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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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トイレのバタコさん

17/06/15 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 霜月秋介 閲覧数:325

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 最近、私が勤める会社の女子トイレがなにやら騒がしい。いや、騒がしいといっても、聞こえてくる女子社員のガールズトークがはずみにはずんでうるさいといった意味ではない。それはいつものことだ。ここ数日、本当に騒がしいのだ。うちの部署である週刊モノガタリ編集部に、あの子が、都井畑子が入社してきてから。

 畑子は高校卒業したての、黒縁眼鏡をかけた内気な女の子だ。素直でいい子なのだが、内気でなかなか職場になじめず、昼食の時間も、持参した弁当を社内でひとりぽつんと食べていた。そんな内気な彼女を私は上司として気にかけていたが、もっと私が気にかけていたのは、彼女がいつも持ち歩いている、馬鹿でかいリュックサックだ。
 トイレに行くのに、男子はたいてい手ぶらだが、女子はハンドバックを持ち歩いている人が多く見られる。それは別にいいのだ。しかし彼女の場合は、畑子は何故かいつも、その馬鹿でかいリュックサックを背負ってトイレにいくのだ。そして彼女がトイレに向かった直後、トイレの方から突然、デスメタル調の曲が大音量で流れてくる。毎日だ。

 彼女が背負っている馬鹿でかいリュックサックの中身はラジカセだった。たまたまトイレにいた他の女性社員の話では、曲にあわせてトイレの扉が激しくバタバタと暴れているそうだ。おそらく中で畑子が扉に向かって殴る蹴るなどの暴力的な行為をしているのだろう。そうすることによって、日々のストレスを発散しているのだろうか。たまたまそのときトイレで用を足していた人間はどれだけ驚くことだろう。突然大音量のデスメタルが流れてくるのだから。わざわざ職場にラジカセを持参してまでそんなことをするよりも、家で思う存分やればいいと思うのがだが、何故か彼女は職場のトイレでそれをやるのだ。あのデスメタルは、内気な彼女なりの『私はあなたがたに対して物凄く腹を立てている』という意思表示なのだろうか。内向的な人間は何を考えているかわからないぶん、恐ろしいところがある。何度職場の人間に注意されても、彼女は知らん顔で毎日欠かさずそれを繰り返す。そんな彼女を、まわりの人間は『トイレのバタコさん』と呼ぶようになった。

 知的好奇心を刺激された私は、ある日の昼休み、その『トイレのバタコさん』と一緒に編集部内で昼食を食べた。私は週刊モノガタリ編集部記者、未知野領行。雑誌の中に『今週の珍人』コーナーを設けており、常日頃、こういった珍しい人物をネタにした記事を書くのが仕事だ。きっと彼女も、私にいい記事を書かせてくれるはずだ。記事のネタもそうだが、悩み事があるなら彼女の相談に乗りたいという気持ちも私にはある。いったい何故、毎日のようにトイレで大音量のデスメタルを流すのが、暴れるのか、何が彼女をそうさせるのかを、私は彼女に尋ねて見た。すると、彼女はこう呟いた。


「だって、誰にも聞かれたくないんですもの…。わたしのオナラ」


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