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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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3400年前のレクイエム

17/06/11 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 miccho 閲覧数:185

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 おばあちゃんの葬式から一週間が経った。
 実家から東京の下宿先に戻って来たはいいものの、大学には行かず、一日中家でぼんやりしていた。
 両親が共働きだった私の面倒を見てくれたのはいつもおばあちゃんだった。あの皺くちゃな笑顔を見ることはもう無いだなんて、未だに信じられなかった。

 高校生になったあたりからは友達感覚で、よく恋愛相談にも乗ってもらった。
「ケイスケったら最悪!半年前からずっと二股かけてたんだって。ビンタして別れてやったわ」
「おやおや、詩緒里はまったく男を見る目がないねえ」
 あれは高校二年のときだったか。失恋を真っ先に報告したのもおばあちゃんだった。
「いいかい、詩緒里。本当にイイ男の見分け方ってのがあるのよ」
「おばあちゃん、何それ。ぜひ教えて。というかもっと早くに教えてほしかった」
 私は思わず身を乗り出した。おばあちゃんは皺くちゃな顔をさらに皺くちゃにして、こう言った。
「それはね、その人の行動だけを見ることだよ。口では何とでも言えるけどね、行動を起こせる人はそうはいない。何かに一生懸命取り組んでいる人。他人のために動ける人。そういう誠実な行動を取る人が、一番信頼できるんだよ」
 私はメモを取る仕草をしながら、その金言を頭に叩き込んだ。
「間違っても、イケメン、とかいうのに騙されちゃダメだよ」
 最後にちくり、と刺された。ケイスケのやつ、クズ男だったけど、ルックスだけは超絶タイプだったんだよね…。

 携帯が鳴った。友達の理沙からのメールだった。
「最近講義出てないけど、どうしたん?現代倫理学と語学の代返はしといたよ。今度サーティワンおごること!二段で勘弁してやろう。はよ顔見せや」
 ありがとう、理沙。それと、三段おごるから来週も代返お願いします。どうにも身体に力が入らないのよ。

 と、そこに、隣の部屋からオルガンの音が聞こえて来た。
「ああ、もう。またあいつだ」
 住んでいるのは、考古学の研究をしているとかいう大学院生の男だ。名字は野坂。名前は知らない。
 クラシックが趣味らしいのだが、安アパートの薄い壁を超えてしょっちゅう下手くそなオルガンの音が聞こえてくる。
 契約書にも楽器禁止って書いてあったでしょうが。今度会ったら文句言ってやろう。
 そんなことを考えながら、そのまま眠りについてしまった。

 翌朝、ゴミ出しのタイミングが悪く、野坂と鉢合わせてしまった。
「おや、こんな公共の場にパジャマでやってくる不届き者がいるかと思ったら、君じゃないか。お腹が減りすぎて羞恥心でも食べてしまったか。この卑しん坊め。」
 くう、最も見られたくない姿を最も見られたくない男に見られてしまった。普段はジャージ着てますから!
「着替える元気が無かっただけですよ!それより、なんですか、昨日のあの下手くそなオルガンは。メロディーだっててんで地味だったし。そもそも楽器禁止だって何度言ったら分かるんですか」
 私はたまらず昨日のことを問いただした。
「む、聞き捨てならんな」
「下手くそに下手くそといって何が悪いんですか!」
「婦女子がくそを連発する時代になったか。世も末だな。だがまあ私の演奏技術の低さは自覚している。問題はそこではない。君、地味なメロディーと、そう言ったね」
「な、何が悪いんですか。だってたいして抑揚もなかったし」
 やれやれ、野坂はそう言ってこちらに視線を向けた。哀れんでいるかのような瞳が何とも腹立たしかった。
「あの曲はね、実に3400年前の曲なのさ。世界最古の音楽だと言われている。古代オリエントのフルリ人が作ったものだとされているね」
「そんな昔に音楽があったんですか」
 私は思わず聞き返してしまった。
「あったとも。もっとも最初は、危険を他の仲間に伝える信号のような役割であっただろうけどね。それがやがて、雨乞いのような儀式や、死者の鎮魂にも使われるようになるのさ」
 最後の言葉にはっとさせられた。3400年前。人類はその頃から故人を悼み、音楽を奏でていたのだろうか。
「昨日は、親友の命日だったのさ。あの曲は研究仲間でもあった彼が教えてくれたものだった。3400年前のレクイエムさ。聞き苦しくてすまなかったね」
「いや、聞き苦しいってことはなかったですけど…。せめてもうちょっと音量を抑えてもらえるとうれしいとは思うけど」
「善処しよう」
 そう言いながら野坂はボサボサの髪を掻きむしりながら、アパートの方に引き返していった。

 その晩も、隣の部屋から例のオルガンの音が聞こえてきた。
 3400年前のレクイエム、か。ベッドの上に横になり、瞳を閉じた。メロディーに合わせて、おばあちゃんの笑顔が浮かんできた。
 え、野坂なんていいんじゃないかって?冗談はよしてよ、おばあちゃん!


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