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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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カイジュウさんのマーチ

17/06/16 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:177

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  青年は、昨日から地下1階の古着屋でアルバイトをしていた。落ち着いた雰囲気の店だ。この店に辿り着くには、U字になっている長い階段を歩かなくてはならない。彼は暇だった。さっきまで本を読んでいたが、それにも飽きた。そこに、小さな子どもの可愛い歌声がきこえてきた。
「〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜犬さんワンワン〜ネコさんニャーニャーないても〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜ウシさんモーモー〜ひつじさんメーメー〜ことりさんピチピチないても〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜カイジュウさん」
 歌は、不自然にぴたりと止まった。気になった青年は、歌声が途切れた階段の方に向かってみた。5歳くらいの男の子が、一番下の段で立ち止まり、なんだか困っている様子だった。
「あと1段で終わりじゃないか? どうした?」
「だって……」
 男の子は、黙ったまま悩んでいたが、
「あの……お兄さん。カイジュウさん、見たことある?」
 カイジュウって『怪獣』だよな? と思いつつ青年は答えてみた。
「あるよ(映画で)」
 男の子の目が、驚きで真ん丸くなる。青年は、ちょっと男の子をからかってみた。
「カイジュウさんは、山の向こう側にいるよ。そこで、月のウサギさんと一緒に餅つきをしているんだ」
 男の子は、たちまち目を輝かせる。
「ボク、お山のむこうがわに行きたい! おもち、たべたいの!」
 青年はクスクス笑う。このくらいの年頃の子をからかうのは面白い。ところが、男の子は、またシュンとしてしまう。
「でも、ボク行けないや。この段からおりられない〜」
 『この段』にこだわる男の子に、「なんだよ、それ」と青年は聞く。男の子は少しの間、どう説明しようかと悩んでいるようだったが、やがて、
「カイジュウさんは、どういうふうに鳴くの?」と聞いてきた。青年は首を捻りつつ、映画の怪獣を思い出しながら答えた。
「そりゃあ、まぁ……『ガオー!』とか『ガオガオ!』?」
 それを聞いた途端、男の子は「わぁ!」と喜びの声を上げて、歌の続きを歌い始めた。
「……〜カイジュウさん ガオガオガオー!」
 そして、最後の段をピョンと飛び降りた。彼は、満面の笑顔で叫んだ。
「お兄さんのおかげだよ! やっとお歌ができあがったの、ありがとー! さぁ、お山の向こうのカイジュウさんにおもちもらいに行こうっと! ばいばーい!」
 小さな男の子は、タタタッと長い階段を駆け上っていった。
「俺も行きたいけど……でもなぁ、バイトあるもんなぁ〜」と、青年は笑顔で呟いた。
 
 翌日、またあの男の子がやって来た。今日は歌わないで階段を駆け下りてくる。彼は青年を見つけると、泣きながら訴えた。
「お山のむこうには、カイジュウさんもういないって。カイジュウさん、ウサギさんとつきたてのおもち持って、お月さまに帰っちゃったって!」
 ものすごく残念そうである。それにしても、昨日作った物語に、いつの間にか続きのお話が出来ていた。(誰が続き作ったんだよ?)青年は、その人に会ってみたい気がした。何か深く考え込んでいた男の子が、突然歌い出した。新しい歌を作ったらしい。
「〜カイジュウさん〜ウサギさんとおもちつき〜お月さまでも おもちつき〜おいしいおもち ボクもたべたい〜カイジュウさん くださいな〜おいしいおもち くださいな〜」
 自分の思っていることをそのまま歌にしたらしい。青年は、黙って聞いていた。が、小さな男の子が口の中で早口に呟いたのを聞き逃さなかった。
「『カイジュウさんのマーチ』ウォルター・ロビン・ノース。の歌でオオクリイタシマシタ。……あぁ、なんかカッコイ〜……」


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