田中あららさん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 仏ほっとけ、神かまうな

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17/06/04 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:2件 田中あらら 閲覧数:216

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 愛ちゃんの布団の傍らには、おばあちゃんが付き添っていた。昨夜から熱を出し、赤い顔をして寝ている愛ちゃんを時々心配そうに見て、額の濡れ手ぬぐいを取り替えていた。
 愛ちゃんは目を開け、おばあちゃんがそこにいるのを確かめると「おばあちゃん、ここにいてね」と言い、おばあちゃんが「ずっといるからね」と言うと、また眠りに落ちた。
 愛ちゃんはおばあちゃんっ子だった。大好きなおばあちゃんがそばにいると、とても安心した。

 お父さんは童謡のレコードを12枚買ってくれて、それらは愛ちゃんの寝ている部屋に専用のラックに立てかけてあり、その横には蓄音機が置いてあった。愛ちゃんは蓄音機の匂いが好きだった。油のような機械の匂いがした。箱型の蓄音機には、マッチ棒の先っぽみたいな針が小さな引き出しにたくさん入っていて、お父さんが時々取り替えるのを見るのが好きだった。お父さんは小さい愛ちゃんにもレコードのかけ方を教えてくれた。レコード盤を傷つけないようにそっと針を置くことや、スピードを合わせること、レコード盤を汚さないことなど、愛ちゃんはすぐに覚えた。おばあちゃんは、そんな愛ちゃんを「賢いねえ」と言って目を細めた。

 「おばあちゃん、レコードかけて」と目覚めるなり薄眼を開けて愛ちゃんは頼んだ。「はいはい」と言って、おばあちゃんはレコード盤を手にとり、盤の中央に書かれている曲名を確かめた。二色の電球(豆電球)だけの暗い部屋で、小さい字を読むことは難しかった。おばあちゃんは蓄音機の操作が苦手だったが、可愛い愛ちゃんの頼みは断れなかった。恐る恐る針を置いたら、ブツブツという雑音と共に「シャボン玉」がかかった。

 シャボン玉とんだ 屋根までとんだ
 屋根までとんで こわれて消えた
 
 愛ちゃんは、二階の窓からシャボン玉をとばすところを想像した。大小のシャボン玉が、愛ちゃんの吹くストローから次々と飛び出し、風に流されて青い空に向かってとんでいく。そして、大きく大きく膨らんだシャボン玉が1つ木の枝に落ちて、バチンと虹色の水滴を散らしながら弾けた。驚いて目を開けると、部屋の中にシャボン玉が無数にとんでいた。
「うわー、おばあちゃんすごいね」
部屋の中のシャボン玉は、いろんな色が揺らめきながら、天井にぶつかってバチンとこわれ、電球にぶつかってバチンとこわれ、水滴が愛ちゃんの顔にかかった。どんどんこわれていくのに、シャボン玉は減らない。次々と新しいシャボン玉が、蓄音機から飛び出していた。
 愛ちゃんは驚いて、布団から飛び出した。「すごい、すごーい。わーい」愛ちゃんはシャボン玉と一緒に踊った。手を上にかざして、くるくる回って、シャボン玉を抱えて目をつむった。
 
 愛ちゃんが次に目をさますと「赤い靴」が聞こえた。シャボン玉はきえて蓄音機の上で何かが動いていた。小さな小さな女の子がレコード盤の上に立っていた。「あ、レコードに乗っちゃダメ。傷ついちゃうから」と愛ちゃんは駆け寄った。すると、小さな女の子は愛ちゃんを見上げて笑った。「ね、レコードの上は危ないから、こちらにおいでよ」と手を差し伸べると、小さな女の子は愛ちゃんの手のひらにのぼった。レコードは変わらず、「赤い靴」を歌っていた。
 「ねえ、下に降ろしてくれる?」と可愛らしい声で言ったので、愛ちゃんはそっと畳の上に降ろした。すると、女の子はスルスルっと大きくなって、愛ちゃんと同じぐらいの背格好になった。
「こんにちは」「こんにちは」二人は行儀よくお辞儀をして挨拶をした。愛ちゃんは目を輝かせて、女の子の履いている赤い靴をみた。「あなたは赤い靴の女の子なのね」女の子は寂しげに笑った。「ね、一緒に遊びましょ」「うん、遊びましょ」女の子も目を輝かせた。愛ちゃんと女の子はお人形さん遊びをし、お手玉をし、あやとりをして遊んだ。遊び疲れた頃、女の子が「もう行かなくちゃ」と言って立ち上がった。
 「行かないで」と愛ちゃんは止めたが、女の子は振り返ってニコッと笑うと、蓄音機のレコード盤に吸い込まれていった。

 赤い靴はいてた女の子 異人さんに連れられていっちゃった


「いじんさんって、だれ?」残された愛ちゃんはわけもわからず悲しくて泣いたが、やがて眠ってしまった。

「愛ちゃん、愛ちゃん」とおばあちゃんが呼ぶ声がして、愛ちゃんはうっすらと目を開けた。
「夢を見たの?大丈夫だからね」とおばあちゃんは優しく言った。そして、愛ちゃんおひたいに手を当てて、「あら、熱が下がったみたいね。良かった」と喜んだ。
 「あのね、赤い靴を履いた女の子と一緒に遊んだの。それであの子はどこかへいっちゃった」と愛ちゃんが言うと、おばあちゃんは「そうだったの。でも良かったわね、一緒に遊べたのね」と微笑んだ。


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このストーリーに関するコメント

17/06/07 木野 道々草

夢と現が曖昧で、幻想的で、読者の私も夢心地になりました。「愛ちゃんの夢」が三曲からなれば、もう一曲は「兎のダンス」で読んでみたいです。「ソソラ ソラ ソラ うさぎのダンス」と兎たちと踊るでしょうか。可愛らしく素敵なお話で、読後は想像が膨らみました。

17/06/07 田中あらら

木野様
なるほど三曲あるといいですね。「うさぎのダンス」は楽しそうです。「タラッタラッタラッタラッタラッタラッタラー」ですね。大変嬉しいコメントをありがとうございました。

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