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ぼくは音楽が嫌いだ

17/06/07 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 なっぱ偽者 閲覧数:158

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 ぼくは音楽の授業が嫌いだ。
 ぼくの声はかすれているし、音程はずれるしテンポも悪い。だから合唱の授業ではクラスメイトからブーイングが飛び交い、グループワークでは仲間に入れてもらえない。
 昔はそんなことはなかった。小学生の頃は子供らしい甲高くてよく通る声でうまく歌えた。なのに中学生になった途端に声がかすれてうまく歌えなくなって、音楽が嫌いになったんだ。

「声変わりね」
 中学生に生ってすぐに母さんが軽い調子で言った。そりゃそうなんだけど、もうちょっと深刻な風を装ってくれても良いんじゃないか。ぼくがこんなに自分の声のことで悩んでいるわけだし、普通に喋るのだって辛い時があるのだ。
「それも成長の一環だもの。子供のような甲高い声の大人になるのも嫌でしょ」
 母さんはいちいちもっともなことを言う。ぼくも大人になったら、そういうもっともらしいことを言って子供を煙に巻くようになるのだろうか。いやいや、もっときちんと子供と向き合える大人になるのだ。
 
「あいつの声、ほんとキモイ」
 そう女子が噂しているのを聞いてしまった。あいつというのが誰を指すのかはわからないけど、まあたぶんぼくのことだろう。クラスの男子の半分くらいが声変わりしはじめてかすれた声を出しているとはいえ、一番キモい声を出しているのはぼくなのだ。
 でも少しマシなこともある。音楽の授業中に飛ばされるブーイングが少なくなった。
 中学生になってすぐに声変わりをしたのはぼくだけだったから、ぼくだけがブーイングを受けていたけれど、数カ月たって声変わりが始まった男子が増えてきて、そういう連中はブーイングを飛ばさなくなった。ぼくの気持ちがわかったのだろう。逆に謝ってくる人もいたほどだ。
 女子には永遠にこの気持はわかるまい。大人である母さんですら「そういうものよ」と流してしまうのだから。

 そんな感じでかすれた声にも慣れてきた頃、事件が起こった。クラスの女子の一人が癇癪を起こしてしまったのである。
「なんでそんな声で歌うの!? もっとちゃんと声を出してよ!! 授業中にふざけないで!!」
 そんなことを言われても困る。ぼくらが女子の生理を理解できないように、女子にもぼくらの声変わりは理解できない。そのこと自体が、癇癪を起こした女子には理解できない。ぼくらはちゃんとしていないわけでも、ふざけているわけでもないのだ。
 より困ったことに、音楽の先生までも女子に味方し始めた。
「声変わりと言っても病気ではないのですよ?」
 ちょっと意味がわからない。病気じゃないからなんだというのだ。病気じゃなく対処のしようがないから困っているんじゃないか。
 ふと母さんが弟を妊娠していたとき、父さんの母さん、つまりばあちゃんが母さんに同じことを言っていたのを思い出してしまう。
 ――病気じゃなくて、医者にもどうしようもないから大事にしなくてはいけないのよ。
 仕方ないから立ち上がって、癇癪を起こした挙句にめそめそと泣き始めた女子の方へ向く。その子は明らかにうろたえた。
「ぼくらは成長しているところなんだよ」
「え」
「大人になるために体を作り変えているんだ。そのことをちゃんとしていないとか、ふざけているとか言うのはおかしい」
「……」
 その子は言葉に詰まってしゃがみこんでしまった。
 きっと他の女子から糾弾されるんだろうな。まあいい。ぼくは席について先生の出方をうかがうことにした。
「彼の言うとおりね」
 以外にも先生は落ち着いた声音だった。どうやらぼくや他の男子に対して怒るつもりはないらしい。
「男子には男子の、女子には女子の成長の仕方があるのです。それはお互いに理解し得ないかもしれませんが、だからといって否定しあうのは子供っぽすぎると思いませんか? 色んな人がいるんです。それだけのことです」
 そう言って先生は授業を再開した。

 歌うのは相変わらず下手だけど、音楽の授業はそんなに嫌ではなくなった。音楽の先生はかすれた声でも歌いやすい曲を選んでくれたり、男子と女子のパートをそれとなく離して練習させたりして工夫しているようだ。そもそも歌うこと自体も減らして、かわりに楽器を使った授業が増えてきた。
 ぼくは少しだけ音楽が好きになった。


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