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micchoさん

「世の中はつまらない小説で溢れている」 「こんな小説なんかより俺の方が数段面白いものが書ける」 小説を書き始めるまではそう思っていました。 まずは全作家の皆さんに土下座して謝りたいです。 あなた方は偉大です。 ふとしたきっかけで小説を書き始めて早半年、 アイデアの乏しさ、ボキャブラリーの貧困さを日々痛感ながら、こうして駄文を量産している次第です。

性別 男性
将来の夢 小説でもプログラムでも、とにかく良いものを生み出したいと思っています。
座右の銘 名誉を愛するものは自分の幸福は他人の中にあると思い、享楽を愛するものは自分の感情の中にあると思うが、ものの分かった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

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音楽を見に

17/06/07 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 miccho 閲覧数:132

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「音楽って、何がいいの」
 前々から気になっていた疑問を敏明にぶつけてみた。
 敏明がヘッドホンでいつも何かの音楽を聴いていることは知っていたが、私には縁のないものだった。
 敏明は、うーん、としばらく考える素振りを見せた後、おもむろに、
「今度、音楽を見に行かないか」
 と切り出した。
 あれ、まさか次のデートのお誘い?
 付き合ってまだ二ヶ月だったけど、デートの行き先を決めるのはいつも私だった。
 だから、敏明から誘ってくれたのはすごく嬉しい。嬉しいんだけど…
「見に行く?聴きに行くじゃなくて?」
 私が確認しても敏明は
「『見に』行くんだ」
 の一点張りだった。
「音楽を見る、とはどういうこと?楽譜を見るということ?」
「楽譜なら『読む』だろうが。音楽を見るんだよ。何度も言わせないでくれ」
 敏明はむっとした表情を浮かべて返事をした。
 むっとしたいのはこちらの方なんですけど。とは言えこんな訳の分からないことで喧嘩はしたくない。
「ごめん、敏明の言っていることが全然分からないや。だいたい私は…」
「とにかく来週の土曜日、いつもの噴水公園で待ち合わせね。それじゃ」
 結局敏明はろくな説明をしないまま、反対方面の電車に乗って行った。

 「音楽を見る」の謎が解けないまま、約束の土曜日を迎えた。
 せめて屋外なのか屋内なのかを教えてもらわないと、服装が決まらないんですけど。
 そんな不満はありながらも、なんだかんだで敏明とのデートを思うと心が弾んだ。

 待ち合わせ時間に遅れること十分、敏明が到着した。相変わらずマイペースなやつだ。
「もぉ、遅いよ」
 と口をとがらせてみたものの、
「それじゃ、行くか。歩くには遠いから、タクシーを拾おう」
 と、悪びれた様子もなく勝手に話を進め出した。やれやれ。

 タクシーに揺られること十五分、小高い丘の上に到着した。そこには一軒の古風な洋館が建っていた。
「こんな所に建物があったんだ」
 生まれてから二十年間、ずっとこの土地に住んでいるが、全く知らなかった。
「地元民にもあまり宣伝されていないから、無理もないかもね。さあ、急ごう」

 敏明に手を引かれ洋館に入ると、中は小さなコンサートホールになっていた。
 私たちはチケット番号に記載された座席に座った。意外なことに、席はほぼ埋め尽くされていた。
「ねえ、ここってコンサートホールだよね?私がこんなところに来たって…」
 不満をぶつけようとする私を、敏明が手で制した。
「さあ、始まるぞ」
 と同時に、ステージに三十人ほどの男女が登場した。皆正装で、手にはバイオリン、ヴィオラ、フルートなどの(そしてその他、私が名前の知らない)楽器を持っていた。
 指揮者が中央で一礼し、演者の方を向き直った。楽器を構える演者たち。その次の瞬間だった。
 目の前が嵐になった。たとえではなく、文字通り本物の嵐だ。せっかくセットしてきた私の髪も強風でぼさぼさだ。
なになに、どういうこと?
 思わず敏明の腕を掴んでしまった。敏明は戸惑う私を見て意地悪そうな笑みを浮かべていた。
 しばらくすると今度は一転、私は木漏れ日が差す森の中にいた。可愛らしい小鳥が何羽か、木々の間に見え隠れする。先ほどと打って変わって静謐な世界。
 しかし安心したのも束の間。辺りは断崖絶壁だった。一歩踏み外せば崖の下に真っ逆さまだろう。
 その後も、のどかな田園風景が現れたかと思えば、月明かりが照らす草原に変わったり、実に様々な世界が姿を見せた。その度に驚いたり、感激したり、うっとりしたり。
 いやいや、ここは一体どこ?これはなに?
 とにかくいろいろな感情が頭の中でグルグルして、腰が抜けてしまった。

「さあ、コンサートは終わったよ。今の気分はどうだい?」
 二時間は経過しただろうか。敏明がぽん、と私の肩を叩いた。
「すごかった。すごかったのは間違いないけれど。一体全体、どういうことなの?」
 私は残された僅かな力を振り絞って返事をした。
「はは、驚いただろ。
この洋館には不思議な力があってね。音楽からイメージを生み出すことができるのさ。激しい曲なら嵐を、やさしい曲なら木漏れ日揺れる森林を、てな具合にね。
だから俺たちは音楽を『見る』ことができるってわけ」

「俺がいつも聴いている音楽を、美鈴に見せてあげたかったのさ」
 私は笑顔で頷いた。

 その日の帰り道は、幸せで胸が一杯だった。
 憎たらしいところはあるけれど、敏明は優しい。私のために手話も覚えてくれた。
 デートの行き先だって、面倒だから決めてくれないんじゃない。いつも私に合わせてくれているのだ。私の行きたい場所に、文句も言わず付き合ってくれる。
 私はまっすぐにした右手で、左手の甲を叩いた。
「ありがとう」


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