そうじゃない」
 最初の言葉だけは決めてきていた。
「オレの設計は第七幕だからさ、そん時列の一番前に来ていてくれるかい?」
「何?その幕って?」
「今の花火ってさあITなんだよ。音楽のリズムに合わせて打ち上げたりできるんだ。ワグナーの新世界とかに合わせて花火で幕決めたらマジやばいから」
オレのすごいと思ったものをすごいと感じてもらいたいという、子供のような動機で喋っている。
「サボってるんじゃねーぞ!」
親方のような人に怒鳴られて、 彼は慌ただしく手を振ってホームレス仲間の中に戻っていった。恨み辛みを言うヒマもなく再会劇は幕引きとなり、家族連れや恋人同士の中に、お一人様で放置になった。
なんか普段と変わらないじゃない? 今の今まで何やってたのさ? 私のことを少しは考えているのかしら? 心の中に質問が溢れ出し、答えのない『自爆病』が顔を出した。放っておくとまた自己嫌悪でイヤな思いをしてしまう。その悪いクセをやめるチャンスが今だと自覚していてもだ。
「あいつが勝手に出て行ったのに少しも悪いと思ってない! 一体誰のせいで鬱病一歩手前まで来てると思っているのよ!」
情緒不安定。誰が見ても今の自分はそう見える。ただ躁鬱の躁がこないだけ。

激しい音響と共に花火が打ちあがった。
花火の破裂音が音楽にシンクロしているのかと思ったら、花火の光がシンクロしていた。
光の噴水。
暗闇から湧いてくる意思を持った光達。
その美しさに心臓までもシンクロしている。「わあー」という歓声があちらこちらからあがっている。その声が幻想の世界から引き戻してくれる。多分、人の作った物の中で最も美しいのが花火だろう。

 幕というのが何なのかわからないので早々と最前列に向かった。もちろん空いている隙間などなく、少し離れて木に寄りかかった。見るポジションが変わると雰囲気も変わり、チューチュートレインの渦巻きダンスを横から見ている感じを受けた。
「お待たせ」
振り返ると彼が立っていた。
「三年くらいね」
「そう言うなよ。これでも急いだんだぜ」
引火性のある言葉だった。
あんたね!何も言わないで消えるってどういうこと!と怒鳴りつけようと息を吸い込んだ時だった。
「お前が花火師になれっていうからやってみたけど、やってみたらハマっちゃって約束守れないうちに会いに来ちゃったよ」
「?」
うっ? 私なんか言った? 何か約束したっけ? すごいまずい気がする。
酔った勢いで言ったこと覚えてないパターン? もう! こうなったら!
そのまま首に手を回してキスでごまかすしかない!

距離をつめて変な汗のキス。
彼の唇についた口紅を黙っておくことが唯一の仕返しになった。


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このストーリーに関するコメント

17/06/22 沓屋南実

こういう花火大会あるんですよね? 行ったことはないのですが。
花火にワーグナー。ストーリー展開とあいまって、情景がぱあっと眼前に広がりました。
彼が花火師になった理由が明かされるところ、彼女はすっかり忘れているというのが、唐突な感じを受けました。何か、伏線といったような納得できそうなものが、出てきていたら良かったかなあと思います。
以前の作品もボチボチ読ませていただいていますが、文章が読みやすくて内容も明るくて好きです。次回作、楽しみにしています。

17/06/23 ぴっぴ

コメントありがとうございます!

ワードで2000文字ギリギリに書くとサイトから文字が多いと来ることがあり、その場で削ったら意味不明な文章になってしまいました(*_*)
そんな文章に真摯なコメントをいただき大変感激しています。

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