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笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
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俺は海が嫌いだ

17/06/12 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:1件 笹岡 拓也 閲覧数:226

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俺は海が嫌いだ。
小学生の頃、じいちゃんが俺に
「明日海行くか!」
とにこかに言ってきた。その言葉を鵜呑みにした俺は、夜寝付けないほど興奮していた。明日は海で何しようかな?泳いだり、砂で城でも作ろうかな?楽しみで仕方なかった。
次の日、俺は海の用意をカバンに詰め、じいちゃんに言った。
「じいちゃん!海行こう!」
俺の言葉を聞いたじいちゃんは昨日とは違う反応をした。何だか気が進まなそうな顔だったのをよく覚えている。だが、じいちゃんは
「じゃあ海行くか」
と言ってくれた。俺はすごく嬉しかった。車で行くのかな?それとも電車で行くのかな?そんなことを考えながらじいちゃんの支度を待った。しかし支度が整ったじいちゃんは明らかに海に行く姿ではなかった。シャツのポケットにはタバコ、そして金がたくさん入ってそうなセカンドバックを持っている。それでも子供だった俺は、海の家で水着を買ったりするのかな?と淡い期待を持ってじいちゃんの後を追った。
車では行かないようだ。じいちゃんは車の鍵を持って行かなかった。ただ電車とは反対に向かって歩いて行く。俺はどうして反対に向かっているのか分からなかった。しかしすぐに答えは分かった。
徒歩15分で着いた場所は潮の匂いが全くしなければ、波の音も全くしない場所だった。タバコの煙がモクモクと漂い、とんでもなくうるさい騒音に包まれていた場所。そこはじいちゃんがこよなく愛すパチンコ屋であった。
「ほれ。じゃあ海でもやるか」
そしてじいちゃんは老若男女、初心者の人でも楽しめる海をモチーフにしたパチンコ台に座ったのである。じいちゃんは俺の喜びを踏みいじった。そしてじいちゃんの打つパチンコ台は全く揃わなかった。ひたすらサメやカメが愉快に泳いでいる。でもじいちゃんはずっとイライラしていた。

その日以来、俺は海が嫌いだ。じいちゃんのこともパチンコのことも嫌いになった。
ちなみに大人になった俺はあれだけ嫌いだったパチンコにどっぷり浸かっている。そして全くパチンコのセンスがない俺は借金をかなり抱えていた。まるで膿のように。
今日もアホみたいにパチンコ台に向かっている。ただいつもと違い、この日の俺はかなりついていた。面白いように何度も当たりが舞い込んでくる。今日は閉店まで打ち倒すぞ!そんな意気込んでいた俺の携帯電話に着信が入る。その着信の相手は母さんだった。
母さんの電話に俺は出なかった。あとで折り返せばいいや、そんなことを思って俺は閉店までそのパチンコ台を打ち続ける。
お財布の中が久しぶりにホクホクしていた俺は機嫌よく、母さんに電話した。
「電話くれた?」
「あんた何やってるの!おじいちゃんが昼間亡くなったのよ」
俺の嫌いだったじいちゃんは俺がパチンコを打ってる最中に死んだ。あの海に行けなかった日以来、ちゃんと話していなかった。もう話すことができないんだ。
2日後、俺はじいちゃんの家に向かった。何年ぶりだろう。じいちゃんの家に行くのは。
「よく来たね。久しぶりだね」
じいちゃんの家に着くとばあちゃんが出迎えてくれた。ばあちゃんとも久しく話していなかった俺は、ぎこちない挨拶しかできなかった。
ばあちゃんも昔とは違い覇気がなかった。もう大分歳を取ったんだな。
死んだじいちゃんを見ても俺は涙が出なかった。まるで俺の知ってるじいちゃんとは違う姿になっているからだ。
じいちゃんの葬式は盛大に行われた。近所の人も「良い最期でしたね」と話していたり「まだ受け止められない」と悲しんでいたり。じいちゃんはみんなに愛されていた。
葬式が終わった時、ばあちゃんが俺に話しかけてくる。このように話すのはいつぶりだろう。
「大きくなったねー。じいちゃんもあんたに会いたがってたんだよ。でも海に連れて行けなかったからね、仕方ないよって言ってたわ」
じいちゃんがばあちゃんにそんな話をしていたとは意外だった。
「でもね、あの日じいちゃんは本当に海に連れて行こうとしてたのよ?でもあの日はね、あんたの母さんに海に連れてかないように言われてたの」
ばあちゃんが言っていることを俺は初めて聞く。どういうことだ?俺の母さんが海に連れてかないようにって言った?
「あんたはあんま身体が強くなかったからね。風邪が治りかけてたあんたを海に連れて行ったらまたぶり返すって。このことじいちゃんには言うなって言われてたからね、内緒だよ」
じいちゃんは俺の身体のために海に連れて行ってくれなかったんだ。意地悪なんかじゃなかった。俺はどうしてそのことに気がつかなかったんだろう。
「まぁパチンコ屋に連れてくのもおかしいけどね」
ばあちゃんはガハガハと笑っていた。俺も「確かに」と言いながらも、長らく抱えていたじいちゃんへの怒りが涙へと変わっていった。


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このストーリーに関するコメント

17/06/14 のりのりこ

読みやすかった。好きな作品でした。
切ない気持ちでいっぱいになりました。

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