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猫野まちさん

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エチュードと銃声

17/06/11 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 猫野まち 閲覧数:236

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 「パパの車庫には近づいちゃいけない」
 わたしは幼い頃から母にそう言われていた。
 父の車庫からは、時々とても大きな音でクラシックの音楽が流れていた。
 あれはブラームスの交響曲第3番。これはビゼーのカルメン組曲。ガーシュインのラプソディー・イン・ブルー。ルロイ・アンダーソンのシンコペイテッド・クロック。
 時折聞こえるその音楽に、母は耳を澄ませわたしにその曲名を教えてくれたものだ。
 そのときの母の顔はまるでわたしよりも年下の少女のようだったのを今でも鮮明に覚えている。
 軽やかな音楽に包まれながら、わたしはのびのびと育っていった。


 あれはわたしが14歳のとき。
 学校で親しい友人やボーイフレンドができ、だんだん両親と過ごす時間が短くなっていた頃のことだ。
 「エマ、あの車庫は誰が使っているの?」
 友人のサラが訪ねてきた時も例によってクラシックが大音量で流されていた。
 「パパよ。どうして?」
 「音楽の中になんだか妙な音が聞こえない?風船の割れる音みたいな・・・。」
 「・・・聞こえないわ。気のせいじゃない?」
 そうね、と頷いてサラは携帯の画面に目を戻した。
 このときからだった。サラの言葉が気がかりで音楽を注意深く聞くようになったのは。
 すると確かに破裂音のような音が聞こえるような気がした。なぜだろう、とは思ったが、母からずっと近寄ってはいけないと言いつけられていたため、その音の正体を確かめようとはしなかった。
 しかし、子どもならではの好奇心がわたしの想像を駆り立て、いつしか父の車庫に一度入ってみたいと思うようになった。


 それから5年が経った。
 ついにわたしの中で膨らんでいった好奇心の塊は、今にも破裂しそうになっていた。
 母は隣町に買い物に出ていて、父は仕事で家に不在で、わたしはあの音の正体を確かめる絶好のチャンスだと思った。
 ついにわたしはシャッターの閉まった車庫に近寄り、腕に力を込めシャッターを持ち上げた。
 その瞬間わたしのなかで何かがはじけたのだ。
 その時感じた少しの罪悪感が心地よかった。
 車庫の中に車はなかった。代わりにあったものは大きなスピーカー二台。
 それと、壁に掛けられた無数の銃に、ナイフ。
 ところどころに血のようなものが飛び散っており、赤いペンで×印が書かれたポラロイド写真がたくさんあった。
 その無残な光景をわたしは飲み込むことができず、棒のように立っている自分を客観的に眺めてる自分がいた。
 「エマ、だめじゃないか」
 背後から父の恐ろしく低い声が聞こえて、ひ、と短い悲鳴をあげた。
 「やっぱりサイレンサーつきのものを買えばよかったなあ。ここまで大音量で音楽を流していれば音は聞こえないだろうと高をくくっていたから・・・」
 ここでやっとわたしはあの音の正体を理解することができた。
 あの音は風船の割れる音でもなんでもない。
 銃声だ。
 大きな音で音楽を流して、銃声を消していたんだ。
 「パパは、人を殺すの?」
 震える声でひねり出した言葉だった。
 「殺すだなんて人聞きの悪い。パパは困っている人を助けているんだよ。」
 だんだん鼓動が早くなっていく。わたしはこれからどうなるんだろう。そんなことを考えると、たちまち鳥肌が立った。
 「ああ、残念だよエマ。パパはエマのことが大好きなのに。」
 逃げろ。わたし。そう強く思ったが、足がぴくりとも動かなかった。
 「大丈夫。すぐに終わるから」
 そういって父は、コンポにCDを入れた。
 
 
 


 
 


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