1. トップページ
  2. 学級内末端の僕と彼女の携帯型音楽端末

浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
将来の夢  
座右の銘  

投稿済みの作品

7

学級内末端の僕と彼女の携帯型音楽端末

17/05/24 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:8件 浅月庵 閲覧数:617

この作品を評価する

 園崎静流と僕の唯一の共通点。
 それは、休み時間にイヤホンを耳に入れ、机に突っ伏していることだ。

 だけどその行為だって、彼女は自身の持つ魅力に惹かれてやってくる、同級生たちを遮断するためのものだし、僕の場合は友達が一人もいない寂しさを紛らわすためのものなので、意味合いは全然ちがう。

「ごめん、全部面倒くさいから」
 彼女は顔立ちが整っていてスタイルもモデル並みだったので、高校へ入学して早々“お近づき”になりたがる奴は多かったし、告白する奴だって大勢いた。だけどそれらすべてを、僕からすれば何とも贅沢な一言で一蹴したのだ。
 一部の女子からはブーイングの嵐だったし、実際に嫌がらせも受けたようだけど。それだけでは彼女の価値を下げることに繋がらなかった。態度が悪くても、園崎静流は容姿の美しさだけでそれらをカバーしたのだった。

 ーー僕の立ち位置が底辺のまま微動だにしない、いつもと同じ放課後。
 班ごとの掃除を終えると、僕は教室に戻った。誰もいない空間。机から教科書を取り出す際に違和感を覚える。
 園崎静流の机のなかに忘れ物がある。僕はその正体を確かめることにした。
 
 それは、いつも彼女が使用している携帯型音楽端末だった。

 僕は湧き上がる好奇心を止めることができない。一体彼女は、どんな音楽が好きなのだろう。
 廊下に誰もいないことを確認すると、僕は端末の電源ボタンを押す。
 すると画面には彼女が途中まで聴き、一時停止した「Believer」という曲が表示されていた。
 僕はイヤホンを耳にさすと、再生ボタンを押す。どうやらその曲は、アコギ一本の弾き語りのようだった。

 混じり気のない澄んだ声。音階の幅が驚くほど広い。心に訴えかけてくる歌声だ。僕は腕に鳥肌が立つのを感じる。
 それなのにーー。

 呆然と立ち尽くしている僕の耳から、乱暴にイヤホンが外された。
「何の曲聴いた?」
 振り返るとそこには、園崎静流が立っていた。
「ごめんなさい! つい出来心で!!」
 園崎は端末の画面を一瞥すると、口を開いた。
「どうだった?」
 園崎静流に、曲の感想を求められてる? 真っ先に怒らないのか。
「歌声めちゃくちゃ素晴らしいです! 思わず感動してしまいました。ただ……」
「ただ?」
 彼女は怪訝な表情で次の言葉を待っている。
「コード進行にしても歌詞にしても……陳腐というかどこかで聞いたような気がして」
「うんうん」
 彼女は僕の酷評に対し、素直に頷く。
「これなら僕の作った曲の方が良いと思います!」
 そう口をついた瞬間、僕は自分の失態にすぐ気がつく。クラス末端の僕が自分で作った曲をアピールするなんて、爆笑ものだろう。
 しかも、天下の園崎静流相手だぞ。

「渡辺って、曲作るんだ。良いね、聴かせてみてよ」
「いや、でも」
「自信あるんでしょ?」
 僕が孤独に押し潰されそうな休み時間を乗り切るために作った、身内にさえ聴かせたことのない曲。
 僕は渋々ポケットから自分の端末を取り出すと、彼女に手渡した。

 ーー静寂に満ちる空間。僕は音漏れしそうな心臓の鼓動を抑えつけるのに必死だ。
 たった数分なのに、酸欠になりそう。
 
 園崎はイヤホンを外すと、僕の瞳を真っ直ぐ見た。
「ふふ。渡辺ってさ、歌ヘタだね」僕は園崎静流の笑顔を初めて見た。「でも、めちゃくちゃ良いじゃん!」
「え?」
「私、好きな曲だよ! 渡辺にこんな才能があったなんて」
「本当ですか!?」
「これ一日貸してくれない? 歌詞とか曲調覚えてくる」
「園崎さん?」
「あ、こっちの方貸すからさ。私の作った曲の具体的なダメ出しとか、歌い方の悪いとこ教えて」
「作った? 歌い方?」
「真正面から自分の悪いとこ言ってくれる人、今までいなかったからさ。助かったよ! また明日!!」
 
