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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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正義のみかた(仮)

17/05/22 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:563

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「この書店はなっとらん!」
 小さな『増山書店』の店内に怒鳴り声が響き、レジを担当するアルバイト店員の僕の前にいた客が、びくりと身を震わせた。
 ああ……見るからにガラの悪い男性客が、先程から店長に食って掛かっているのだ。
 自分が購入した落丁本の苦情を述べるのはいいとして、やれ清掃が行き届いていないだの、声が聞き取りづらいだの、段々本筋に関係ない話で店長を責める。
 気さくで優しい店長は「アラフォーでこれ以上白髪を増やしたくないなぁ」とこの前ボヤいていたけれど、大学生助っ人の僕、高井戸良太だって書店の一員だ。劣勢の店長を援護する正義感は持ち合わせている。接客を済ませると僕は意気込んで加勢しようとしたが、店長は手でそれを制した。
 男性はますます吠え、店長は頭を下げるばかり。見守る僕は、次第に気分がもやっとしてきた。落丁にしろ店長が悪い訳でない。こんな理不尽な客に、何故平身低頭なのかさっぱり分からない。
 ……結局後日新しい本と交換することで折り合ったけれど、さすがの店長も疲れた様子を見せていた。営業後のスタッフルームで僕はおずおずと不満を口にした。
「店長。あの人態度悪すぎますよ。こちらの不手際でもないのに……」
「高井戸君、人を見かけで決めつけてはいけない」
 僕はハッとした。店長の声は少し怒っている。
「君もいずれわかるさ。上辺だけの世間の判断がいかに馬鹿げているか」
 店長の味方をしたつもりなのに、何が気に障ったのだろう?しょげかえる僕に、店長は思い直したように「ごめん」と謝った。


 それから何日もしないうちに、今度は『事件』が起きた。
 店長が用事で出掛けていた時の事だ。店内の客はまばらだったが、僕がレジ打ちしていると、一人の女性が落ち着かない様子で入って来た。
 女子大生だろうか、遠目にも清楚なお嬢様に見える。美人だ。大きなバッグを手に提げている。新刊コーナーで本を手に取っているので、何を買うんだろうと鼻の下を伸ばしていたら、女性は一冊の文庫本を、スッと自分のバッグの中へ入れたではないか!
 え……嘘だろ?万引き!?
 僕は突然の事に思考がフリーズした。
 女性は小走り気味に雑踏の中へと姿を消した。本が盗まれるシーンがフラッシュバックする。身の竦んだ僕の心臓が早鐘を打つ。『清楚な女子大生』なんて決めつけたのは誰だ?僕だ。もし見た目通りそうだとしても、万引きをしたのは事実。立派な犯罪だ。
 次に入って来た客も、その次の客にも僕は怯えた。『人を見かけで決めつけてはいけない』、先日店長が言った言葉が耳に突き刺さる。僕は正義感という世間を計る物差しがポッキリと折られてしまい、自信も勇気も失くして酷く落ち込んだ。


「すみません……僕の落ち度です……僕は自分の都合と先入観で、人を見ていました」」
「いいんだ。君は学生だし自分を責めなくても」
 僕が万引き犯に油断したことを店長は咎めはしなかった。むしろ僕が実社会に触れてカルチャーショックを受けたことを気遣ってくれた。
「よくあることなんだ」、いつもは優しい店長の丸眼鏡の奥の目には、険しい光が宿っていた。「理由は人それぞれさ。面白半分で。家や学校がつまらないから。友達の付き合いで。お金がないから。こんなに一杯本があるんだ、一冊位盗んだってどうってことはない……って」
 切羽詰まってもいないのにね、そう言う店長の声は寂しげだった。
「俺は、小さい頃両親を亡くしてね。学校では何かあると俺のせいにされた。分かっているさ、人を疑う事は辛いって。大人はその辛さから逃れるために、俺をスケープゴートにした」
「店長……」
「高井戸君にはそんな大人になって欲しくないんだ。君は正義感が強い。だからこそ、世間の見方にとらわれずに、自分の目で真実を確かめてくれないか?」
 店長は「君を信じてるから」と情けない正義の味方の肩を叩く。すると不思議と頼られている気がして、僕の背はしゃんと伸びた。



 落丁本と交換するため、新しい本が届いていた。
 タイトルは『0歳からの育児マニュアル』。多分、あの男性の奥さんが困っていて、至急に必要だったのにページが抜け落ちたりしていたから、家族のためにあんなにも怒って、イライラしすぎていたんだ……。
「あの」、見ると先日の男性が身を縮ませて、店長の前に立っている。
「この前は気が荒くなって……悪かったな」
 二人はそれから子供の話で盛り上がり、やはり仕事にならなかったけれど、店長が黙って詫びていた理由を知り、僕の気持ちからわだかまりも消えていった。
 人の裏切りを知り、なお人を信じる強さが正義だとしたら、何という茨の道だろう?
 しかしその道の前に、頼れる姿があってほっとした。
 大丈夫、正義の見方は複雑だけれど。
 正義の味方は一人じゃない。


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このストーリーに関するコメント

17/05/23 あずみの白馬

拝読させていただきました。
人は見かけによらずといいますが、正義と相まって良作に仕上がっていると感じました。

17/05/27 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、コメントありがとうございます。

本屋でバイトしたことはないのですが、接客業していると割とあるシーンを題材に、初心に帰り硬すぎないストーリーと語り口を心がけました。正義というテーマはここ最近で一番捉え方が難しかったで、コメント頂けて嬉しかったです。

17/06/20 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

接客業は、いろいろなお客様がいて、大変な苦労があるのだなあと思いました。
最近はクレイマーも多いときくし。日本ではおきゃくさまは神様です、みたいな風潮がありますしね。
でも主人公が店長のような人に出会えてよかったです。

17/07/06 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございました。

普段生業にしている事からこの作品を書きました。お客様は100人もいれば、中には悪い人もいます。しかし悪いようにみえて優しい人もいます。今までで一番自分に近い題材でしたが、共感していただけて嬉しく思います。主人公にはこれからも頑張ってほしいですね。

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