なっぱ偽者さん

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満潮

17/06/07 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 なっぱ偽者 閲覧数:269

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 青い海が広がっていた。どこまでも透き通るコバルトブルーは優しくきらきら輝いている。空も同じように青く広がっていて、さざ波の代わりに時折白い雲が浮かんでいた。
 
 そういう夢を見た。
 目が覚めたぼくは泣いていて、ぼろぼろと涙がこぼれている。隣では嫁がぐっすりと眠っている。なぜあの青い海の夢でこんなにも泣いているのかわからない。ただ、ただ、涙が止まらなくて、しまいには嗚咽が漏れてきた。
「どうしたの」
 その声に気づいたのか、嫁が目を覚まして声をかけてくる。
「どうもしないよ」
「そう」
 特に追求することもなく嫁は寝なおしてしまった。ドライなのだ。すぐにすやすやと寝息が聞こえる。それを聞いているうちになんだか安心してきて、ぼくも再び寝られそうな気がしてきた。
 
 真っ青な海に一歩踏み込んで見る。ぱしゃりと冷たい感覚が足に伝わってきて、震えそうになるけど立ち止まらない。
 一歩。また一歩。
 ゆっくりと進むに連れて海は深くなり、ぼくの視線は水面に近くなる。あと、少しなんだ。
 ふと音に気がついた。遠くから歌声が聞こえる。さざ波に紛れて聞こえづらいけど、たしかに誰かが歌っている。その声は浜辺から聞こえるようだ。
 進もうか、戻ろうか。
 くっきりはっきり聞こえるようになった歌声に、ぼくは戻ることにした。ぱしゃぱしゃと戻りながら歌声の主を探す。でも誰もいない。その声が誰のものであるか、ぼくははっきり知っているはずなのに。
 完全に海から上がったところで、もう一度海の方に振り向こうとして世界が暗転した。

 そこで再び目が冷めた。
 目が冷めたぼくはやはり泣いている。先ほどと違うことは嫁が寝言で鼻歌を歌っていることだ。
 ぼくの嫁はしょっちゅう寝言を言う。寝言で鼻歌も歌う。本人はまったく気づいていなくて、朝教えると難しい顔になって悩んでいる。
 それはそれとして夢の海のことを考えた。振り返った海はどうなっていただろうか。空は? 雲は? 海に突き進んでいたぼくは一体何を目指していたのか。
 ぶるりと寒気がした。嫁が歌っていなかったら、ぼくは海に進んだまま、戻れなくなっていたのではないか。戻れなくて、そのまま溺れて、そのあと目をさますことができただろうか。
 もう涙は止まっている。ただ冷や汗がだらだらと流れているだけだ。
「どうしたの」
 震えるぼくに気づいたらしい嫁が声をかけてくる。
「怖い夢を見たんだ」
「ふうん。じゃあ明日、海に行くのはやめよう」
 そう言って嫁はぼくの脇の下に潜り込んで寝てしまった。
 嫁はなにを知っているのだろうか。ぼくは怖い夢としか言っていないのに。たぶん考えても無駄だけど、また寝るのは怖い。でも寝ないわけにはいかない。
「今夜はもう寝ないほうがいいよ」
 嫁は起きていたらしい。
「なんで?」
「潮が満ちているから」
 よくわからない。でも嫁が言うならそうなのだろう。

 ぼくの嫁は魔女なのだから。


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