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ツチフルさん

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ラブソング

17/06/17 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:3件 ツチフル 閲覧数:319

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 カーラジオから流れてくるのは、ラブソング。
 吐息が触れあうほど近づいても、その唇に触れられない。そんな恋愛初期のもどかしさを歌っていた。
「こいつの歌、ラブソングばっかだな」
 祐介は舌打ちをして、ラジオを切る。
「ほかに歌うことないのかよ」
「でもこれ、ヒットしてるぞ」
 彰人は助手席から手を伸ばし、切られたラジオをつける。
「俺らもこういうのを歌おうぜ。蹴った石ころの行方とか、捨て猫たちのレストランとかじゃなくて」
「……」
「お前はいい声してるし、絶対人気でるよ」
「俺は、誰もまねできない音楽をやりたいんだ」
 ラジオから今週の一位の曲が流れ出す。ラブソングだ。
「こんな低俗な歌じゃない」
「低俗、か」
 彰人はため息をついて、シートにもたれかかる。
「…俺の幼なじみで、お前みたいなやつがいるよ。ラブソングが嫌いで、意味不明の歌ばっか作ってる」
「俺の歌は意味あるだろ」
「そいつ、メンバーと揉めてさ。この間バンドを解散した」
「そりゃ、ご愁傷様」
 言ってから、祐介はハッとなって彰人を睨む。
「おい。俺たちも解散したいとか言わないだろうな」
「いや、その逆」
「逆?」
「そいつ、真って言うんだけどさ。…うちに入れてやれないかな」
「俺らに?」
「歌はうまいし声もいい。このまま腐らせたくないんだ」
「…つっても、相性があるだろ。性格とか、音楽性とか」
「大丈夫。あいつもラブソング嫌いで意味不明な曲を作る。相性最高だよ」
「俺の歌は意味があるっての」
「一度、会ってみてくれ」
「意味あるからな」

 真が女だと知ると、祐介は「音楽がぶれる」と抵抗したが、そこはお互いラブソングを嫌い、意味不明な歌を作る者同士。
「彰人。あいつ、いいぞ。俺の音楽を完璧に理解してる」
 祐介が興奮気味に語れば、
「あき君。いいね祐介。私、同じ感性の人に初めて会ったよ」
 真も楽しげに笑う。
 彰人の思惑通り、二人はすぐに意気投合した。
 力強い祐介の声と高音域が美しい真の声は相性が良く、彰人の作る曲にもマッチする。
 あとは歌詞だ。歌詞さえまともになれば…
「ラブソングなんて焼き直しの曲ばっかでしょ」
「逢いたい、抱きしめたい、せつない、ため息。うるせえっての」
「気持ち悪い」
「今歌うべきは、蹴った石ころの行方とか…」
「捨て猫たちのレストランよね」
「お前、最高」
「祐介もね」
 祐介と真は時間を忘れ、嬉々として意味不明な詞を紡ぐ。
 初めて理解者を得た二人が惹かれあうのは、ごく自然の流れだろう。
 それは、彰人の狙いでもあった。


「――私、祐介のこと好きみたい」
 三人で活動を始めて半年を過ぎた頃、真は彰人に打ち明けた。
「…いや、俺じゃなくて祐介に言えよ」
「言えないよ。言ったら、この関係が壊れちゃう」
「……」
「ごめん。黙ってるつもりだったんだけど、誰かに言わないと暴走しそうで」
 ため息をつく真の横顔に、彰人は小さな痛みを覚える。
「伝える気、ないのか?」
「うん」
「…じゃあさ」
 彰人は彼女の想いを利用することに罪悪感を抱きつつ、それでも言う。
「それ、詞にしてみろよ」
「詞?」
「嫌いなラブソングも、今なら共感できるだろ」
「最近、片思いのラブソング聞きまくってる」
 自虐気味に真が笑う。
「それを自分の言葉で詞にするんだよ。きっと、いい歌ができる」
「…かもね」
「できたら見せろよ」
「やだよ。恥ずい」
「見せないと祐介に言う」
「ちょっと!」
「期限は一週間な」
「……まじで見せんの?」
「楽しみにしてる」
「…言わなきゃ良かったなあ」
 真は顔をしかめ、それから少し笑った。



 彰人は今、二人の前で二つのラブソングを弾いている。
 一つは真が作詞した曲で、もう一つは祐介が作詞した曲だ。 
「実はさ、真よりも前に祐介から同じ話されてたんだ」
 笑って打ち明ける彰人を、頬を染めた真が睨む。
「何で教えてくれなかったのよ!」
「二人にラブソングの良さを知ってほしくてね。実際、良い曲できたろ」
「…まあ、な」
 真の歌詞を読みながら裕介が頷く。
「ちょっ、読むな!」
「お前だって俺の読んでるだろ」
 二人はお互いの歌詞を握りしめて言いあう。 
「次のライブはこの方向でいこう。あと二・三曲作れるだろ。お前らのラブソング」
 ちゃかす彰人を二人が睨む。
「ひとつ、条件がある」
「なに?」
「お前も恥をさらせ」
「…どうしろっての?」
「一曲作れよ。ラブソング」
「そうだ。あき君も恥をさらせ!」
 詰め寄る二人に、しかし彰人は笑って頷く。
「ああ。それなら、もう作ってある」
「まじか」
「え。なになに、ラブラブのやつ?」
 目を輝かせる真を見て、彰人は笑って答える。
「いや。好きな子の恋を応援する、失恋ソングだよ」  了


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このストーリーに関するコメント

17/06/17 クナリ

テンポのいい、多重奏のラブストーリーが面白かったです!

17/06/25 ツチフル

クナリ様

感想をいただき、ありがとうございます。
ちょっと駆け足気味でどうかとも思いましたが、楽しんでいただけたのなら幸いです。

17/07/29 光石七

拝読しました。
テンポのよい会話と展開が心地良かったです。
ほろ苦い思いをさらりと軽く口にするラストの台詞がいいですね。
素敵なお話をありがとうございます!

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