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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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RTフォーエバー

17/06/17 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 miccho 閲覧数:109

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 好きな言葉はルーティン、現状維持、中立・中庸、腹八分。
 嫌いな言葉はイレギュラー、現状打破、対立・極端、ムラ八分。

 そんな僕が下校のルーティンを逸脱してまで見知らぬおじさんに声をかけたのは、正義感からでは、もちろん無い。
 ただそのおじさんが、まるでテスト終了5秒前に、裏面にも問題があることに気づいたみたいな、絶望しきった顔を浮かべていたとあっては、さすがの僕も放っておけない。なお、テストの例えは僕の実体験では断じて無い。断じて…。あぁ、やけに早く終わったなとは思ったんだよなぁ。

「あの、大丈夫ですか」
 突如、そのおじさんは丸眼鏡の奥の瞳を輝かせてニタリ、と笑った。
「少年よ、私が見えるのか?」
(しまった、関わりを持ってはいけない種類の方だった)
 彼が伸ばしてきた手を振りほどこうとしたが、そのおじさんは予想外の俊敏さを見せた。
(掴まれる!)
 そう覚悟した僕の身体に、おじさんの両手が触れることはなかった。
 おじさんの両手は、僕の胴体をすり抜けていた。僕の身体は無事だった。

 どうやらこれが俗にいう幽霊と言うやつらしい。

「いやー、助かったぞ、少年よ。これまで通りすがりの人々に声をかけたのだが、皆無視を決め込みおって。あそこの柱にうずくまっていたら犬におしっこかけられるし、散々だったぞ」
 おじさんは饒舌にまくし立てた。話し相手が出来てよほど嬉しいのだろうか。
「それにしても、どうして化けて出ちゃったんでしょうね。何かこの世に未練でもあったんでしょうか」
「うーむ、思い出せん。自分が誰なのかも、どこで何をしていたのかも」
 おじさんは心底困った表情で頭をかきむしった。
「おじさんの格好から察するに、おそらく明治時代あたりの方なんですよね」
 どこかで見たことがある気がする、というのは、今は黙っておこう。
「ふむ、そうなのかもしれん。だが、今の私にあるのはこの国に対する恨み、怒りだけだ。その感情だけが頼りだ」
「穏やかな話では無さそうですね。まあ焦らず思い出していきましょう。あ、コンビニ寄っていいですか。最近発売されたあそこのバウムクーヘンが絶品でして」
「貴様、幽霊が困っているというのに呑気な…。む?今バウムクーヘンと言ったか?」
「あれ、ご存知なんですか」
「そ、それはドイツのお菓子のことではないか」
「多分そうですね。確かバウムが木で、クーヘンがケーキ…ってそれがどうかしたんですか」
 おじさんは青白い顔をさらに青ざめさせて、小刻みに震えていた。
「ドイツ怖い、ドイツ怖い」
 やおら念仏のようにつぶやき出した。
「あの、ドイツに何かトラウマでも?」
 僕はその滑稽な姿に吹き出すのを必死にこらえながら尋ねてみた。
「思い出したぞ。私は昔ドイツに留学していてな。そこで病気になって命を落としたのだ」
「それは災難でしたね」
「全く感情が篭っていないぞ」
 困っている割に意外とツッコミは冷静だった。
「まあまあ。でも、ドイツに留学していたのは大きなヒントじゃないですか」
「それもそうだな。一体何をしに留学したのか。それさえ思い出せれば」

 もお〜い〜くつ寝ると〜、おしょおがつ〜

 元気に歌いながら下校する小学生とすれ違った。
「小学生は無邪気で可愛いなぁ」
「それだ」
「はい?」
「今の歌だ。少年、反復してみせよ」
 おじさんの剣幕に押され、僕は渋々「お正月」の冒頭を繰り返した。
「そのメロディー、忘れもしない。それは、私が作曲したものだ」
「え、あの国民的唱歌を?確かあの作曲家って…」
「瀧廉太郎。そうだ、私の名前は瀧廉太郎だ」

 おじさん、もとい全ての記憶を取り戻した瀧廉太郎の告白を、僕はバウムクーヘンをかじりながら聞いていた。
「ヒット曲を連発する私を逆恨みした官僚共に、ドイツに強制送還させられたのだ。そこで流行り病の結核にかかり、私は命を落とした」
「そんな悲惨な最期だったとは。でもあなたの曲、今もいくつも残っていますよ。お正月もそうですし、荒城の月、僕も音楽の授業で歌いました」
「そ、そうなのか」
「おそらく日本の歴史上最も有名な作曲家じゃないですか」
「すまん、よく聞こえなかった。もう一度」
 絶対聞こえてるだろ。隣でニヤニヤしている男に空手チョップをお見舞いしたが、空振りした。
「そうか、そうか。子どもたちが私の曲を」
 そう独り言つ瀧廉太郎の横顔は、とても優しかった。もうこの世に未練は無いだろう。心置きなく成仏して下さい。

 後日談を少し。
 瀧廉太郎は結局成仏しなかった。まだまだこの世に未練たっぷりのようだ。やむを得ず家に居候させると、僕のPCの作曲ソフトで創作を始めだした。謎の匿名作曲家RTが世間を賑わすのは、それから三ヶ月後のことである。


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