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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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人さらいの夜

17/05/21 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:718

時空モノガタリからの選評

優しい「人さらい」ですね。誰も罰することもせず自己正当化もすることもしない彼の本質が、両腕がないことに端的に表されていると思います。さらに、「僕」が、祖母に対して優しい気持ちを持ち続けることで後味が良くなっていますね。確かに子供というものは、自分を育ててくれる人間に対して、たとえいかなる人物であっても思いやる気持ちを心の底のところでは持っている気がします。ラストの幻想的な美しい雰囲気は、作品の全体のテイストとマッチしていて良かったです。しかし同時に、この儚い印象から、もしかしたら子供たちの夢であって、本当は現実的な解決策のない問題なのかもしれないという気もして切ない気持ちも残りました。全体として、子供達の優しい気持ち、悲しい気持ち、嬉しい気持ちが素直に綴られていて、自分の子供時代を思い出し、読んでいてホッとする内容でした。

時空モノガタリK

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 僕が失敗をすると、ばあちゃんはいつも「悪い子は人さらいに連れてかれるんだよ」と怖い顔をして言った。
 お味噌汁を零すと僕の頭を掴んで「お前なんか攫われてしまえばいいんだ」と言う。お皿を割ってしまうと「悪い事ばかりして!」と怒鳴る。
 僕は正義の味方が出てくるアニメが好きだった。僕もあんな風に強くなりたい。
 けれどそのテレビもすぐに消されてしまう。ばあちゃんは僕の頭を小突いて「お前はあんなのになれやしない。あたしの暮らしの邪魔ばかりする悪なんだから」と睨んだ。
 
 そしてある日戸口に見知らぬ男の人がやってくる。男の人は手も使わずに持っていた袋を開くと、僕を丸めてその中に放り込んでばあちゃんの家から飛び去った。
 袋の中からでもなぜか見えた玄関の中では、ばあちゃんが「やっといなくなってくれた!」と喜んでいた。
 ねぇ、ばあちゃん。僕そんなに悪い子だったかな。人さらいに連れてかれてしまうほど悪い子だったのかな。
 泣いてもばあちゃんにはどんな声も届かなくて、ぐんぐん遠くなる景色は屋根を超えて街を見下ろして、雲を通り抜けていく。
 再び降りた地上は見た事もない草原で、夜の星が瞬いていた。
 袋の中には僕の他にも丸められた誰かがたくさんいるみたいで、みんなくすんくすんと鼻を鳴らして泣いていた。
 みんな悪い子なのかな。だから袋に放り込まれて、攫われてしまったのかな。
 ばあちゃんは僕を苛めたけれど、僕にごはんをくれて家族として住む家をくれたから、きっと悪人とかではなかったんだと思う。だからそんなばあちゃんを怒らせる僕の方がやっぱり、悪い子だったんだ。
 ごめんなさいばあちゃん。
 袋の中でわんわん泣いた。
「――これ、そんなに泣くもんじゃない。目が腫れてしまうぞ」
 袋の外から優しい声がした。
「だぁれ……?」
「君たちを攫った人さらいだよ。泣くのはおやめ」
「やだよぅ、帰りたいよう」
「そうかい、帰りたいかい。ごめんなぁ」
「ばあちゃんのとこに帰りたい」
 泣きながらそう言うと、袋の口が開かれた。袋を覗く男の人は、見た事のない形の帽子を被り、大きなマントで体を覆っていた。星明かりだけの夜の中、顔は良く見えない。
「おじさんはどうして僕を攫ったの。僕がばあちゃんを怒らせてばかりいる悪い子だから攫ったの」
「そんなことはない。どんなばあちゃんでも好きでいられる君は優しい子だな。良い子だな」
 そう言っておじさんは袋の中の僕に暖かな頬ずりをした。
「じゃあどうして攫ったの。僕帰りたい」
「君みたいに良い子なのに苛められてしまう子を攫うのが私の役目なんだよ。帰りたいよな、ごめんなぁ」
 またふわり、と頬ずりをしてくれる。それが今まで感じた事が無いほどに優しくて、これまでばあちゃんに叩かれきた場所が痛くなくなっていくようだった。
「……僕は悪い子じゃないの?」
「とびきり良い子だ」
 ――ばあちゃんの所に帰りたくて。でももし帰れたとしても、ばあちゃんと一緒にいるのはやっぱり怖くて。
 おびえて固まった心が包まれるように感じた。
 君も――と、僕の隣の丸い光に頬ずりして「たくさん頑張ってきて凄いなぁ」と囁いた。袋の口を大きく広げて、「ずいぶん我慢をしてきて偉かったなぁ」とひとつひとつの丸い誰かに声をかけて柔らかな頬ずりをしていた。
 ……押し潰されそうな気持ち助けてくれるこの人は、もしかして正義の味方なんだろうか。そうだとしたら。
「……ばあちゃんは殴られてしまうの?」
 倒されてしまうんだろうか、アニメに出てくる悪い奴みたいに。
 するとおじさんはくしゃっと笑い――見えなくても、そんな気配がした――、「私は誰も殴らないよ。殴れないよ」とマントを風になびかせた。そこには両方とも腕がなかった。
「私は君たちを攫うことしかできないんだよ。人さらいだもの」
 でも、とても暖かな頬ずりをくれた。初めて良い子と言ってくれた。頑張ったんだね凄いねと、そういう言葉を与えてくれた。
「誰かを救うために拳を振るうこともできないんだ」
「でも、迎えにきてくれた」
「攫ったんだよ」
 困ったみたいに笑う。気付けば袋の中の丸められた子たちは僕とおんなじに落ち着いていて、わたし悪い子じゃないんだ、良かった――とか、えへへ、僕凄いんだって――とか嬉しそうにしていた。
 ばあちゃんの所に帰れないのは悲しい。ちゃんと役に立つ事ができなくて悲しい。でも、もう攫われてしまったから戻れない。
「どこに行くの?」
 また口を閉じられた袋の中からおじさんに訊く。おじさんは地面をぽーんと蹴って高く高く空へ昇る。
「明るい所だよ。次はうんと優しい所にしてあげよう」
 みるみる空の星が近づいてくる。その一つが目の前いっぱいに大きくなって、丸められた僕たちは全て真っ白になって空に溶ける。


