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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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終わってしまった世界の音楽

17/06/05 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:4件 むねすけ 閲覧数:337

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 終わった。
 世界が終わった。
 終わった世界で、一人の少年がピアノを弾いてようとする。
 僕には無理だ。指が上手に回らない。譜面だってないし。教えてくれる先生もない。
 世界は少年を一人だけ置いて、まだ終わったまま。
 目をどうして閉じているのか、耳まで塞いだままで、ピアノを弾けるつもりなのか。
 少年に、誰かがしてあげたいアドバイスは、終わった世界に響かない。
 一定時間、人に弾かれることのなかったピアノは、世界の終わりに含まれて消失する。
 残念。と、ピアノの残した哀惜の念だけが、少年の頭の中で終わりを回避する。
 少年は歩きだす。
 終わった世界に、存在してしまった自分を、かわいそうなやつと、思ってくれる誰かもいないから、せめて自分で呟きながら。
「かわいそうなやつだよ。終わってしまった世界に、置いてかれたなんて」
 目を閉じて、耳を塞いで、終わりに近づくようにして、歩く。
 終わった世界の、果てに落っこちるまで。
 ああ、なのに、果てより先に少年の体に触れたものは。
「これは、鉄琴だ」
 終わった世界は、音楽を求めているらしい。
 世界を終わらせておいて、音楽を聴かせろなんて、自分勝手な世界もあったもんだ。
 そっちは世界のすべてを奪い去っておいて、求めるのかい。
 少年は二本のバチを持ってみる。鉄琴を奏でてみようとする。
 僕には無理だよ。覚えていないんだ。何も、メロディーを。リズムを。それに、鉄琴が上手なあの子は、僕じゃないし。
 どうして、あの子を終わった世界に置いていかなかったのさ。馬鹿じゃないの。
 少年はバチを手ばなす。音もなく、バチは世界の終わりに吸い込まれて一部分となる。
 僕は誰にも手ばなしてもらえなかったってことかな。少年は、消えたバチをうらやましく思う。
 音を奏でることのないまま、一定時間存在した鉄琴は消失する。あるものは、摩擦のないままでは、ないものに含まれて、終わった世界の部分に収まっていく。
 つれない人。鉄琴の残した惜別だけが、少年の胸の中で終わりを回避する。
「かわいそうなやつだ。弾けないピアノ。叩けない鉄琴。出会って、消えていく。僕は一人でまだ、ここにいる。かわいそうなやつだ」
 少年は歩きだす。次こそ、終わった世界の果てに落っこちて、終わりを得られるか。それとも、また何か楽器にぶつかるんだろう。
 ハーモニカ。少年は、つま先にぶつかった呼吸の楽器を手に取る。目も開いた。
「ハーモニカ」
 少年は、終わった世界で初めて、目を開いてものを視界に捉えた。
 ハーモニカは、何もない終わりの暗闇の中で、光源となって世界に銀色の光りを絞りだしていた。
「ハーモニカ」
 少年が涙を流して、ハーモニカ、と繰り返すと、
「よう、相棒」
 と、ハーモニカが言う。
 少年は、泣きながらハーモニカに返す。
「誰が待っててくれって言ったよ」
 終わった世界で、一番会いたくなかったやつ。
「そう言うなよ。こうやってまた会えたんじゃないか。終わってしまった世界でさ」
 ハーモニカ。僕が、終わっていない世界で、一緒に前借りした命を支払っていた、相棒。
「それは、お前だけじゃないんだぜ。俺だって、毎日支払ってたんだ」
「心の中を覗くんじゃないよ」
「守ってる余裕がないんだよ。暗黙のルールなんか」
「僕は行くよ」
「はん」
「世界の終わりの果てに、落ちるまで。歩かないと」
「わかったよ。相棒」
「わかってくれるか」
「じゃぁ、最後に。あの曲を頼むよ。俺とお前が、コンビになれた、あの曲さ」
「なめんじゃねーよ。僕が、あの曲を吹いたら、世界が戻ってくるとでも思ってんだろ」
「なんでもいーから。俺を終わりの一部に消す前に、頼むぜ。世界の弔いに、一曲捧げても罰は当たらんぜ」
「そんな、甘いもんじゃないぞ。世界を終わらせたのは、僕なんだから」    
「いいから、相棒。もう逃げるものもなにもないんだぜ」
 少年は、相棒を唇にあてがう。終わった世界に稲光が一閃。
 少年は鼻から肺に、勢いよく空気を送り込む。終わった世界に、海が波うつ。
 少年は……。


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このストーリーに関するコメント

17/06/06 待井小雨

拝読させていただきました。
うまく感想が言えませんが、こういった雰囲気とても好きです!
想像の余地のある、美しい作品だと思います。

17/06/06 むねすけ

待井小雨さん
コメントありがとうございます
もっと説明を省いて、観念的にしようか、迷いながら
少年とハーモニカの会話にフォーカスを絞ることに留意して書きました
何度も確認したつもりが、誤字をみつけて凹んでいたので
美しい作品と言っていただけて、元気が出ました

17/06/15 のあみっと二等兵

拝読させていただきました!
不思議な世界観と、楽器が残す最期の言葉だったりが素敵だなぁと思いました。
「ハーモニカ」と何度も繰り返すところがグッときて、最期に奏でられたメロディーがどんなものだったのか想像してしまいました。
ありがとうございました!(*´∀`)

17/06/16 むねすけ

のあみっと二等兵さん、コメントありがとうございます

最後のところで、読んでくれた人の体の中にハーモニカの音がしてくれればなぁと思ってましたので
メロディーを想像してもらえたことが、とても嬉しいです



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