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八王子さん

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あなたの休みを一日ください

17/06/04 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:0件 八王子 閲覧数:416

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 ある日、会社から休暇が言い渡された。
 なんでも今まで有給休暇も消化せずにいたため、上から指摘されたそうだ。
 しかし仕事人間の僕にも、たまの休みの日に運良くと言うべきか予定が入った。
「あなたの休みを一日ください」
 ビルを出た途端そう声をかけられた。
「ちょうど明日が休みですので構いませんよ」
 明日は何曜日だっただろうか。
 俯きながら震える声で呼び止めた彼女は、ぱぁっと花を咲かせるような明るい笑顔を見せた。
「じゃ、じゃあ、明日の朝9時に駅前で待ち合わせ、できますか……?」
 素性を明かさないままいきなりの申し出の連続に罪悪感のような、日本人特有の遠慮のようなものが出たのか、言葉の終わりに向かって不安の色を濃くする。
「はい。大丈夫ですが、僕でよろしいのですか?」
 声になっていないような小さな声で何度も頷く。
「わかりました。それでは明日の9時に」
 ぺこり、と勢いよく頭を下げて彼女は足早に立ち去ってしまう。

 翌朝、9時の20分前に待ち合わせ場所に行くと彼女はもう待っていた。
「どこへ行きましょうか?」
「遊園地! ……に行きたいです」
 迷うことなく彼女はそう言うので、駅で切符を買って目当ての遊園地を目指した。
 朝のこんな時間でも電車が空いているのを見て今日が土曜日だったことに気づく。
 だから彼女は昨日の今日の約束でも応じられたのか、それとも今日というタイミングを見計らって昨日僕に声をかけてきたのか。
 姿勢正しくちょこんと隣で座っている彼女に、失礼だと思い事情は聞かないことにした。

 遊園地の入園券は彼女が持っていた。
 親子ペアチケットというのが見えたが、まあこれも見なかったことにしよう。
「なにに乗りましょうか? ジェットコースターなどの絶叫系は……乗れませんよね」
 身長はどうにか届きそうだが、その単語を出した途端、まるで医者に連れていかれる猫みたいに警戒心を露わにした。
「では、コーヒーカップなどいかがでしょう?」
「うん!」
 正直、僕は絶叫系は平気でも回転系は苦手なのですが、ここは彼女のため。
 土曜日であれ客足はまばら。どんなアトラクションにも待ち時間ほとんどなく乗り放題である。だからってコーヒーカップを3連続で乗るとは思わなかった。
「ちょっと休憩させてください」
 ベンチに体を預けて空を仰ぎ見ていると、焦点が定まらず目玉がぐるぐる回っているのがわかる。
「ヒーローさんも苦手なものがあるんだね」
 彼女が年相応の子供らしい笑顔を見せながら、水筒のコップに麦茶を注いで渡してくれた。
「いただきます。冷たくて美味しいですね」
「お母さんが作ってくれたの」
「そうですか。ところで、ひとつお聞きしても?」
 無言で真ん丸の目を向けてくるので肯定の合図と受け取って質問を投げかける。
「どうして今日は僕のような男を、あなたのようなお嬢さんが遊園地なんかに誘ってくれたのですか?」
「お嬢さんじゃないよ。4年生だし」
 このぐらいの歳の女の子には譲れないものがあるのだろう。
 大人びて見せたい一面と、子供でいたい一面。
「なんで誘ったか……お礼がしたかったの」
「お礼ですか……。そういうのは本来受け付けないのですが」
 珍しい休みとあんな誘い文句だったものだから、ついうっかりしていた。
 社の方針で依頼者から正規の報酬以外のお礼を受け取ることはできない。
「だって依頼じゃ、ヒーローさんに依頼できるお金ないし……。遊園地のチケット、お母さんがお仕事の人からもらってくれたのに、仕事になっちゃって行けないって……」
 言いたいことが整理されず無秩序に吐き出されるが、そのバラバラのピースをかき集めて、足りないピースを補いながらつなぎ合わせる。
「なるほど。そういうことでしたか」
 どうするべきか困っていると、ジェットコースターからではない悲鳴が聞こえてくる。
 反射的に視線を巡らせ、客の何人かが走って来る元凶の場所を見つけ飛び出していこうとすると、左手に触れる小さな感触。
「怪人が出たので僕が駆けつけないといけないのですが」
「今日はお休みでしょ……。いつも忙しいの知ってるから、今日は休んで欲しいの。あの時、お母さんを助けてくれたお礼をしたかったから」
 まるで子供のわがままであるが、今日の僕は休みである。
 困っている人を怪人から救う正義のヒーローにも休日が必要ということなのか。
「仕方ありませんね。休日の僕が今日ヒーローとして働いたら、また上司に怒られてしまいますからね。今日はあなたとのデートに付き合いましょう」
 子供の笑顔を守るのが僕の仕事です。

「さて、今日も世界を救って来ますか」
 困っている人を助けるヒーローに休みなどいらない。
 だってそこにある素敵な報酬が僕を待っているのだから。

(了)


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