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むろいちさん

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雲にストロー

17/06/09 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 むろいち 閲覧数:241

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  少年は首を傾げました。
 「海ってどんなの?」
 「海、初めて?」
 「初めて」
 「そうだな。海には水がいっぱいあるんだ」
 「どんぐり池みたいな?」
 「もーっと広いよ。空が地面にくっついたみたい」
 少女は片手で帽子を直しました。
 「へえ、そりゃ広そうだな。魚がいっぱいいるんでしょ?」
 「うん、あ、ここ段差」
 「はいはい」
 「魚はいっぱいいるよ。クジラだっているんだから」
 「クジラがいられるなら広いな。あ、クサい。潮の匂い?」
  少年は軽くジャンプをして段差を降りた。
 「もう、危ないでしょ」
 「大丈夫だよ。海だし」
 「何それ。砂浜なら大丈夫かもしれないけど、ここは磯だからね、この匂いもあそこで海藻干してるし」
 「どこ?」
 「ああ、あっちあっち」
 「磯と潮、何が違うの?」
 「うーん、似たようなものかな。どっちが好き?」
 「い・お」
 「何それ?」
 少年は足を止めて口を大きく開ける。 
 「磯の『い』と潮の『お』」
 「はいはい」
 「あ、鳥の鳴き声?カモメ?」
 「残念。不正解」
 「ウミウ?」
 「違う」
 「何?」
 「トンビ」
 「トンビってトンビ?海に」
 「ここは山も近いからね。おにぎりとか食べていると持っていかれちゃうんだ。今日、私おにぎり作って来たんだ」
 「本当?楽しみだ。でも今ちょっとだけ」
 少年はわざとらしく、カバンからクッキーを一枚取り出してほおばりました。
 「トンビに持っていかれるよ」
 「おにぎりは嫌だけど、これは持っていかれても問題ない」
 「そういうことじゃなくて、上からビューって飛んで来て危ないんだから」
 「ビューって来るんだ?」
 「そうだよ。ビューって」
 「ビュー」
 少年は繋いだ手を離して前に駆け出す真似をしました。
 少女は繋いだ手を強く握って、引っ張りました。
 少しだけグンと体後ろに引っ張られて少年は笑いました。
 「もう。いつもふざけるんだから」
 そう言いながらも少女は嬉しくて二人で笑いました。
 笑い声が終わった後、波の音だけになってしばらく歩きました。
 「あ、もしかして砂浜?」
 「そうだよ。さすが」
 「熱いなぁ」
 「そうだよ。夏だもん。でっかい雲も出ているし」
 「もしかして熊みたいな雲?」
 「えっとね、かき氷みたいな雲」
 「お、良いね」
 少年は繋いでいない方の手でかき氷をかきこむ仕草をしました。
 「お味は?」
 「うーん、レモン」
 「お、爽やかですな」
 少年は笑って今度はかきこむ仕草を大きくやりました。
 「痛っ」
 少女が繋いだ手を離して太ももを押さえました。
 「あ、ごめん。今、当たったよね。ごめん」
 「大丈夫。もうすぐ着くよ」
  二人は手を繋いで歩き出しました。

 「着いたよ。私の好きな砂浜」
 「へえ、ここか。静かだね。波の音しか聞こえない」
 「うん。もう波打ち際だからね」
 「他のとこよりやっぱり綺麗?」
 「うん。ここだけ透き通っているんだ」
 「何で?」
 「何でだろ?」
 二人は笑いました。
 「ここって泳いで良いの?」
 「え、ダメじゃないかな」
 「何で?」
 「ここはすぐ深くなるから危ないってお父さんが言ってた」
 「でも綺麗なんだよね」
 「うん」
 「僕は海が初めてって知っているよね?」
 「う…」
 『ん』と少女が言い切らないうちに少年は少女から手を離し、海へと駆け出しました。
 そして、白杖を空へと放り投げました。
 空へと舞った白杖。
 その一瞬を切り取ると、かき氷みたいな雲にストローがささったみたいになりました。
 (了)

 
 


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