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ちりぬるをさん

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メッセージ・イン・ア・ボトル

17/06/06 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:4件 ちりぬるを 閲覧数:431

時空モノガタリからの選評

今回は死を連想させるものとして「海」を用いた作品が多かったのですが、この作品もその一つですね。亡くなった兄の死を受け入れられず海に流したメッセージですが、返事の来ることのなかったそれは、純粋な彼の心を確かに傷つけたのでしょう。兄の死という人生の悲劇から受けた「僕」の心の傷が、十数年振りに癒される結末には、素直にホッとさせられました。送り主が誰であれ、もし兄が生きていたらきっとそのようなメッセージを送ったことでしょう。個人的にも子供の頃、見知らぬ誰かにメッセージを送るこのような遊びに憧れた経験がありましたが、海は見知らぬ人間同士を結びつけるだけではなく、この世ならぬ異世界と現実とを結びつけるものとして人々はそれに対して畏怖と憧れを同時に抱いてきたのかもしれませんね。

時空モノガタリK

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 はじめに僕の子供の頃の話をしようと思います。そう話し始めると生徒達は真剣な表情で僕を見上げました。普段の授業中もこのくらい集中してくれるとありがたいんですけど、僕が皮肉を言うと、早く教えて下さい、なんて言い出す始末です。
 僕が生まれ育ったのは家も学校も遊び場も、生活の全てが海の近くの小さな島でした。幼い頃は本当に世界はこんな風に潮の香りしかしなくて、海の無い場所なんて存在しないものだと思い込んでいた程です。
 僕には三つ年の離れた兄がいました。兄は頭が良くて、運動が出来て、人当たりも良く、島中の人から好かれているような子供でした。僕もその例に漏れず、小学生の頃は同級生と遊ぶよりも兄や兄の友達と遊ぶことの方が多かった気がします。もちろん同じ学級にも友達はいましたよ。でも兄は僕がわくわくするような新しい遊びを考える天才だったのです。それは同学年の誰も兄には敵いませんでした。
 どんな遊びをしてたんですか? と生徒に一人が尋ねました。そうですね、体にトイレットペーパーを巻き付けて水鉄砲や水風船で戦ったり、今でいうサバゲーみたいなものですね。拾った貝殻の色や大きさで得点を競ったり。その中でも僕が一番好きだったのは宝探しゲームでした。兄が作った宝の地図をたよりに、暗号を解いたり、ミニゲームをクリアしてヒントをもらったりして宝を探すのですが、ただ探すのではなく全て背景に物語があったのです。
 例えばクジラに飲み込まれた探検家を助ける話であったり、海賊と財宝を奪い合う話であったり。僕は今でも海賊といえばゴム人間のアニメでも、ハリウッド映画でもなく兄が作った物語の中のキャラクターが最初に浮かびます。
 生徒達はもっと海賊の話を聞きたかったようですが、それは今度の長文読解のテストにでも登場させますよ、と冗談を言うと彼らは大げさに顔をしかめました。

 だいぶ話が脱線してしまいました。そんな中、ビンに手紙を入れて海に流すという遊びを兄が提案しました。何かのテレビで知ったのでしょう。英語ではボトルメールとかメッセージインアボトルと言います。手紙の末尾にこれを拾った方は連絡して下さいなどと書いて、数年後海外の人に届いたりする夢のある遊びですね。僕と兄は空きビンを集めてきては手紙を入れて海に流しました。

 その数日後、友人と釣りに行った兄が海に落ちて亡くなったことを聞かされました。その日僕はテストの成績が悪く、居残りをさせられていて一緒に連れて行ってもらえませんでした。午前中は土砂降りで、雨が止んでからは酷く蒸し暑い日だったことを覚えています。まだ小学生だった僕は当然兄の死を受け入れることなんて出来ませんでした。僕は毎日兄への手紙をビンに入れて海へ流しました。もちろん返事が来ることなどありません。それを認めたとき、僕は兄を奪った海が大嫌いになりました。
 進学は海の無い所の大学に決めて、英語教師になってからも昨日この修学旅行で沖縄に来るまで一度も海を見ずに過ごしてきました。ふと後ろの方から何名かの女子生徒のすすり泣く声が聞こえてきました。僕なんかのために泣いてくれる純真な生徒達です。結果的にこの子達の担任になれたことに関しては海に感謝しなきゃいけませんね。

 今日、修学旅行二日目の昼食のとき、生徒が古びた手紙を僕のところに持ってきました。海で拾ったビンの中に入っていたと聞かされ、僕はまさかと思いました。しかし、それが僕や兄が書いたものではないことは一目瞭然でした。その手紙は全文英語だったのですから。当時の僕や兄に書ける程簡単な文章でもありませんでした。
 それなのに僕はそれが兄からの、僕へのメッセージのように思ってしまったのです。それは差出人の名前も連絡先も書かれていない、大部分インクがにじんで読めないその手紙の最後にこう書かれていたからでした。


「どうか、弟が海を嫌いになりませんように」


 それを読んだ僕は人目もはばからず、生徒達の前で号泣しました。声を出して泣いたのは大人になってから始めてのことでした。ただならぬ僕の様子に生徒達はさぞ驚いたことでしょう。僕のことを心配してくれる心優しい生徒達には事の顛末を説明するべきだろうと思い、夕食後の自由時間にその場にいた生徒達を集めました。
 明日は十数年振りに兄のいる海へ入ってみようと思います。ずっと会いにこなくてごめんなさい、と。兄は許してくれるでしょうか?

P.S.生徒達を解散させた後、この手紙を流したことは生徒達にも言ってません。だからこの手紙のことは僕と兄と、そしてこれを拾って受け取ったあなたとの、三人だけの秘密ですよ。


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このストーリーに関するコメント

17/06/08 文月めぐ

『メッセージ・イン・ア・ボトル』拝読いたしました。
私も生徒と一緒に泣きそうになりました。
「どうか、弟が海を嫌いになりませんように」という言葉は、お兄さんのやさしさにあふれた台詞ですね。

17/06/08 ちりぬるを

文月さんコメントありがとうございます!
実はプロット段階で自分も生徒と一緒に泣きそうになりました(笑)

17/07/30 光石七

拝読しました。
誰に向けて、どういう状況で語っているのだろうと疑問に思いつつ、内容に引き込まれていましたが…… 『メッセージ・イン・ア・ボトル』、そういう意味だったのですね。
きっとお兄さんは許してくれていると思います。
素敵なお話をありがとうございます!

17/07/31 ちりぬるを

光石さんコメントありがとうございます!
良いお兄さんですからね(笑)

音楽もコメント頂きありがとうございます。なぜかコメント出来なくてこちらでお礼言わせてください。良くなかった所も指摘して下さるととても為になります。

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