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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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スティーラー卒業試験

17/06/11 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:4件 むねすけ 閲覧数:714

時空モノガタリからの選評

テーマ(「音楽」というコンテストのお題と、「盗み」という作品のテーマ)がうまくリンクした作品だなと感嘆しました。「人の命に付随した行為はすべて等価値である」という一見もっともらしい理屈で盗みを正当化するあたり、なんだかリアルだなあと思います。そのような屁理屈を逆手にとって、「命に付随した行為」である音楽で「みんなの働いている時間」を「盗む」という流れは、音楽というテーマの活かし方としても、また一人の人間の成長の物語としても、よく考えられた展開で素晴らしかったと思います。全体の構成以外にも、細部の文章にキラリと光る表現が多いと思います。「上達してゆくテクニックに自分の身を切り刻まれてしまった」というくだりなど、いろんな事に当てはまるのではないでしょうか。処世術として身につけたものが自分と一体化してしまった結果、素直な生き方が見えなくなってしまうということなどはよくあることではないかと思います。また劣悪な環境下の物語ではあっても攻撃的ではなく、どこか優しさが伝わるような文体なのが良いですね。読後感がとても爽やかでした。

時空モノガタリK

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 地下室のミーティングがおひらきになって、僕らはそれぞれのねぐらに戻る。
「トゥイン、戻らないのか?」
 僕は部屋に戻る前に、一度中庭に出て、空を見たかったんだ。
「あぁ、ちょっと中庭に出てからにするよ」
 父さんの分厚い体から語られた、卒業試験の内容と、クリアした先の僕らの拓かれた未来に、みんなはすっかり中てられてしまって、ちょっとついてけないんだよ。
「先に戻ってるぞ」
 シャンキーの弾んだ声を、僕は耳に追いつかせないように速足で中庭へ。
 見上げた空に、一個のフルムーン。やっぱり。父さんが特別を語るときは、いつもこうだ。父さんは、太陽に背いて生きる僕らの父さんだから、月と仲良し。父さん僕は、輝きの中で、コソコソ生きたくなんかないんだ。
「月なんか、僕は好きになれない。こそこそやろうじゃねーか」

 街にうち捨てられた信仰心は、一個のスクールを生む。元が教会だっていうんだから皮肉な話。
 みなしごだらけのスクールで、僕らが受けた英才教育は、盗みの技術。
 スリ、騙し、詐欺、嘘の賭博。テクニックとしての犯罪は、罪の意識を遠ざけていく。
「世の中はこんなもんだ。子供を捨てる親、コネに丸めこまれる警察、ただれた夜の嬌声、私たちのやっている行為を、含んで成り立っている世界に、罪の意識なんか感じるだけ損だ。そんなものを感じていいのは、生きて死ぬまで罪を犯さなかった人間だけだ。そんなもん、存在できたとして、人間の姿は多分していないさ」

