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瀧上ルーシーさん

twitter https://twitter.com/rusitakigami 破滅派 https://hametuha.com/doujin/detail/rusitakigami/

性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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海でいちばんのお姫さま

17/06/05 コンテスト(テーマ):第137回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:0件 瀧上ルーシー 閲覧数:241

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 わたしはこの作られた海を泳ぐ。人魚の足ひれを使って海底を進んでいく。
 海底の街の中の一件の民家の中に入った。そこではカクカクのポリゴンで出来た人間が口以外どこも動かさず言いたいことを言っていた。ポリゴンで出来ているがわたしが持って生まれた知識では彼は人間だった。
「国は非正規雇用の最低時給を上げるべきだ。同一労働同一賃金!」
 そう大人の声で言い放つと十数秒もしないうちに違う言葉を口にした。
「今晩のママンの夕食はカレーだった。うまうま」
 アバターも声も大人だが、彼は完全に子供だった。
 椅子に座って動かない彼をわたしは見ていた。口だけはたまに動く。この海に住む人間は皆そうだった。身体は動かないで口だけ動く。わたし以外は誰も大きく動かない。慣れてしまったのでそれが寂しいことだとは思わなかった。
 突然彼の目の前の空間に窓のような物が開いた。絵の女の子がアニメ声で歌っている。
「カレン推し」
 などとその彼は言った。この海を回っているだけで少しは現実のことがわかってくる。アイドルブーム以来「誰々推し」という言葉がアニメオタクの中でもよく使われるようになっていた。
 わたしはこの家を出ることにした。また海底を泳ぐ。海上に出ることはできない。
 濃淡がはっきりしていて暗い海を進むのはわたしでも怖いことがあって、逆にカラフルな海を泳ぐときはテンションが上がった。文字通り赤や青や緑や黄色の海もある。水温もその海によって違うが寒くて泳げないほど冷たい海はない。海底はどこからどこまでも街になっていた。この海の端に到達したことはない。色々な企業の広告の看板がビルの上に見える。この海では沢山の人達のアバターが生活していた。何もない本物の暗い海は神が、現実のインターネットは確実に人間達が作り出した世界だがそのイデア界であるこの色々なカラーの海は誰が作ったのか知らない。わたしはそういう予備知識を持ってこの海の姿をしたインターネットのイデア界に生まれた。生まれたときから今と同じくらいの知能だ。身体が傷ついて血が滲むことくらいはあるがすぐに治るし、自分が生き物なのかどうかもわからない。現実のインターネットで誰かが作ったAIか何かなのかもしれない。親族や世話してくれた人の記憶はない。食べ物は食べなくても生きていられるし排泄はしたこともなかった。
 わたしは周りの海水が赤いデパートのような大きな建物の中に入った。一階の入り口から入ったのだが、そこは人で混雑していてポリゴンの人間達は皆、鎧や皮の服を着ていた。現実のネットを確認していないのでわからないが、そこはMMORPGの世界のように感じられた。男の人が女言葉で話していたりあまり顔が整っていない女性が男性達にちやほやされたりしていた。そのゲーム内でプレイヤーが使っているアバターがデパートにいるのではなく、現実の人間自身をモデルにしたアバターがデパートの中には大量にいるらしかった。動かないアバターがぎっしりどの階にも詰まっていたのでわたしは少し人に酔った。屋上まで人でいっぱいだった。実際にこのゲームを運営している会社は大儲かりだろう。
 デパートを出てさらに海底を進んでいくと、だんだんと周りの海が暗くなっていた。わたしは警察官ではないが、誰かが怖い思いをしたり悲しい思いをしたりしているのだと思った。頭にあるのかもわからないわたしのアンテナがそう言っていた。一件のふつうの民家の中に入る。そこのリビングでは数名の家族らしき人達が食事を取っていた。そこはとくに見ないで二階の一室に入ると、大人の女性のアバターがずっと呟いていた。
「このまま生きていてもいいことがない。早いうちに自殺しよう」
「今手首を切りました。本当だよ」
 彼女の目の前にウィンドウが開いてリストカットの画像が表示された。
 ポリゴンの女性の手首からも血が出てきた。目からは涙が溢れていた。
「誰も反応くれない……寂しい。十分以内に反応がなかったら自殺します」
 恐らく人間ではないわたしが彼女の自殺を止めたかった。目の前の空間にウィンドウを出す。彼女の前のウィンドウでツイッターアカウントを確認した。わたしは急いで自分のアカウントから、女性のアカウントにメッセージを送った。
「嘘だと思ってもいいけど、わたしは死ぬことも消えることもできないよ。死ねるなんて贅沢だ! そんな贅沢なこと本当にしたら許さないんだからね!」
 ポリゴンで出来た女性のアバターから大量の涙がぼろぼろ流れ出た。
「反応くれてありがとうございます……自殺は止めます」
「あなたが寂しくなったらすぐに駆けつけるから。寿命で死ぬまでは生きなさい」
 そう言って、どうせうごかないポリゴン頭を撫でると、わたしは民家から出た。
 わたしはきっとこの世界が終わるときまで死ねない。人間じゃないから。


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