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家永真早さん

ブロマンスやロマンシスが書きたい。 何気ない日常や、日常の中の非日常を書くのが好きです。 http://ienagaworks.php.xdomain.jp/

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魂を輝かせるもの

17/05/22 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 家永真早 閲覧数:236

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 魂を食らう死神、キル子はライブ会場に来ていた。力強く美味しそうな魂を持ち、日々一口を乞いながらも断られ続けている人間、理恵の後を追ってだった。
 理恵は毎週休日になると朝から晩までパソコンやスマホでゲームをしているオタク女子なのだけれど、今日は珍しく朝から出掛ける支度をしていた。訊ねてみたところ、アイドルのライブコンサートに行くのだとぶっきらぼうに答えてくれた。それからはメイクだ何だ、物販時間が何だと慌ただしくキル子を無視して出掛けてしまった。尤も、平日も普段の休日も、理恵からキル子に構うことはないけれど。
 二次元に夢中な理恵の心を射止めたアイドルはどんなものかと、姿を消してキル子は尾行して来た訳だけれど、何のことはない、アイドルゲームの声優たちが出演している顛末だった。
 ライブの開始時間はまだまだ先にも関わらず、会場付近は人間でごった返していた。ほとんどが女性で、隙間なく缶バッジをつけたバッグやキャラクターのぬいぐるみを持ち、キャラクターの等身大パネルやポスターの前で声を上げている。
「尊い」
「あー、無理」
 と両手を合わせ、墓だ何だと言う声も聞こえる割に、誰も彼もそうそう死にそうにない程強い魂の輝きを見せている。
 ちなみに以前理恵も推しと言われる好きなキャラクターを前に、無理だとか呟いていたけれど、キル子がその言葉を聞きつけ、じゃあ魂頂戴と言ったら、他の言葉を使うようになった。
 人間の列が動き、漸く理恵も等身大パネルの前に立った。家を出る時には見られなかった、缶バッジつきトートバッグを肩にかけている。
 パネルを前に理恵は目を細め、ニヤニヤと笑った。両手を合わせて、ため息をつき呟く。
「尊い……」
 それから悶えるように微かに体を揺らし、拳を握った。
「生きる!」
 これが、キル子の前で理恵が使っている、萌え極まった気持ちを表す言葉だ。キル子がついて来ているとは知らないはずだけれど、すっかり癖になっているのかもしれない。何せ、休日は一日に150回は言っているのだから。
 それから理恵がグッズを買い込んだり、ガチャガチャをしてトレーディングに勤しむうちに陽が傾き、開始時間がやって来た。
 今か今かと心を踊らせる人間の前に、ゲームキャラクターの衣装を纏った声優が現れる。歓声と共に、会場内の魂達がいっそう強く輝いた。
 過日の憂いを忘れ、今の瞬間をだけを全力で楽しむ人間達。歌に合わせてライトを振り、声援を送り、涙さえ流してステージから目を離さない。
「お腹空いちゃうわね」
 魂が食糧となるキル子にとって、これほど活きの良い魂に包まれる空間は拷問でしかない。蛇の生殺しも良いところだ。まさに食テロである。画面の向こうに肉汁滴るステーキがあるようなものである。これだけ元気ならば、うっかり一度死んでも生き返れるのではないかとさえ思ってしまう。しかし魂の強さは生への強さで、滅多なことではその強い繋がりが切れ、肉体と魂が離れることはない。死を意識する時、魂は輝きを失う。幸せな死を迎えようと、生へのエネルギーを失えば、他の死者の魂と変わらない。本人も気づかないうちの即死ならば生前と同じ輝きを持っているかもしれないけれどケースとしては稀で、死神界としても大変貴重な魂となり、幻の魂とさえ言われていた。
 生きている時そのままの魂を食らうと言うことは、魂が肉体から離れたその瞬間から叶わなくなる。それはジレンマで、矛盾で、無謀なことに近かった。しかしいずれ、魂の踊り食いをできる技術が発明されることをキル子は夢見ている。
 さて、ライブは佳境に差し掛かる。もうキル子は帰っても良かったけれど、まだ会場内を飛び回っていた。うっかり昇天する魂でもないか、と頭の片隅に過った為だけれど、そう甘い話もないようだった。しかしながらこれほど多数の人間の魂を美味しくできる存在は興味深い。ステージに立つのは生身の人間ながら、皆その声からキャラクターを彼らに投影している。ぜひこれからも人間達の魂の活性化に努めてほしいと共に、キル子自身もすっかり虜になってしまった。
 終わりの時間が近づくにつれ、沸き上がる物悲しさがよく分かる。カーテンコールで、キル子はアイドルの名前を叫んだ。
 その晩、先に帰宅していたキル子に目もくれず、理恵は帰って来るなりパソコンを立ち上げて動画サイトを開いた。今日のライブを生配信した放送をタイムシフト視聴する為だ。買って来たおにぎりを片手に、数時間前のことを見返しては余韻を噛み締めている。
 賑わうコメントに、ふと不穏な文字が踊り出した。
『幽霊いる』
『黒い影見えた』
『照明おかしい?』
『腐女子の生霊w』
 そして最後にはアイドルを呼ぶ不気味な声。
 先程から理恵が視線を送ってきているような気がするけれど、キル子は気づかないふりをした。


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