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このストーリーに関するコメント

17/06/02 霜月秋介

待井小雨さま、拝読しました。

むしろおばあさんの方が悪で、子供をおばあさんの苛めから護った人攫いが正義の味方のように思えます。
待井さんのお話はいつも心が温まります。

17/06/03 待井小雨

霜月秋介 様
お読みいただきありがとうございます!
今回のテーマは難しく考えていたらよくわからなくなってしまい、何だかえらく抽象的な内容になってしまいました(汗)
心が温まると仰っていただけてとても嬉しいです。

17/06/03 むねすけ

読ませていただきました
攫われた僕たちや、人さらい、が何者であるのかが明確に書かれていないからこそ
込められた思いが淡く心に広がるように感じました
小雨さんの作品は、いつもキャラクターの動きが印象的です、その描写が巧みだなぁと思います

17/06/05 待井小雨

むねすけ 様

感想ありがとうございます。
本当は具体的な「正義」を描けたら良かったのですが、浮かんだのはこんな感じのお話でした(汗)
人さらいなどについてはぼかしたままにしようと決めていたのですが、読む方は何だかわからないだろうな……と悩んでいましたので、むねすけさんの感想をいただけて救われました。ありがとうございました!

17/06/19 光石七

入賞おめでとうございます!
遅ればせながら拝読しました。
人さらいも主人公も優しいですね。攫われた子供たちもみんな良い子。
人さらいが何者なのか明確な説明はありませんが、攫われて子供たちは救われたのでしょう。
安堵すると同時に物悲しさも感じる、美しいラストでした。
素敵なお話をありがとうございます!

17/06/20 待井小雨

光石七 様

お読みいただきありがとうございます。
自分の中では人さらいがどういう存在なのかは考えてあるのですが、読んでくださった方の解釈に任せる形にしてみました。
「善と悪」や「ヒーロー」といった発想での話が浮かばず、違う方面から「正義」を考えてこの物語になりました。
美しいラストとのご感想、大変嬉しいです。
ありがとうございました!

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