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瀧上ルーシーさん

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性別 男性
将来の夢 プロ作家になること。
座右の銘 犬も歩けば棒に当たる。

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あがり症のインコ

17/05/22 コンテスト(テーマ):第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】 コメント:0件 瀧上ルーシー 閲覧数:161

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 電車で通勤ラッシュに揉まれながら高校まで通う。
 ぼくの耳には携帯プレイヤーから流れる愛おしい音楽しか聞えない。おかげでやかましい女子高生の会話も、おじさんの屁の音も聞かないで済んだ。おじさん差別ごめんなさい。ぼくは今時月に十枚はCDを買う。中古のだけれど。もうこのご時世それだけでCDマニアを名乗っていいのじゃないかとも思う。猫もしゃくしもスマホを使ってユーチューブで無料の音楽を聴いている時代だ。否定はしないが、CDが昔のレコードみたいになってしまって悲しい。でもレコードだってアナログ盤として未だに残っているのだから、あと百年はCDは普通に使われるのかも。知らないけど。
 お父さんが学生だった頃に流行っていたアイドルソングを聴く。その時代の曲は好きなものもあれば嫌いなものもある。別に最新の曲だってそうだけど。ミニスカートを穿いて踊りながら歌っていただろうアイドルの曲はポップで当時のメインカルチャーだった。そしてたくさんの幼気な学生達の性的な憧れだっただろう。電車が揺れる。トンネルから出て眩しい光がぼくの肌や目を薄く焼く。ぼくの通っている学校がある街は海と商店街の街だった。駅のホームからすぐ近くの海が見えるし、民宿とアーケード街も特徴的な街だった。
 電車が駅に着く。定期を駅員に見せて改札を抜ける。ぼくの耳にはまだイヤホンがささっていた。曲はとっくに変えていて昔ニコニコ動画で流行ったアニメソングを聴いていた。ぼくはアニオタでもある。友達もいないし恋人もいない。音楽と美少女アニメくらいしかぼくを癒やしてくれないのさ。落ち着きもなく常に携帯プレイヤーのタッチパネルを操作して曲を変えていた。
 アーケード街を通り抜け、坂を上りわが校の校門をくぐる。生徒会が服装のチェックをしているので、何か言われると面倒だし左耳を肩につけて右耳を鞄を持っていない方の手で隠した。生徒会的には携帯音楽プレイヤーはよろしくはないだろう。
 そうして教室でまで音楽を聴いていると、授業が始まった。授業中もイヤホンを取らない。そのため、目立たないように今時スケルトンのイヤホンをぼくは愛用していた。でも授業も聞くので、音量は絞っていた。
 図体だけは大きいぼくの席は廊下側の一番後ろだ。潮の香りがして綺麗な海が見える窓側の一番後ろはDQNのリア充の席だった。きっと全国各地で見られるよくあることだ。ぼくのような自称はしないが他人から見てオタクの人間はリア充様には敵わないのだ。
 そうして授業は進んでいく。昼休みも終わり、本日最後の授業は音楽だった。さすがのぼくでもイヤホンを外す。
 音楽的偉人の絵が額縁に飾られている音楽室で、ぼくが在籍しているクラスの男女は三列に並んだ。よくある道徳的な曲を歌わされるのだ。ぼくはさすがにそういう曲は好きではないので口パクをした。
「君、口パクしてるね。喉が動いてないよ」三秒くらいでぼくのフェイクはバレた。
 合唱が中断される。いやに女性的な音楽教師がぼくに1フレーズ一人で歌うように指示した。
 ぼくは上手く歌えなかった。声は裏返り音程も滅茶苦茶だった。こういうとき自分の顔が赤くなることも知っている。クラスの皆がぼくの顔を見て笑った。屈辱だったが、慈悲深い音楽教師はすぐに許してくれた。また何事もなく合唱が始まる。
 ちくしょうちくしょうちくしょう……自分しかいない場所で歌う分には今の百億倍は上手いんだからな。たくさんの生徒の前で歌うなんて何の訓練もしていないガキは普通できないんだよ、できる方がおかしい。
 そうして学校が終わり、いつもの通り昔からある老婆が一人で切り盛りしている今時うたぼんがあってリモコンで数字を入力しないと曲を入れられないカラオケ屋に行った。当然のように最新の曲なんて載っていない。ぼくはそういうところが適当なこの店で、百五十円しかしない缶チューハイを頼み、三杯も四杯も飲んで顔を真っ赤にさせて、大声で昔のアイドルの曲や昔のアニソン、ダブルミリオンヒットした曲を次々と歌った。酔っているせいもあってか自分の歌声に惚れてしまいそうだった。
 突然狭い部屋の外がうるさくなった。酔っ払っていてなんでも来いと思っていると、ぼくと同じ高校の制服を着た、あろうかとかクラスメイトの女子が数人ぼくが借りた部屋に入ってきた。
「君、本当は歌上手いんじゃん。それにこのお店いいよね。お酒も安いし昭和の香りが漂うっていうかさ」
「ど、ども……」
 女物のシャンプーの花のようなとても甘い良い香りがした。逃げ出したかったがぼくはクラスの女子達とカラオケを楽しんだ。人のことを褒める癖して女子達の方がぼくより歌が上手いようだった。ヒトカラではないカラオケをするのはこれが人生で初めての経験だった。できればこのまま童貞も卒業したい。嘘だけど。いや、本音だけど。


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