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犬飼根古太さん

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「せいぎ」ってなんですか?

17/05/20 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 犬飼根古太 閲覧数:264

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「『せいぎってなんですか?』ってなんなんだよ、まったく!」
 連日に続く会議会議で、子供向けヒーロー番組の制作陣は頭を抱えていた。
「ヤナさん、あんま怒鳴んないで下さいよ!」
 悲鳴のような声を上げて、額に当てた冷えピタを押さえているのは脚本家だ。
「だいたいニイザキ、お前がしっかりとした脚本を書かないから――」
「そりゃ無茶ってもんですよ!」
 冷えピタを取っ払い、張り付いた前髪がよれよれのまま、青白い顔で怒鳴り返す。
「だってコンセプトあっての脚本でしょう? どういったものを作るか、それに合わせて作る……まあ言わば脚本家は製造業の製造者なんです。どういった製品を作るかという計画書がきちんとしてなけりゃどうしようもありませんって!」
「だからそれは――」
「そう、それはだな」
 スポンサー側の代表者の一人も口を挟み、この場にいる三人の声が重なる。
「『わかりやすい正義』だ」

     ■

 そう、この会議室に集まっているのはこの年の四月から始まった新番組。日曜の朝に流れる子供向けヒーロードラマの会議の参加者だった。無論その放映が始まる前にさんざん討論を交わした。
 制作サイドの意見はその時点では実に見事に一致した。

「昨今の子供向けドラマ・アニメ・マンガ等といったものは、あまりにも『複雑』になりすぎている。だからこそ、ここは原点回帰し、『わかりやすい正義』を前面に押し出そうじゃないか!」

 誰の台詞かは今となってはわからない。それくらい皆が口々に、言葉を変え、具体例を異にして、異口同音に語ったのだ。その時の一体感は素晴らしく、会議に参加した誰もが大ヒット間違いなし! と予感したものだ。

 だが――。
 いざ放映が始まり蓋を開けてみれば……。

     ■

「……まさか、『正義』がわかりづらいなんて意見が来るとは……」
 ヤナさんこと柳田は頭を抱えた。
「いや! わかりやすいでしょう!?」
 悲鳴のような声を上げて脚本家が反論する。このままでは脚本家一人に、今回の不手際が押し付けられる。そう予感しているのかもしれない。
「例えば今回のヒーローものでは、自分から悪を名乗るような偽悪趣味の存在は主人公サイドには存在しませんし、賞金首だのお尋ね者だのに主人公がなることもありません。極端な話、悪いことは一切してないんですよ。主人公達は」
 彼が主張する通り、今作の「わかりやすい正義」というコンセプトに則り、決してそこから逸脱したシーンもないし、脚本家の自己満足的な主張を台詞に織り交ぜるなどということもしていない。
 ポイ捨てすらしない。
 困っている人がいれば女子供老人以外でも、積極的に真摯に助ける。
「例えばさあ……」
 議論にあまり積極的に参加していなかったスポンサーサイドの人間が口を挟む。その手には視聴者からのハガキがあった。それを読み上げる。
「四十代主婦からの意見なんだが」

  ひとつ、疑問に思ったことがあります。
  はたして第二話の前半のシーンで主人公が困っている人に万札を貸し出すというのは正しいのでしょうか?

 そのハガキは制作陣の柳田も新崎も読んでいた。三度も目を通したので、筆跡さえ脳裏にまざまざと浮かぶほどだ。「毎週楽しみに見ています」という前置きから本題に入る辺り、筆跡と合わせてなかなかきちんとした人らしい。――らしい、が、そんなことは今は関係ない。

「大人の意見なんて関係ないですよ! あくまで『子供にとってわかりやすい正義を伝える』というのがコンセプトだったはずでしょう?」
「そうだ! ニイザキの言う通りだ!」
 脚本家新崎を柳田が支持する。
「まあ確かに……」
 渋々という様子だったが、スポンサーサイドの原田も意見を取り下げた。
「――だがだからこそこういった意見が問題なんだが……」

  せいぎってなんですか?

 それは実にシンプルな質問だった。質問者は先程のハガキの送り主の五分の一くらいの年齢の男の子。ある意味この作品をもっとも見て欲しい、見てくれるに違いないと思っていた視聴者層なのだ。
 だからこそ、コンセプトが全く伝わっていないのが辛い。この場にいる全員が頭を抱えている理由だった。
 言葉こそ違えど、多くの視聴者、大勢の子供達がこの番組の「正義」がわからないと訴えているのだ。

「やはり哲学的に考えて、正反合といった考え方が必要なんじゃないでしょうか? 主人公サイドにも敵か味方かわからない存在を混ぜるとか――」
「なんだその哲学科を出た自分をひけらかすような意見は! この番組の視聴者は年齢一桁の子供も大勢いるんだぞ!? アンチテーゼなぞ――」

     ■

 ある意味その意見は正しかった。

 このヒーローものには、正義につきものの「憎い敵」がいなかったのだ……。


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