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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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ブラックホールがまだ子供だったころのこと

17/06/10 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:159

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 ブラックホールがまだ子供だったころは、それはもう手のつけられないワルガキだった。
 とにかく、目にふれるものならてあたりしだいすいこまずにはいられない性分で、広大無辺な宇宙の端から端をいったりきたりしては、あちこちに点点と虫が食ったような穴をあけてまわった。
 とはいえまだ子供なので、成長したブラックホールのように、星そのものをまるごとすいこめるほどの肺活量はさすがにもちあわせていなかった。
 大口をあけてなんども星をすいこんでやろうと意気込みはするのものの、気がついたらすいこむどころか、相手の重力に反対にひきよせられている情けないじぶんに気がつくのだった。
 それでいまのところかれがすいこめるものはというと、せいぜい星のかけらや星雲ガス程度で、光でさえいったんとらえられたらアリジゴクよろしく、二度とそこからはいでることができなくなる大人の、威風堂々たるブラックホールにはやくなりたいなと、羨望に胸ふくらませるジャリブラ(ジャリブラックホール)だった。
 宇宙にあいた穴は、かれがむりやりすいこんだときに、その部分に余計な力が加わって、歪が生じたあげく、ベリッと音をたてて宇宙の暗闇が剥がれてしまい、そこにぽっかり空洞があいた痕だった。
 おそろしいことに、宇宙の破れ目というのは、時とともにだんだんひろがっていき、そのうち風呂敷が裂けるように、ビリビリと際限もなく裂けひろがっていくのだった。
 ところが、どういうわけか、どこをさがしてもそのようなひろがりをみせる破れ目はみあたらなかった。ジャリブラはしらなかったが、じつはかれには、影ともいえる存在がいて、まるで背後霊さながら、つねにかれのそばにつきしたがっては、かれがあけた穴の修復をしているのだった。それは、子供のホワイトホール、すなわちジャリホワで、ジャリブラがすいこむだけすいこんだものを、吐き出す役目をもってうまれてきた。
 やんちゃなジャリブラとはまるで正反対の、おもいやりにみちたジャリホワは、かれのあけた宇宙の綻びを、丹念にさがしだしては、ムシの喰った服をひと針ひと針縫い繕うように、丁寧に補修するのだった。
 なにもしらずにあばれまくるジャリブラを、女性らしい優しいまなざしでみまもるジャリホワだったが、ちっぽけな穴をうめる程度のことなら問題はないが、もっとおおきなトラブルをおこしはしないかと、それだけが彼女には気がかりだった。若いうちは、ついじぶんの力を過信しがちなものだ。
 そんなジャリブラが、ある惑星をまえにして、ひときわ胸をおどらせた。
 それは一面、海におおわれた美しい惑星だった。
 しばらくその青々と輝く星にみとれていたジャリブラのなかに、もちまえの欲望があたまをもたげた。
 この海の水を、一滴あまさずのんでみたい。
 さっそくかれは、口をいっぱいにひらいて、ズズズ―と海の水をのみはじめた。
 海が一本の水柱となって、かれの口のなかに吸収されてゆく。
 まるで永遠の時間がすぎさったかのようにかんじられたそのとき、海の下からかすかに、くろずんだ大地がのぞきだすのをみたかれは、さらに力をこめてのみつづけた。
 いくらもたたないあいだに、かれのおなかはいまにもはちきれんばかりになっていた。
「もうだめだ、ここらで限界だ」
 さすがのかれもギブアップして、海水でふくらんだ腹を抱えながら、宇宙のかなたにさまよいだした。
 それをみていたジャリホラは、いまかれによって海の水を吸いとられて、陸地が斑状にあらわれた惑星をながめた。
 そこには、これまで海で生きていたさまざまな生き物たちが、容赦のない陽射しにさらされて、のたうちまわっている。 このままほっておけば、やがてはみなひからびて死んでしまうにちがいなかった。ジャリホワはそんなかれらのうえに、ジャリブラからまわってきた水を、まんべんなくかけてやった。
 恵の雨にうたれて、生き物のなかのたくましい連中はその後も地上でいきのびて、強い生命力が鰓を手足にかえ、そのうちかれらを四足で支えるようになり、やがて陸上生活に適応していった。
 ジャリホワはなおもしばらくのあいだ、その惑星にとどまって、適度な雨をふらしては、地上の生き物たちをはぐくみそだてた。あとは、のこされた海が、かれらの命をやしなってくれるだろう。それをみとどけると彼女は、ふたたびジャリブラのあとをおいかけはじめた。
 ようやくみつけだしたかれは、彼女がほれぼれとみとれるまでの、逞しいブラックホールに成長していた。
 そして彼女はいまも、彼が好んで海をのみつくしたあとにはかならず、その水を生きのびた生命体のうえに、やさしくかけてやることに、喜びをみいだすようになっていた。
 おかげで地上にはあまたの生物たちの躍動する姿がみられるようになった。


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