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日向 葵さん

「ひなた あおい」と申します。 小説を書きます。 よろしくどうぞ。 twitter@aoi_himata_21

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スケープゴートの受難

17/05/20 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:89

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「どうして嘘を吐いたの?」
 反省文を書き終えて、職員室から出てきた僕に話しかけてきたのは同じクラスの斉藤だった。
「何が?」
 そう言ってはぐらかそうとしたが、斉藤は誤魔化さないでと語気を強めた。



 事が起きたのは水泳が終わった後の現代文の授業中だった。堅い文章と気怠さが眠気を誘う。そんな弛緩した空気の中、高らかに鳴った携帯の音に目が覚めた。にわかに教室がざわつくと同時、教師の冷めた怒声が響く。
「今、携帯鳴らした奴は誰だ、名乗り出ろ」
 僕の高校は携帯持ち込み禁止だ。授業中に鳴らしたとあらば一ヶ月は没収されるだろう。そんなことがわかっていて名乗り出る奴などいない。教師は次第に苛立ち始め、ついに荷物検査をすると言い出した。幸いにも、クラスで携帯を所持しているのは稀だったので、荷物検査をすれば犯人は絞られる筈だ。
 しかし、僕は検査の前に名乗り出た。それを嘘だと彼女は言う。



「どうして嘘だと思うの?」
「携帯は私のすぐ後ろの席で鳴ったの。でも名乗り出た掉尾君の席は音源から離れ過ぎてた。本当の犯人は清水さんだと思う」
 なるほど、確かにその通りだった。僕は身代わりとなったのだ。
「そうだよ。携帯を鳴らしたのは清水さんだ。僕の席は一番後ろだから、震えながら机の中で携帯を握りしめている彼女が見えたんだ」
 齋藤は僕が犯人を知っていることに驚いたようで、しばらく言葉に詰まった。
「じゃあなんでなおさら名乗り出たのよ、清水さんを庇いたかったから?」
「そんなんじゃないよ。まあ、遠くはないけど…」
 そんな正義感溢れる自己犠牲で携帯を一ヶ月も没収されてはかなわない。齋藤は相変わらず僕に詰問してくる。彼女がこんなにも頑固だとは知らなかった。理由を話さなければ帰してもらえないだろう。困ったことだが、話す他にない。ただ、推論を口上するのは気恥ずかしかったので、齋藤自身に気付いてもらうことにした。

「うちのクラスで携帯を持っているのは誰か知ってる?」
「清水さんと掉尾君、あと千葉さん。でも千葉さんは関係ないわね、現代文の授業サボってたし」
 そう、クラス内で携帯を所持しているのはその三人。千葉はいわゆる不良だ。あくどい手法で金を儲けているという噂が絶えないし、授業もよくサボる。
「でも、なんで清水さんは名乗り出なかったのかしら。真面目で正義感も強い人なのに…」
 斉藤が不思議がるのも無理はない。真面目を絵に描いたような性格の清水は上手くやり過ごそうなどとは考えない筈なのだ。僕が身代わりになるしかなかったのはそこにある。
「清水さんは真面目だ。だからこそ言い出せなかったんだ」
 僕の遠回しな言葉に彼女は少し腹が立ったようだ。斉藤をこれ以上不機嫌にさせるのは得策ではない。恥を忍んで、より直接的な言葉に言い換える。
「清水さんはその携帯を没収されるわけにはいかなかったんだ」
「どういうこと?」
 察しが悪いのも考えものである。
「清水さんは校則に背くようなことはしない。携帯についても」
 あっ、と斉藤は短い声を上げる。清水は携帯を持っているけれど、校則に従って学校には持ってこない。だから、教室で鳴ったのは清水の携帯じゃないし、当然僕のでもない。では誰のか。
「もしかして、鳴ったのは千葉さんの携帯?でも…」
 そう、鳴ったのは千葉の携帯。だがそうすると清水が千葉の携帯を盗んだことになる、斉藤が当惑しているのはそこだ。
「千葉さん水泳の授業には出てただろう?」
 斉藤は頷く。盗んだのは恐らくそのタイミングだろう。そして、理由も。

「ここからは聞かない方が良いかもしれない…」
 僕の前置きがいやに思わせぶりだったのだろう、斉藤は逡巡の後に「聞かせて」と神妙な声を出した。
 同意を確認してから、僕は話し始める。

「千葉さん、更衣室で携帯いじってなかった?」
「いじっていたかも…。えっ?まさか…」
 斉藤は恐る恐る答える。
「清水さんは気付いたんだ。千葉さんが隠れて写真を撮っていることに…」

 斉藤の顔が固まる。

「千葉さん、携帯を持っている男子に女子更衣室の写真を売りつけていたんだよ」
「じゃあ、清水さんが携帯を盗んだのって」
「写真を消すためだろうね。ただ、盗んだのがバレてはいけない。千葉さんがいなかった現代文の授業中に事を済ませ、携帯を千葉さんの机に戻す必要があった。だから、携帯を没収されるわけにはいかなかったんだ」
 学校に告発できれば良かったのだろうが、恥ずかしい写真が証拠である以上そうもいかなかったのだろう。清水の正義感に脱帽する。

「そんな…」

 斉藤がそう言うと同時に予鈴が鳴った。そろそろ教室に戻らなくてはならない。

 清水は上手く事を成しただろうか。

 僕の携帯と反省文が無駄にならなければ良いのだが。


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