 僕らは父さんと兄さんたちに、人の命に付随した行為はすべて等価値であると叩き込まれた。
「あいつの持ってた金が、こっちに来るだけさ。あいつが喰うか、俺たちが喰うか、それに何か違いがあるか?」
「盗んで、盗んで、騙して、騙して、今日を生き抜けばいい。捨てられた俺らに、神の説教なんか昨日の風に遊ばせておけ」
 僕が、そんな言葉を疑問に感じたのは、相棒もなく一人で訓練をこなしていたせいかもしれない。
 シャンキーとコニー。
 リックスとトンプソン。
 ニッキーとウォン。
 今年の新入りは全部で七人。
「一人でやるのは、根性がいるからな、一番年上のお前になるが、大丈夫かな」
「はい。僕は、一人で大丈夫です」
 耄碌じじいから財布をスルために、注意をひく役。
 タクシーのドライバーをひっかける役。
 賭け事のサクラ役。
 それら協力者なしで、日々の訓練を続けた僕は一人、毎夜一人きりで神の責め苦を頂戴したんだ。
 あの爺さんは腹をすかして寝られていないかもな。
 あの婆さんは孫におもちゃを買ってやれずに責められたかもな。
 あのおっさんは、酒を買う金をなくして、リボルバーを握っちまったかもしれないよな。
 僕は、上達してゆくテクニックに自分の身を切り刻まれてしまったんだ。
「もう。まっぴらだ」
 でも、卒業試験をクリアしないとここから出られないから。
「これで、最後? いや。盗んだ金でクリアしても、僕は何処へも行かれやしないじゃないか」
 父さんに渡す額の金、相当な額だ。
 みんなはそれぞれの部屋で、計画を練っている。
 僕は、一人。部屋に戻って、いつもどおり、夜風にハーモニカを滑り込ませる。僕の呼吸はメロディーになって、言いたかった言葉の代わりに世の中をのたくり悪いやつらの寝息に吸い込まれてく。
「こいつで、稼げないかな」
 僕は、相棒をみつけたのかもしれない。命に付随した行為さ。僕がハーモニカを吹くのは。しないでいられないんだから。だったら、金にしてみようじゃないか?
 僕は埃にまみれたかび臭いベッドにハーモニカ握って丸まる。一度目の産声は、望まれなかった産声。二度めの産声を明日、あげると思う。その時に誰かが笑ってくれれば、僕は、笑って生きていける気がする。ベッドの中で、僕は朝まで百三回の寝返りをうった。

「全員合格だな。金額的には」
 地下室のミーティングで、父さんは札束を勘定して言った。
「だが、トゥイン」
「はい」
 やっぱり。見られてたか。
「私たちは、盗んだ金で生きていくんだ。そう言ったろう?」
「はい」
「お前は、この金をどうやって持ってきた?」
 ふん。
「それは、勿論、盗んだんです」
「ジョーディーが見ていたんだよ」
「盗んだんです。みんなの働いている時間を」
「うん?」
「ホットドッグ売りの親父に僕は言いました。こんなにたくさんいいのかいって。そしたら親父は言いましたよ。一曲聴いてる五分で稼ぐ金だよって」
「…………」
「僕は、音楽で盗んでやりましたよ、父さん」

 七人、全員合格。
 僕は今日からようやく生きていく。
 月より、太陽の下で。
 僕の呼吸はようやく、薄汚れていないメロディーを汚れた世界に響かせるんだ。  


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このストーリーに関するコメント

17/06/14 時雨薫

長編小説の魂の部分を抽出したような、私が一番好きなタイプの短編です。長い長いお話の始まりにも終わりにもなりそうな感じ。最後が主人公の決意でありながら、教訓臭くならない所にねむすけさんの技量を感じます。

17/06/16 むねすけ

時雨薫さん、コメントありがとうございます
教訓臭くならないように、できることならそんな思いの押し付けの支柱なんかなくてもスッと立ってくれるものを書きたい
という意識は常に持って書いております
それでもこれはちょっと説教臭さが出てしまったかもなぁと思っていましたので
安心いたしました
身に余るほどの賛辞に、空も飛べそうな気分です

17/07/17 光石七

入賞おめでとうございます!
遅ればせながら拝読しました。
盗みの技術を叩きこまれながらも心がまっすぐな主人公がまぶしいですね。
正道につながる展開なのに押しつけがましさが無く、柔らかな優しさが感じられる文体が魅力的でした。
随所に宝石のような素敵な表現も散りばめられていて、そのセンスに感嘆しきりでした。
温かく爽やかな読後感も良かったです。
素晴らしい作品でした!

17/07/18 むねすけ

光石七さん
コメントありがとうございます

これまでにも、意識的にやさしい物語、あたたかい物語に挑戦してきましたが
あざとくなってしまったり、甘すぎになってしまったり
失敗も重ねてきました
今作では、物語としての構成にだけ意識を集中して書いたのが、いい具合に作用したのかもしれません
ありがとうございます

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