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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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ホロホロ鳥の歌

17/06/14 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:348

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 ホロホロ鳥が鳴いているのだ。
 ホロホロ、ホロホロとあれは涙を零しているに違いない。
 幼い日に聞いたあの鳴き声は確かだったと思うのに、ホロホロ鳥はそのようには鳴かない、それは君の架空の生き物だよ、と婚約者に言われてしまった。
「これがホロホロ鳥の鳴き声だよ」と彼に見せてもらった映像では、本物のホロホロ鳥がけたたましく鳴いていた。
 確かに、ホロホロ、と囁くように鳴く私の中のホロホロ鳥とはまるで鳴き声が異なっている。姿を見たことはなかったけれど、婚約者に見せてもらった映像に出てくる鳥とは違う姿のように思う。
「君が聞いた鳥の声は何だったのだろうね」
 分からないわ、と私は答える。けれど私にとっては幼い頃に聞いたあの鳴き声を発するものこそがホロホロ鳥だ。
 きっとホロホロと涙を流すようなあの鳴き声が、私にホロホロ鳥という名を連想させたのだろう。
 姿も分からぬその鳥は、子供の頃の浅い眠りの夢の近くで静かにずっと鳴いていた。

 両親のいない私に、これから一緒に生きていきたいと言ってくれたのが婚約者の彼だった。一人きりだった私の人生に、手を取り共に歩いてくれる人が出来た。
「ホロホロ鳥が鳴くのはいつ?」
 朝方よ、と私。
 寝入る前のこともある。真夜中にふと目が覚めた時のこともある。
「ひとりっきりのときだね」
 とても静かな夜の世界で、ホロホロと涙を零していた。泣かないでほしいと思うのに、その鳴き声に癒されるような自分もいた。
 けれど大きくなるにつれ、その声もあまり聞かなくなった。大人になった今となっては、そんな鳴き声を聞いていた事すら忘れてしまいそうな思い出だ。
「二人で暮らしはじめたら、鳥を飼おうか」
 鳥? と私は首を傾げる。
「そう、小鳥。君の言うその鳴き声は聞けないだろうけれど、そんな思い出があるってことはきっと鳥が好きなんだろう? その小鳥が泣いてしまわないように、寂しくないように、僕らがずっとその小鳥に付いていてあげよう」
 二人で暮らす家に小鳥の楽しげな鳴き声がする。それはとても素敵な提案に思われて、私は嬉しくなって頷いた。
「何色の小鳥がいいかな?」
 そうね、黄色かしら。
「インコはおしゃべりだから楽しいだろうね」
 ちゃんと言葉を教えなくては駄目よ。
「雛から育てる?」
 もちろん。寂しくないように、ずっと見ていてあげるのよ。
「鳥を飼うのは初めてだ」
 小学校の飼育委員で、ニワトリの世話とかしなかった?
「僕の学校にニワトリはいなかったよ」
 じゃあ、本当に初めてなのね。
 鳥カゴはどんなのにしようか、成鳥になったらつがいの相手を見つけてあげなくてはね、なんていつか飼う小鳥の将来を思い描いて語りあう。
 それよりまずは僕らの暮らしについて考えなくちゃいけないよ、と彼に言われて確かにそうだわ、と私たちの新生活の計画を立てる。
 カーテンは何色がいいだろう、朝はごはんとパンのどちらがいいか、帰ってきたら必ずただいまと言ってね、それなら見送る時には必ずいってらっしゃいと言ってほしい、なんて他愛ない話をした。

 結婚式を数週間後にひかえたある日の昼下がり、彼が車に撥ねられたと連絡が入る。
 私は買い物を済ませた帰り道、搬送先の病院でそのまま亡くなったという話を電話で聞いた。
 電話に耳を傾けたまま、スーパーの袋を見下ろす。
 ……今日はあの人の好きなハンバーグを作ろうと思っていたのにな。
 そんなことを考えて、どこへも行けずに立ち尽くした。

 ……夜が来る。
 ホロホロ鳥が泣くのを初めて聞いたのは、両親を亡くした夜のことだった。
 突然の喪失に眠りにつくことの出来なくなった幼い私の耳に、いつまでも哀しみの鳴き声を響かせていたあの鳥は、おそらく両親の魂だったのだと今にして思う。
 二羽の鳥は歌うようにホロホロと鳴き、瞳から涙を零す。私を一人残すのが気がかりで、魂だけでも鳥となり寄り添ってくれていたのだ。
 哀しみに満ちた声を子守唄代わりに、寂しさをぎゅっと抱いて眠りについた日々があったことを思い出す。
 亡くなってしまったあの人もまた、ホロホロ鳥になって私の夢のそばに降りて歌う。翼を広げ、その中に私を包んでくれる。けれど私はその姿を見ることができない。柔らかな羽のような感触に、暖かさを求めて縋り付くだけ。
 私を残す悔しさを、共にいられない悲しさを乗せて彼の魂はホロホロと泣いて歌う。
 いつかの両親の遠く響く鳴き声と合わさって、それは私の耳に届く頃には重なり合う歌声となり、白い夢の中で私を慰めてくれる。


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このストーリーに関するコメント

17/06/14 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
もう……なんと言いますか……、毎回素晴らしい切なさをありがとうございます……(´Д`)
ただただ……胸が痛くなりました。
ありがとうございました。

17/06/15 待井小雨

のあみっと二等兵 様
早速のご感想、ありがとうございます。
果たしてこれは「音楽」というテーマに合っているのかどうか……。
のあみっとさんが気に入って下さったのなら、とても嬉しいです。
お読みいただきありがとうございました!

17/07/01 むねすけ

読ませていただきました

心が震えるような、感じたことをうまく言葉にできそうもありませんので、ひとつだけ。
子供の頃の浅い眠りの夢の近くで静かにずっと鳴いていた。
この文章がめちゃくちゃ好きです!!

17/07/03 待井小雨

むねすけ 様

お読みいただきありがとうございます。
好きな一文があるなんて光栄です……!
そういった文章を、作品ごとに少しずつでも書けるようにしていきたいです。
とても励みになりました。

17/07/28 光石七

拝読しました。
なんとも切なくて、優しくて、温かくて、でもやはり悲しくて……
素晴らしい作品でした!

17/07/29 待井小雨

光石七 様

お読みいただきありがとうございます。
何か少しでも光石さんの心に響くものが書けていたのなら嬉しいです。
素晴らしいとまで言っていただけて光栄です!

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