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麗蘭さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 初心忘れるべからず

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呼び起こされる想い

17/06/15 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 麗蘭 閲覧数:139

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その日の深夜の音楽番組は、期待の新人と謳い、マイナーな若手の歌手の歌を流していた。
「俺、この歌嫌い」
私は彼のその言葉を聞いて、鈍器で殴られたような鈍い衝撃が走った。
彼は私の微妙な表情の変化に気付かない。
「だってさ、なんか女々しくねえ?別れた女のこといつまでも引きずるなんてさ」
まったくの同意見だった。私もそう思っていて、同じことをあの人に言ったのだ。
そういえば、その時あの人はどんな顔をしていたのだろう?
「……そう、だね」
何とか言葉を絞り出した。
今の私は貞淑な淑女。昔のわがまま娘ではないのだ。
わがまま娘でいてはいけないのだ。
テレビの中で苦しそうに歌う若者たちを、私はぼんやりと見つめた。


優斗は名前の通りとても優しかった。
わがままな私の言うことをなんだって聞いてくれた。
いつも眉尻を下げて「ごめんね」って言うことができる男だった。
愛しい人。過去の人。
有り体に言えば、私の元カレ。
優斗と付き合っていた時にも、この歌がテレビで流れたことがあった。
優斗はいつものように目を細めて私に話しかける。
「僕、この歌好きだなあ」
どうして?昔の女を忘れられないなんて、女々しいだけじゃない。
「うーん、そうかもしれないけど、大切だった人のことをいつまでも大切に思えるのって、きっと凄いことだと思うよ。だって、人は色んなことを忘れていってしまうから」
何それ?意味分かんない。
「うん。彩ちゃんは、ずっと意味が分からないままでいて。その方が幸せだから」
──そう言って優斗は切なそうに笑ったのだった。
優斗は『忘れられない大切な人』がいたのだろうか。
だから、あんなに苦しそうだったのだろうか。
今更そんなことを考えだしてしまう。
しかし、今となっては何も分からない。
私は「つまらない男」と言い放って優斗を捨てたのだ。
あの時に、別れを切り出す前に、聞いておけばよかった。
彼のことをもっとよく知って、彼に寄り添っておけばよかった。
そうすれば、私はもっと早く、優斗がどれだけ素晴らしい人かに気付けたかもしれない。
たくさんの後悔が、一つずつ私の心に絶望の色を落としていく。
本当に、優斗の言う通りだったのだ。
こんな気持ちなんて、知らない方が幸せだったのだ。
でも私は知ってしまった。
この歌の歌詞の意味を理解できるようになってしまった。
私は零れ落ちそうになる涙をぐっと堪えた。
でも。この感覚は嫌いじゃない。
嫌えるはずがないのだ。
これは、優斗が凄いと賞賛した感情であると同時に、私の中で確かに優斗が生きているという証なのだ。
私は立ち上がって、隣でテレビを眺める彼に声をかける。
「ちょっとコンビニ行ってくるね」
「おー」
彼は気だるそうに返事をした。
私は玄関を飛び出して、CDショップに向かった。


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