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風白高部さん

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キミに、目覚めのメロディを

17/06/14 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 風白高部 閲覧数:192

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 放課後で、夕暮れだった。
 忘れ物を取りに来て、航は彼女を見つけた。寂寞とした教室の中、彼女は自分の席について目を閉じ、頬杖をついていた。
 北上という女子だ。
 下の名前は聞いたことがあるものの、覚えていない。いつも自分の席で居眠りをしているか、今みたいに頬杖をつき目を閉じているのが彼女のおきまりのポーズ。彼女は授業中以外はだいたいそうして一日を過ごす。もちろんそんな彼女には友人らしい友人などなく、彼女の振る舞いを揶揄して、『眠り姫』と陰口をたたくクラスメイトもいるぐらいだ。
 今も彼女は眠っているのか、ぴくりともうごく気配がない。長い髪が夕日を跳ね返し、オレンジ色に輝いていた。その様は写真に収めたいぐらいに綺麗で。そうして瞑目している姿は、どこか非日常的な雰囲気を漂わせていて。絵になるな、なんて航は思ってしまう。
 やがて、夕暮れ時を知らせるメロディが聞こえてきた。六時に鳴ると流れ出す、帰宅を促すメロディだった。途端に彼女は動き、軽くのびをした。もしかすると、実際に眠っていたのかも知れない。小さく一つあくびをして、ゆっくりとその目が開く。
 少し驚いた様子で、その瞳が航を見た。気まずい空気の中で、航は恐る恐る口を開いた。
「あ、その、悪い。忘れ物、取りに来てさ」
「そう」
「えっと……北上は、何してるんだ?」
 問いかけたものの、彼女は答えない。
 夕暮れのメロディは、まだ流れていた。
 曲名は知らない。ただ、やたらと寂しげな、聞いていると一人でいるのが辛くなってくる、そんなメロディ。早く帰れとせっつく、そんなメロディ。
「ねぇ」
 ぼそりと彼女がつぶやいて、窓際に立った。
「これってさ。なんだか、世界を終わらせる曲みたいに聞こえない? 今にもあの夕日が地球に落ちてきて、この世を焼き尽くす。……とか、ちょっと素敵じゃない?」
 夕日を背にして、そんな物騒なことを言いだした。
 表情は逆光で見えない。けれど、にっ、と彼女の口元が下弦にゆがむのが見えた。
「……そうかな。僕は素敵じゃないと思うし、世界はまだまだ終わらないよ。当分しばらく、きっとずっと」
「どうしてそんなことが言えるの」
「そりゃあ、終わりの曲があるなら、この世には始まりの曲があるからね」
「始まりの曲? それって、なに」
 不満げに、再び彼女の口がゆがむ。ただし今度は上弦に。
「鶏の、鳴き声」
 ぽかんと、彼女が口を開けるのが見えた。
 それでも航はかまわず続ける。
「あいつらがいる限り、明日も必ず朝が来る。だからきっと世界は終わらない。世界を滅ぼしたかったら、この世のニワトリを全部焼き鳥にしないと無理じゃないかな」
「……馬鹿じゃない?」
 それだけ言って、彼女は教室を出て行った。



  翌朝、航が教室に入ると彼女はいつも通り自分の席で頬杖をついていた。目を閉じて、じっとしている。教室に入ってきた航に気づく様子はない。眠り姫は今朝も平常運転らしかった。
「よ、おはよう」
 声をかけてみたものの自分に言われたのだと思わなかったのか、彼女は身じろぎ一つしない。それで航は、ちょっとむっときた。
「コケコッコー!」
 すぐそばで叫んでやると、ばっ、と彼女が慌てて顔をあげた。驚いた様子で、目を見開いている。
「おはよう、朝だよ」
 もう一度、挨拶してみた。
 けれど彼女はいかにも面白く無さそうに顔をしかめる。それからため息を一つついて、窓の外を向いてしまった。去り際に航は、その背中に向けて一言。
「な。終わらなかったろ?」
 それだけ言って、航は自分の席へと歩き出す。クラスメイト達は何事かと皆注目していたものの、航は気にしない。今の自分はニワトリだ、一羽のニワトリなのだと言い聞かせて。
「なにしてんの、お前?」
 席に着くと、怪訝な顔をしたクラスメイトにそんな質問をされた。
「今日もまた、朝が来たんだよ」


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