 まるで台風が過ぎ去った後のようだ。教室にただ一人取り残された僕は、右手に握りしめた園崎静流の携帯型音楽端末を見つめる。

 僕は園崎静流の歌声を再び聴きながら、彼女との別れ際の言葉を反芻した。
 きっと彼女は、今まで自分の容姿が良いばかりに特別扱いされたり、本当は駄目な部分にも目を瞑られたり、中身を見てもらえないことが多かったんだろうな、と勝手に推測する。
 
 だから僕が、失礼ながらにも園崎の作った曲を貶したもんだから、あんなに喜んだのだろう。感情のまま無邪気に笑ったのだろう。

 ......園崎静流は歌手を目指しているのかな。
 僕の批判に怒ることなく、真摯に受け入れていたのは夢に真剣な証拠だ。

 本気で彼女は音楽が好きなんだな。
 その一点だけだったとしても、僕は他人との共通点を見つけられたことが、心の底から嬉しい。

 ーー高校生活で初めて僕は、明日のことを想って笑った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/05/25 日向 葵

浅月 庵様
拝読させていただきました。
クラス内の身分が全く異なる2人が、音楽という同じ世界を共有する中で、お互いの抱える満たされない部分が埋まっていく。そんな思春期の内情の描き方が秀逸だと感じました。
浅月さんの書く、悩みを抱える少年の物語には個人的に毎回脱帽しております。

17/05/25 浅月庵

日向 葵様

学生を主人公にした作品が
好きなので、どうしても青春ものが
多くなってしまうんですよね。(なかなか改善できない)
ただ、大切に描こうと思っていた点を褒めていただいて、
しかも脱帽だなんて、、、舞い上がってしまうくらい
嬉しいです! ありがとうございます!!

17/05/27 文月めぐ

浅月庵様
物語拝読いたしました。
二人の人間関係が音楽を通して変化していく。音楽にはやはり不思議な力があるのかもしれませんね。
「青春」という二字が似合うさらりとした物語に好感を持ちました。

17/05/27 浅月庵

文月めぐ様

普段あまり接点のない人とでも、
共通のバンドや曲が好きだったりで話が
弾むなんて場面が、今までの人生で何度かありました。
音楽の力によって二人の世界が溶け合う様子、
そんな経験を物語に落とし込んでみました。
好感を持っていただいて嬉しく思います。
ご感想ありがとうございました!

17/06/03 クナリ

冒頭からの引き込みがお見事です。
「あっ、これは面白い物語が始まる!」と思わせてくれます。
そして、立場の違う二人の運命の交錯が始まる瞬間、とても読みごたえがあります。
テーマ「音楽」でこういう話が書きたいし読みたいな、という期待に応えまくってくれる良作でした。

17/06/03 浅月庵

クナリさんにお見事だと言って頂けるなんて......
投稿続けてきて良かったです笑
自分でも書いていて楽しかったですし、
「音楽」というテーマは個人的に譲れないものが
あったので、何度も書き直して良かったです。

17/06/20 石蕗亮

浅月庵さま
拝読いたしました。
あーーーーー!!!!!!って叫びたくなるような甘酸っぱいストーリーでした。
私には書けない内容なのでうらやましいです。
中学〜高校にかけて、憧れから抜け出して自分を出し始める時期の描き方がすごく上手くて良かったです!
読後、あー、もう、って煙草に火をつけるくらい面白さとくやしさで心が溢れております。

17/06/20 浅月庵

石蕗亮さま

うらやましいだなんて、そんな......。
なんだか自分にとっての武器ができたような気がして嬉しいです。
青春ものは大好きで、自分でも書いてて楽しいです!
普段より何倍も気合が入ってしまいます。

そんなに褒めていただけると、照れますね笑
石蕗亮さまの、読後の感情が伝わる温かい感想、
これからの励みになります!
ありがとうございます!!

ログイン
アドセンス