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風宮 雅俊さん

テーマに沿った物語を、どのくらいのレベルで書けるかな? と言う事で登録してみました。 キンドルで作品出してます。こちらも宜しくお願いします。 ツイッター: @tw_kazamiya

性別 男性
将来の夢 世界一周の船旅で、船室に籠って小説を書く事
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夏の浜辺

17/06/05 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 風宮 雅俊 閲覧数:156

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 もう何時間になるだろう、気が付けば宵の明星が光を放っていた。明日から始まる夏休みは二人にとって嬉しいものとは言えなかった。彼は家計を助けるために明日からバイトの掛け持ちの日々が待っていた。
 彼女は厳しい父親の下でスマホを持たせてもらえなかった。だから、夏休みは二人を切り裂く辛い期間でしかなかった。

 だから、辛い夏休みを乗り越えられる何かを、お互いに求めていた。

 浜辺の残照に犬と散歩している人影が浮かび上がり、砂浜に座り込んで話をしていた姿は暗闇に隠れていった。
「あしたから、夏休みね」
 彼女は沈黙を破る様に言った。父親の帰りが遅い今日を逃す手はないと思っていた。
「あしたから、夏休みだ」
 彼は、相槌の様に呟いた。少し離れた所にいるカップルが見えなくなったのが気になっていた。
「夏休みに、どこか行くの?」
 彼が家の為にバイトを掛け持ちするのは知っていた。だから今日しかチャンスがない事も分かっていた。
「バイトの掛け持ちだよ」
 彼女を浜辺に連れ出す処までは作戦通りだった。その次、その後、どうやって・・・・。
「いつまで、掛け持ちするの?」
 彼に休みがない事も知っていた。彼が友達と話していたのを聞いたからだ。
「夏休みの間」
 どうやって次の展開に持って行くか? 彼の頭の中にはそれしかなかった。
「夏休みの間、ずっと会えなくなるの?」
 彼が握る手に力がこもった。彼女も呼応する様に力をこめた。

 月のない夜、お互いの顔も見えない。今ここにあるのは、静かな波の音と少し離れた所から聞こえてくる押し殺した吐息。

「学校がある方が会えるなんて、寂しいな」
 彼は全てを悟った。勢いこそが正義だ。周りくどい事を考える必要なんかない。隣は燃え上がっている。素直に延焼すればいい。夜の浜辺で後先考える必要はない。

 彼の動きに呼応する様に彼女は砂に身体を沈めて行った。

「どうしたのかな? こんな所で。なにか困った事でもあるのかな?」
 絶妙なタイミングで有無を言わさず割り込んで来る、オバン。
「いえ、なんでもないです」
 彼はオバンの眼圧に押し潰されそうになりながら、やっとの思いで絞り出した。
 彼女は勝ち誇るオバンを睨みつける事しか出来なかった。

 勝負は決していた。燃え上がる寸前での鎮火。二人の夏の日は終わった。

 二人は、オバンに見送られながら、浜辺を後にした。

 そして、
「私の目が黒いうちは、お前たちの気もちのいい様にはさせないよ」
 夜の浜辺に響き渡る、オバンの高笑いだった。


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